表板で、私が【くず】と書いた。
女房が『人のことを【くず】なんて言ってはいけないわ』と言った。
私は即座に答えた。 『俺は、そいつの【人間性】を【くず】と書いた訳じゃない。プロとしての建築屋とプロとしての畳屋を【くず】といっただけだ』
それから次の説明をした。女房は黙った。
古いお宅なのである。90歳を越えるご老人もお住まいである。
たまたま、床がシロアリにやられて、床組を組み替えた。 床の陸など相当ひどく、それなりに施工するように説明した。 現況に合わせてそれなりに施工することが一番難しいことくらい百も承知である。
そこを、懇々と説明した。
案の定上手く納まらないところが出た。 2間半の部屋境の中央部分が、畳が敷居より約5mm弱飛び出ている。 直さなければならない。 それはそれで仕方ない。
そこで、【経験談】を一つした。
このお宅の御主人の診療所を新築させていただいたときのことである。 待合室から診察室関係に入る入り口が全て上吊りの引き戸である。 床にはステンレスの曲げ物の床見切りが入っている。
先生は、つっ、つっ とつま先歩きでそこを何回も往復されていた。
関崎さん、これはだめよ! ご老人はね、こういうふうに歩くのよ これはひっかかる!
先生、でも2mmあるかないかですよ、金融公庫の仕様でも3mmまではバリアフリーと認めていますよ。
金融公庫の基準など関係ありません。此処でだめな物は此処ではダメです。
解りました。床を剥いで、パテを噛ませてやり直します。でもその近辺が少し盛り上がります。 それと、床見切りが曲げ物ですので床材がそこまでピッタリ張り込めません。 シーリングを綿密に施工しますが、少しゴミが溜まりやすくなります。
はい結構です。掃除は私の方できちんとやります。
この方は、こう言うところはきちんと答えてくださる。 要求したことに対して、建物の持ち手側が負うところの負担ははっきり納得して要求される。
情実でうやむやにはされない。
それ以後、私の図面には、そう言うところは、矢印で引っ張って【この散りは限りなく0に近づけること!】と書いている。
このことを、この建築屋にも話して聞かせたのだ。
はい! 勉強になります!
嘘言え! 右の耳から入れて左の耳へ抜いているんだろう。
畳を一部薄くすることは出来ないという。 荒床をもう一度剥いで根太欠きを調整して床を下げる。 再度畳で不陸を調整する。
床は終わった。 大工は全体に少し大きめに下げたのだろう。それはそれで良い! あとは畳に不陸調整材を入れて持ち上げてやればいいわけである。
再度畳屋が入ったそうだ。 見に行ってみると、確かに4枚引違の襖を両サイドに開ききった時の中央付近はほぼ満足のいく状態であった。
ちょっと中央から左に寄ったところが、またまた2o程上がっている。(-_-;)
私の車から千枚通しとカッターを持ってきて、畳を剥いで、不陸調整用のござを端から1/3位の所でカットして、納めた。 綺麗に平らになった。
この経緯で、なんの為に、何故これだけやるのか わざわざ床板まで剥いで再調整して、畳屋まで再度入って
なんで!!! 設計屋が畳剥いで、ござカットして、平らに納めなきゃならんのだ!!!
こりゃぁ プロの建築屋として、プロの畳屋として 【くず】だろう
二度とこんな【業者】はつかわないだけだけど
空間論もいいし、デザインも必要だし。 でも、こんな所がいっと大事な所なんだ
|