まずはこのヘンな写真を見てください。男子トイレのいわゆる朝顔の中にハエが止まっています。これ、じつは実物のハエではなく、本物のように書かれたハエのシールなのです。

男ならだれでも経験があると思いますが、朝顔にこういうのがあると、思わずおのが銃弾の発射方向をコントロールして、これを落とそうと狙ってしまいます。
結果どうなるか。そうです、朝顔の外への銃弾の飛び散りが激減するのです。
アムステルダムのスキポール空港は経費削減のため、男子トイレに目を付けたそうです。トイレの床の清掃費が高くついていたのですが、この1匹のハエの絵のおかげで床の汚れが減り、なんと清掃費が8割も減少したといいます。
笑ってしまいますが、笑ってばかりはいられない人間心理と行動の不思議が浮かび上がってきます。
人間のこうした行動傾向に目を付けた研究(ナッジ理論)はすでに10年以上まえから盛んになっていたと言いますが、私は、かねてからお付き合いのある神戸の塾、ダルボイ・アカデミーで行われた東大名誉教授・月尾嘉男さんの講演(DVD)で知りました。
ちなみに「ナッジ」(nudge)とは英語で、「肘でつついて促す」といった意味があるそうです。
「やはりそっかー」と私が膝を打ったのは、じつは私にも大分まえに心理学者・多湖輝さんから似た話を聞いた体験があったからです。
毎朝のラッシュ時間のバスでのお話。
バスに殺到する乗客は入口周辺で押し合いへし合いになり、殺気立っています。運転手が「もっと奥へ進んで」とか「奥に詰めて」と言っても乗客はなかなか聞きません。
ところがあるとき言い方を変えて、「ずっと奥がすいていますよ」と言ったとたん、乗客は進んで奥に移動し、入り口での押し合いへし合いが解消したというのです。
東京オリンピックの閉会式でのこと。
終了と同時に出口に殺到する客を、少しずつ足止めして混乱を避けるのに、「急がないで」「押さないで」というより、「これから花火が上がります」とアナウンスして、打ち上げ花火を何発も上げたところ、いったん腰を下ろす人、歩を緩めて花火に見入る人など、行動にばらつきが出て、大変スムーズな退出が行われたそうです。
多湖先生の時代にはまだ「ナッジ」の理論は出ていませんでしたが、まさに同じことを言っていると思います。
つまり、人間は「~しなければならない」(義務・強制)と感じる行動よりも、「~したい」(自発・誘導)と思える行動のほうが、抵抗なく行えます。
この理論の実践として、ネットでも以下のような実例が挙げられていました。
いずれも「人間って面白い」と、笑いながらも納得です。
1 ナッジ階段(鍵盤型で音の出る階段を作ったらエスカレーターの混雑が大幅に減った)
https://youtu.be/SByym...2 吸い殻投票機(吸い殻のポイ捨てが激減したとか)
3 つい消したくなる電気スイッチ(ずれているものは本能的に合わせたくなる)
4 ごみ投入バスケット(思わずごみを投げ入れたくなる)
5 団子や焼き鳥の串分類投入箱(自分の分類を知り串の散乱を防ぐ)