No.577 これこれ!この五平餅 投稿者:木器 投稿日:2022年09月20日 (火) 01時00分 [ 返信] |
柏雀さんの五平餅を見て、うらやましくなりました。これですよね、これが五平餅ですよ、もうっ! というのは、このところ田舎に美味しい蕎麦屋を見つけて、けっこう通っているのですが、そこのメニューに五平餅があり、女房は必ずそれを注文します。 ところがです。いつも問題になるのですが、ここの五平餅が「御幣型」もしくは「草鞋型」と言われる平たい型のヤツなんです。名まえも「五平餅」でなく「御幣餅」となっています。
ここのは正直に「御幣餅」と形を商品名にしていますが、中には御幣の形ながら「五平餅」と名乗っているものもあります。大ヒットアニメ『君の名は。』で出てきたのも、「五平餅」と言いながらじつは「御幣」型でした。 これは僕らに言わせれば断じて「五平餅」ではない。五平餅とは、柏雀さんの写真のように丸い円筒形のが3つ(または2つ)串に刺さっていなければならない。 少年時代、家で何回も作った懐かしい味は、この三つ玉・二つ玉型でなければ味わえません。
第一、こんなのっぺりと平べったい餅を串に固定するには、そうとう平べったい串でなければならないでしょう。そんなものは一般の家庭にはありません。丸い餅3個か2個なら、一つずつ順に串に刺せばいいので、割りばしでもなんでも適当な串形のものを使えます。
この串として愛用されたのが、古い番傘の骨に使われていた竹材でした。ぼろぼろになった番傘から骨を外し、骨同士をつないでいたタコ糸などを外したものを適当な長さに切って、これを丸い五平餅を刺す串に使うと非常にぐあいがいい。 だからこのころの家庭の台所には、どこにも傘の骨をばらした五平餅用の串が束ねておいてあったはずです。これは、大げさに言えば伊那谷の食文化のみごとな結晶であり、巧まざる庶民の知恵であったと思います。
ま、みごとな文化の結晶であり巧まざる知恵であっただけに、知らない人が見ると、なんだかわからないガラクタに見えることもあるようです。 うちの女房はこの土地育ちではないので、はじめて田舎のわが家の台所に立ち、茶箪笥の引き出しを開けたとき、そこに半ば焦げたような色をした傘の骨がたくさん束ねてあったのを見て、これはいったい何に使うものかと思ったようです。
しかしそんな彼女も、後になって、竹を輪切りにした型抜きに、半殺しのうるち飯を詰めて丸くまとめた五平餅をこの竹串に刺す作業をやり、それぞれの家庭にあるクルミ味噌の味なども知るに及んで、伊那谷の食文化の軍門に下ったようです。
ま、彼女の場合はこの体験を通じて、五平餅と名の付くもの全般を好きになってしまったようで、丸型の本家・五平餅でなくても、五平餅とか御幣餅とか書いてあればいそいそと買い求めるようです。
しかしもちろん、春の「おこげ」(うこぎ)とともに伊那谷の食の大ファンになった代表の一つが、この本家・五平餅ですから、柏雀さんの奥方のように、デパートなどで見つけたら、やはり「ウチの家計を長年管理してきたものの感覚」を生かしながらも、嬉々として買ってきてくれると思うんですが……。
蕎麦屋にて妻の詠める……(柏雀作本歌取り) 「暑い中 買い求めきし五平餅 御幣だけかと君は問ひけり」
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