前便の続きで、新聞の歌壇・俳壇で気になった作品。
*外国(とつくに)の若衆(わけいし)達の手をかりて裏の河川に橋かかりたり(鉾田市 平元房子、小池光選)
これは20年近くまえ、飯田にログハウスを建てたときのことを思い出させます。 何度か工事現場を見に来ましたが、作業員は全員外国人で、ロシア人もいましたが、ベトナム人の若者が日本語を使い、リーダ―役をやっていました。 まさに「とつくに」の若衆でしたが、この若衆を「わけいし」と読むことがあるとは知りませんでした。 調べてみたら「若衆」をどう読むかという面白い統計があり、「わかいしゅう」「わかしゅ」の系列が一番多く、「わけいし」はほんの1%強、変わっているのは「ニセ」というのがあり、少ないとはいえ「わけいし」の2倍ありました。
読みも含め言葉を知らなかったといえば、次もそうです。
*思い草寂しきその名今日知りぬ(東京都 永井光子、正木ゆう子選) *他人の句をたくさん読めと生身魂(加須市 佐藤貴白草、小澤實選)
まえにも書いたと思いますが、この歳になって知らない日本語が多すぎる。こんなにいい言葉があるのに、それを知らず、したがって使ったこともなく時を過ごしてきた。いつもそれを実感するのが、この歌と句のページです。 と思っていたら、ズバリそのことを読んだ歌がありました。
*人生に卒業はなし卒寿なお解せぬ語ありて古語辞典引く(埼玉県 真下杏子、小池光選)
この作者は90にしてそうおっしゃる、つまりはご自分がいかに知らないかということを知る、ソクラテスの言った「無知の知」をわきまえることが、年とともに減るのでなく増えるというのは、つまりより多くを知ることにより、さらに知らないことが多いことを知る、ということなのでしょうね。
ついでにほかの気になった作品を挙げておきます。おヒマな人はどうぞ。そして、蝶々の俳句も含め、感想を聞かせていただけると嬉しいんですが……。
*摩訶不思議ドレミファソラシ七音で無数の曲の生まれる世界(さいたま市 大塚数子、小池光選) *この辺り食品スーパー激戦区あちこち比べ老いの脳トレ(坂井市 中口洋子、栗木京子選) *青春をあおはると読み最強をさいつよと読む知って損なし(大津市 佐々木敦史、俵万智選) 【評】若い人独特の読み方を、否定するのではなく、興味を持って味わうような感覚に共感した。あおくさいし、つよそうだ。 *表から見えないけれど裏だってきれいでいたいのさ、まつり縫い(堺市 一條智美、俵万智選) *捩花や地を出で空へねぢり立つ(神奈川県 武昭好、高野ムツオ選) 【評】日差しに耐えて野に咲く 可憐(かれん)な捩花(ねじばな)がまるで天を目指す竜のようではないか。俳句は描写力が物をいうと改めて知らされる。 *扇風機止めれば分かる庭に風(柏市 川浪勉、正木ゆう子選)
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