No.848 滂沱 投稿者:木器 投稿日:2023年01月13日 (金) 05時45分 [ 返信] |
こんな漢字、しばらく使ってなかったなぁ、滂沱。 やっぱり音楽の力ってすごいと思う、一昨日のテレビドラマ『リバーサルオーケストラ』を録画で見てのこと。 少女時代に天才ヴァイオリニストとして将来を期待されながら、何か深い事情があってステージから姿を消し、今は地味な市役所勤めをするヒロインが、これまた以前から名脇役として注目していた女優・門脇麦です。
大体、この名まえが野暮ったいですよね、およそスターっぽい艶っぽさに欠ける名で、明智光秀の大河ドラマでも、百姓の娘みたいな時代がぴったりだったような気がします。
ま、それは余談で、この彼女が、もうぜったい人前では弾かないと頑なに決めていた心を次第に開き、ひょんなきっかけからぽんこつオーケストラといっしょに弾くことになる、そして、そうだ! そうなんだ! 私はやっぱり音楽が好きでたまらないんだ! と認めざるをえなくなる、その表情の変化が、新聞評にも出ていましたが、もう何とも言えない見事さで、滂沱、となったわけです。
おまけにそのとき弾いた曲が、ロッシーニの「ウィリアム・テル序曲」の最後、勇ましい行進曲風の盛り上がりを見せる曲で、木器はこの曲に特別の思いがあります。 まだ幼児だった北佐久・岩村田時代に、父がポータブル蓄音機を買ってきて、聞いた唯一のクラシック音楽がこの序曲でした。
戦時中のこととて「愛馬行進曲」など軍歌もありましたが、ある日、レコードを聞いている最中に空襲警報が鳴り、家族全員、防空壕に走ったのですが、多分、幼い木器が「まだ聞くんだ」とぐざったので、蓄音機とレコードをもって壕に入りました。
なにしろ狭い壕ですから、押しくらまんじゅうをするうち、この大事なレコードを誰かが踏んづけてしまいました。そのため、後で何回も聞いた「ウィリアム・テル」は、最初の数分の欠けた分は飛ばし、途中に針を置いてから回転をスタートさせる、独自の演奏となりました。
冒頭の夜明けの静かな雰囲気が、超スローで始まり、やっと所定の早さに落ち着く、その感じが何とも独特の記憶となって残っています。 そんなこんなもいっしょに思い出したものですから、予期せぬ滂沱に拍車をかけてしまったのかもしれません。
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