No.462 夏来る 投稿者:木器 投稿日:2022年07月21日 (木) 05時05分 [ 返信] |
今週の読売俳壇に印象に残る句が三つありました。
*うな重のふたをゆつくりあけにけり(秩父市 中島由美子) 【評】うなぎへの期待を込めて、重箱の蓋をゆっくり開けるのだ。この句の「けり」には、飯の上のうなぎを見ての感嘆も含まれているかも。
*臍(へそ)出しの少女が五人夏来る(高松市 島田章平)
【評】臍を出した少女が五人、ずらっと並んで、これから何か始まるのか。夏という季節の生気がこの少女たちを通して捉えられている。
*遠泳の列に米寿の赤褌(ふどし)(武蔵野市 相坂康) そろそろ土用丑の日とあって、にわかにウナギが恋しくなり、食料品の買い出しに行ったとき、いつもの特売品のラインアップに一つやや値の張るご馳走が加わってしまいました。 しかしこの句のような蓋をゆっくり開けるほどのうな重には、しばらくお目にかかっておりません。 三つ目の赤褌をキリリと絞めた米寿は見事です。たまたま最近、知り合いに同じ年で亡くなった人がいて、お悔やみの手紙と香典を送ったばかりだったので、ちょっと身に沁みました。
問題は二つ目です。この句を読んですぐ思い出す有名な句をご存じの人は多いでしょう。
*おそるべき君等の乳房夏来る 西東三鬼
この句が詠まれた時代は、終戦直後、詠んだ西東三鬼(さいとうさんき)は本名・斎藤の歯科医で、年は50すこし手前の中年だったそうです。 ただでさえ医者の習性として、人体を客観観察の対象にする癖があるところへ、その客観を通り越して「おそるべき」乳房の膨らみをあらわにする薄い服装。そこに本格的な「夏来る」を知らされるとともに、彼女たちのたくましい性と生の力、そして煮えたぎる夏のような時代の変化を感じ取っていたかもしれません。
その点、読売俳壇の句は、あまり性的なものは感じさせず、むしろ屈託のないファッションから、評者が言うように現代の夏の生気をとらえているようです。 三鬼はこの句についてこう言っているそうです。 「薄いブラウスに盛り上がった豊かな乳房は、見まいと思つても見ないで居られない。彼女等はそれを知つてゐて誇示する。彼女等は知らなくても万物の創造者が誇示せしめる」
この「万物の創造者が誇示せしめる」には唸りました。 彼のネット記事を見ていたら、すごく気になる一句がありました。皆さんはどう読み取りますか? 「代々木乗馬会」で詠んだという自注が付いていたそうです。
*白馬を少女瀆(けが)れて下りにけむ
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