No.3014 なぜ?奇跡の童謡 投稿者:木器 投稿日:2025年10月22日 (水) 14時31分 [ 返信] |
コーメイさんが書いてくれた「夕焼け小焼け」のこと。何回思い出しても懐かしい思い出ばかりです。
もう20年近くまえのこと、会社仕事にほとほと疲れ果てていたころ、東京神田の地下鉄出口から出たとたん、夕方のチャイムで流れてきたのが「夕焼け小焼け」のメロディーでした。 聞きなれた曲のはずなのに、なぜかやけにしみじみと胸に迫り、聞き入ってしまいました。いい曲だなー、この歌ってこんなにいい曲だったかなーと感じ、久しぶりに歌ってみたくなりました。
その後しばらくして、東京35会の有志が在郷の仲間といっしょに、中学校時代の音楽の恩師・宮内宏先生に飯田で合唱指導をしてもらうことになりました。 そこでぜひにとお願いして、この歌を練習曲に入れていただいたのでした。 その合唱の発表会のとき、先生が語ってくれたのが作曲者・草川信のことでした。
この曲の楽譜が出版される直前に関東大震災が起こり、楽譜はほとんど焼けてしまった。しかしわずかに残っていた自筆楽譜などから、しだいに人々のあいだに広がり、世代を超えた国民的な愛唱歌になっていったとのこと。 宮内先生は草川信がお好きのようで、この人は長野の出身であり、なぜかわが信州には国民的な歌の作者である音楽家や作詞家が多いとも、話してくれました。
たしかに「夕焼け小焼け」ほか「汽車ポッポ」「ゆりかごの歌」「どこかで春が」「みどりのそよ風」などもある草川のほかに、「カチューシャの唄」「東京行進曲」「船頭小唄」「てるてる坊主」「しゃぼん玉」の中山晋平、「みかんの花咲く丘」「あの子はたあれ」「からすの赤ちゃん」「里の秋」の海沼実など、親しみ深い歌の作者がみな長野県出身です。
もともと、先日も島田坊やさんの縁者ではないかと話題になった音楽教育の先覚者・伊澤修二が高遠の出身でしたし、「故郷」「朧月夜」「紅葉」など作詞家の大御所・高野辰之も信州豊田村の出身として知られ、当時の東京ではこの同郷のそうそうたるメンバーが、よく高野邸に集まって交流していたそうです。
こうした懐かしいいい歌の数々の中でも、なぜか「夕焼け小焼け」は別格的に愛されていて、全国の夕方のチャイムの最多採用だそうです。 第二の国歌とも言われる「故郷」も国民的唱歌ですが、なぜ「夕焼け……」が採用されるのか。
まえにも書いたと思いますが、愛読している草川信の評伝があり、そのタイトルが『奇跡の童謡(うた)』(山内貴美子著)。なぜ奇跡かと言えば、草川自身のことばにこうあります。 「この曲は、故郷の鐘の音に誘われて、口笛でも吹くように自然に生まれた。わしの奇跡の一つだ」
名曲と言われる曲の中には、時間をかけ技巧を凝らして作られたものもありますが、この曲はまるで田舎の夕焼けを見て歩きながら、口笛を吹くように自然の流れの中で出てきたメロディだからこそ、聞く人の耳にも心にも自然に流れ込んでくるのだと思います。
そして夕焼け空の下、まだ遊び足りない子どもたちが、仲間と別れを惜しみながらも、家族の待つわが家に帰っていく、その姿は大人になって、たとえさすらいの途中であっても、帰りたいところを思い出さずにはいられない自分に重なる、そんなところがこの曲の「奇跡」の秘密なのではないか、改めてそんな気がしました。
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