毎週月曜日の新聞歌壇・俳壇。今週は気になる歌が3つありました。
*母のこと「オーイ」と呼ぶな名を呼べと彼氏のできた娘の小言(島根県 重親峡人。栗木京子選)
【評】交際中の相手と父親をつい比べてしまう娘。もし自分が「オーイ」と呼ばれたら嫌だ、と気付いたのだ。一方、作者のほうは小言をもらってどこか楽しそうに見える。
これはこれで選者のことばも納得できますが、私が気になったというか、目にとめたのは、かつて恩人の心理学者・多湖輝先生から聞いた言葉が頭をよぎったからです。
先生は頭の老化を防ぐためといって、いろいろなアイデアを披露してくれましたが、人を食ったなぞなぞやパズルなどの延長で、こんなことを言っていました。 「奥さんのことをオイと呼んではいけません。オイと呼んでいると奥さんじゃなくて老いが来てしまいますよ」 ま、これは先生らしい奥さん孝行の勧めだったのでしょうが、たしかに亭主関白的な「オイ」などはやめて、奥さんの名まえなど若いころの呼び方で呼んでみたら、青春が取り戻せそうな気がします。
あと気になった2つの歌は、違う選者がそれぞれ同じようなテーマの歌を選んでいます。
*本当を装う嘘の多き世にエイプリルフールの嘘っぽい嘘(東京都 武藤義哉。俵万智選)
【評】確かに、エイプリルフールの嘘は、嘘とバレてこそのところがある。いかにもな嘘を楽しみながらの世相批判が、効いている。
*毎日がフェイクニュースに漬かりいてだれも笑わぬエイプリルフール(宇部市 小林千恵子。黒瀬珂瀾選)
この歌に詠まれた情景は、まさにここ数年まえにはありえなかった時代の象徴でしょう。ますますこのウソとまことの区別のつかない状況はひどくなっていくに違いありません。
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