No.2282 藤沢周平作品の映画化ハテナ 18 投稿者: 木器 投稿日:2024年12月01日 (日) 05時35分 [ 返信] |
しかもこの監督・篠原哲雄は、今書いた桐蔭学園の卒業生である。映画の完成二年まえに亡くなった桐蔭学園の創立者・鵜川昇先生に、この映画はぜひ見せたかったと残念である。
進学校としてだけではなく、自前の立派なコンサートホールを作るなど、芸術方面での教育にも熱心だった鵜川先生に、桐蔭学園の理念が、こんなところにも花開いていることを報告したかったのである。
田中麗奈と東山紀之の主演、富司純子、篠田三郎、壇ふみなどの名脇役陣に支えられて、やっとこれぞ藤沢作品の映画であるといえる作品にめぐり会えた。 小滝プロデューサーが言ったように、ほとんど原作のままという、その原作のあらすじを改めて紹介しておこう。(ご存じの方は飛ばしてください)
『山桜』 婚家で夫に死なれた野江は、一年程前に磯村庄左衛門と再婚した。磯村家は、一家を挙げて蓄財に走る家で、野江はどうしてもなじむことができず、しかも出戻りの自分を貶めた夫を拒むようにもなっていた。
そんなある日、後家のまま死んだ叔母の墓参りに行った野江は、美しい山桜を見た。とろうと苦心している野江に、通りかかった一人の武士が「手折って進ぜよう」と声をかけた。それはかつて縁談を断った手塚弥一郎だった。剣の名手と聞いて粗暴な男ではないかと思ったからであるが、目の前の男に粗暴な感じは皆無だった。
桜を手に帰宅した野江はさりげなく母に弥一郎のことを聞いた。まだ独身でいること、茶の湯を習いに行っているときに自分を見初めたらしいことなどを聞いて、胸の奥で何かがはじけるのを感じる野江だった。
そして間もなく事件が起きた。藩の農政に口出しをしては横槍を入れ、富農からの賄賂で私服をこらす諏訪平右衛門を、弥一郎が斬ったのだ。弥一郎は、逃げようともせず、目付けの屋敷に出頭した。
家中では拍手喝采するものが多かったが、野江の夫は「自分が得をするわけでもないのに馬鹿な男だ」とののしった。野江は思わず言ってしまう。「言葉をおつつしみなさいまし」
磯村家から離縁された野江。今日も叔母の墓参りに行った野江は、叔母が婚約者をなくしてから体が弱くなったと聞いて、叔母は幸せだったのではないかと思い当たる。あれから一年、今日も山桜が咲いている。野江は、その一枝を手折ると、獄舎にはいったままの弥一郎の家を訪ねた。
弥一郎の母は、「いつか来てくださると思っていました」と、野江を温かく迎えてくれた。ようやく、自分の来るべき家を見つけた野江だった。
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