No.2260 藤沢周平作品の映画化ハテナ 12 投稿者:木器 投稿日:2024年11月27日 (水) 15時26分 [ 返信] |
しかし同僚の調査の結果は、島村の働きを示す事実はなく、藩主の言葉が決定的だったことが判明する。 これを聞いて新之丞は、島村に決闘を申し込んだ。
盲目ながら、かすかな気配さえ逃さない新之丞の剣に攻められ、島村は気配を消そうと高い柵に上った。 消えた気配を探る新之丞の上から落ちてきた島村の剣を、羽虫で鍛えた新之丞の感覚は逃さなかった。 あわやという一瞬、かつて道場主が伝えようとした秘剣・谺返しかと思える新之丞の剣が反応し、見事島村を討ち果たした。 家中のものは誰も盲目の新之丞が島村を倒したとも思わず、何ごともなくなく過ぎる日々のなかで、新之丞は徳平の勧めで女中を雇うことにした。 やってきた「ちよ」という名の下女は、無口で新之丞に近づこうとはしなかった。
しかし、その女の作る汁の味、おかずの味付け、飯の炊き上がりで、それが離縁した加世であることに新之丞はすぐに気づいた。しかし、そのことを加世にも徳平にも言わなかった。
めったに新之丞に近づこうとせず、台所に篭る加世に、ある日、新之丞は茶をくれと言った。 そして、「今夜は蕨たたきか。去年の蕨もうまかった。食い物はやはりそなたに限る。徳平の手料理はかなわん」という新之丞の言葉を聞いて、加世は一瞬石になった。
「どうした? しばらく家を留守にしている間に舌をなくしたか」と新之丞が問いかけると、不意に加世が逃げ、台所の戸が閉まったと思うまもなく、振り絞るような泣き声が聞こえた。
縁先から吹き込む風は、若葉の匂いを運び、徳平は家の横で薪を割っているらしく、その音と時おりくしゃみの音が聞こえ、加世の泣き声は号泣に変わった。――
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