No.2259 藤沢周平作品の映画化ハテナ 11 投稿者:木器 投稿日:2024年11月27日 (水) 15時22分 [ 返信] |
――三村新之丞は、藩主の食膳の毒見をして失明した。食材の笠貝が古かったのが原因だった。 もはや勤めはかなわず、家禄召し上げを覚悟した新之丞だったが、下された沙汰は、家禄はそのまま養生に努めるようにとのありがたいものだった。
それからすでに一年半、失明をしてからの新之丞は、その他の感覚が鋭くなり、かすかな違いを感じるようになっていた。 その鋭い感覚がとらえたものは、妻加世の不倫のにおいだった。その疑いがはじめて現実のものになったのは、従姉以寧からの情報だった。 以寧は、夫が茶屋町で加世を見かけたという情報をもたらしたのである。
それを聞いた新之丞は、木剣を手に取ると、庭で素振りをはじめた。しかし思うに任せず、木部道場の駿才といわれた男の惨めな姿を知った。
新之丞のかすかな望みが打ち砕かれたのは、それから間もなくだった。下男の徳平にあとをつけさせた結果、相手は新之丞の上司で、女たらしで有名な島村藤弥だったのだ。
その夜、問い詰められた加世は、それが家を守るためだったと泣きながら白状する。わずか三十石の家、何ほどのことがあるとなじる新之丞に加世は、切腹しようとした新之丞を見てどうしても死なせたくはなかったと真情を吐露した。
加世に離縁を申し渡した新之丞は、かつての同僚に、自分の家禄安堵に島村の力があったのかどうかを調べてもらう。 報告に来た同僚は、木剣を振る新之丞の足元に散らばる無数の羽虫の死骸を見て息を呑む。暗黒の視野の中で、かすかに動くものの気配をさぐりあてて打つ修練を積み、鈍磨した感覚が徐々に研ぎ澄まされてきたのだった。
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