No.2248 藤沢周平作品の映画化ハテナ 6 投稿者:木器 投稿日:2024年11月25日 (月) 17時23分 [ 返信] |
前項で山田洋次監督による藤沢作品の映画化に触れたので、その後、三部作となった藤沢周平シリーズの残り二作を例にとって書いてみたい。
まず、『隠し剣 鬼の爪』――。 藤沢作品の中には、剣にテーマをしぼったシリーズ作が二冊、『隠し剣孤影抄』と『隠し剣松風抄』があり、原作の『隠し剣鬼ノ爪』(映画と「ノ」が違う)はこの前者にはいっている。 二冊全部で十七種、秘密の剣法が登場するが、それぞれに「邪剣竜尾返し」とか「暗殺剣虎ノ目」といった名まえがついている。
その中で、本の題名と同じ「隠し剣」という名称がついているのは、「鬼ノ爪」だけである。ということは、この剣は「隠し剣」中の「隠し剣」であるということだろう。 事実、この剣法は、ほかの剣法と違ってほとんど他人の目には見えない。その意味でまさに「隠し剣」の名にふさわしい剣法である。
じつはこの十七種の剣法に私は、創作とはいえ、よくもこれだけさまざまな体の動き、構え、間合いの取り方、剣の扱いなどの工夫ができるものだと、読む片端から惹きつけられ、たまたま通り道に道場があるので、本気で剣道を習おうと思ったくらいである。
山田監督も、三部作のはじめ『たそがれ清兵衛』のプログラムで、はじめて手がける本格時代劇について、「ひとことで云えば制約だらけの世界だった」と言い、人間が生き生きと個性的であることが許されなかった時代だと指摘した上で、こう言っている。
「ということは映像には甚だ不向きな世界になるのだが、ひとつだけ、現代にはないすごい魅力がある。それは刀である。主君の命令とあればいつでも命を捨てなければならないという不気味さである。静かで控えめな日々の暮らしと、その奥底にひそむ刀に象徴された激しさ――という時代劇の面白さを、たくさんの制約を受けいれながら、しかも思い切り表現してみたかった」
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