No.1275 AAさんの思い出 2 投稿者:木器 投稿日:2023年07月11日 (火) 01時22分 [ 返信] |
AAさんの最後の投稿にもあり、くりかえし投稿のたびに案内が出ていた「私が書いた小説」も、また驚くべき力作です。 故郷の飯田地区を舞台に、時代は武士のころから現代へと縦横に飛び交い、どこで身につけたかと驚く該博な歴史・地理・天文などの知識を使いこなすだけでなく、なんと登場人物に、我らが仲間のキャラクターを、その独特のAA節によって取り入れてくれているのが興味をそそります。
もちろん追悼の意味も込めて、改めてお目通しいただくのが一番いいのですが、AAさんの識見と茶目っ気を示すような仲間キャラの部分をすこし抜き出しておきます。『夏風越の』の一節、御前試合に登場する剣士たちの紹介です。
「井伊左門、剣にござる」 痩身中背、およそ剣には程遠く見える武士が境内中央に進み出ると、鯉口を切って静かに大刀を抜き放ち、無言で空を縦に薙ぎ払った。 何事やと見る間に、そのまま御前を下がってしまい、何がなされたのか解らなかった。 しばらくすると、空たかく舞っていた鳶が音を立てて地上に落ちてきたのであった。 なにが披露されたのかと声もなく立っていた観衆がどよめいた。鎌鼬のごとく切り裂いた風の先にあったのは、まぎれもなく今まで空遠く離れて飛んでいた鳶だったのである。
「福島与五郎にござる。弓矢を少々」 柔和な面差しの割には強弓と見える重藤の弓を携えて、次なる者が境内に進み出た。 三十間ほど先に的が設えられ、中間に幅三間高さ二間ほどの板塀が据えられた。射座から直接に的は見えず、板塀の眞中に直径二寸ほどの穴があって、かろうじてその穴を通して的が臨めた。携え出でた矢が四筋、無造作に連射された。 一本目は板塀の穴を通して、二本目は塀の上を越えて、三本目四本目はそれぞれ塀の左と右から弧を描いて、悉く的の中央に吸い込まれるように集中した。
「河尻又兵衛、槍にござる」 脇に掻い込んだ槍は、先に5寸釘が付いているかのように穂先が細長かった。長身である。介添えの二人が左右から引っ張る綱から一尺幅位の間隔で肩の高さ程に糸に吊るされた寛永通宝が並んで揺れていた。 やおら槍を下段に構えると、滑るように体が蟹の横ばいさながらに移動し、その間に穂先が五度きらめいた。風に揺れていた寛永通宝の穴は、すべて槍先に貫き取られていた。
「棚田真吾と申します。写しの技にございます」 その場の緊張感と馴染まぬ位に柔和な笑顔で、小柄な男が場内に立った。 「書状書付、その他目に付く品物を百個ほどを、この場にお並べ下され」 暫くしてその場に広げられた物を一瞥すると、 「もうお取り下げ下されて宜しゅうございます」 言い終わると、すぐに筆を取り出して半紙にすらすらと文字を走らせた。 書状は一言一句の間違いもなく、出されていた品々の品名は、一つの落ちもなく書きとめられていた。
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