No.1122 小説:盃一休 投稿者:AA2Take 投稿日:2023年04月22日 (土) 21時26分 [ 返信] |
盃一休
百神井 応身
(一) 武士はその家禄を従兄弟や縁者にに譲る事で、武士を辞めることができた。つまり武士を辞めるとは、代わりの家禄を継ぐ者を指定する事で可能となった。後は後見人、隠居として武士で居る事は可能であったが、幕府から貰う禄高三十俵二人扶持は変わらない。 つまり実質的に暮らして行けないので、武士を辞めることになる。滝澤馬琴は元武士であったが、武士を辞めて作家になった。 徳島弥紀(みき)は、先祖が遺してくれていた蓄えが500両余あったので、それを元手にして、家を出た。妹の美弥に彼女が嫌がる縁談を親族から強要されるのを拒みたがっているのを知ってのことであったが、美弥は武家から出て町方に住む自由さを喜んでいた。 本所近くにある長屋住まいは、毎日が賑やかで、時には紛争になった。 争いごとは声の大きさがものを言う。暴力沙汰にまずは優先するのである。ある日徳島が外出先から帰宅すると、盃ほどの大きさしかない一休禅師のような風体の男が、庭箒のようなもので、揉めている者たちを掃き出そうとしていた。 そこに徳島が現れたのであるから、騒ぎは一気に収まった。そうなってみて徳島が気づいたのは、その一休さんのような姿の者をこれまでに見たことがない。 「いずれにお住まいか」と尋ねると、指さすのは徳島の家の玄関先の小さな窪みであったり、隣の家の窪みであったりした。 「して、お食事などは如何なされておいでか」との問いかけには、懐から取り出した盃を指し示し、「一日にこれ一杯あれば十分なので、困ることはない」とのことであった。 「左様でござるか。しからば時分時でもござれば、当家にて昼飯をなされよ」と薦めた。 そろそろ妹の美弥も帰ってくる頃でもある。
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