No.1103 「生きているだけ」 投稿者:木器 投稿日:2023年04月19日 (水) 15時19分 [ 返信] |
続けざまにすみません。今週の新聞歌壇俳壇で、野球の歌以外に、2つ気になる作品がありました。 一つはこれです。
*ただ生きてゐるだけ 蚯蚓(みみず)も見る吾も(川口市 高橋まさお)
【評】みみずの生と、それを見ている自分の生とを、比べているのがおもしろい。それほどまでに純粋に徹して、生きているということか。(小澤實選)
生きている「だけ」に、どのような思いが込められているのか、がじつはこの句のポイントだと思います。 よく「一寸の虫にも五分の魂」と言いますが、これは小さな虫を尊重するようでいて、そんな虫けらにもという、人間のおごりが感じられないでしょうか。 この句はその境地を脱していると思います。自分もミミズと同じように生きているだけ、その生きているだけという点においては、ミミズも自分も同じであるという、一種の開き直りのようなものが感じられて、潔い感じがしました。 ミミズが生きているのと自分が生きているのを同じ価値観でとらえてこそ、生きていることのすごさや貴重さが捉えられるのではないかと思いました。
もう一つは次の歌です。
*その論に反撥しつつ義務として読みし大江にさよならをいふ(稲城市 山口佳紀)
【評】大江健三郎ついに逝く。小説家の枠を越えた、大きな影響力のある思想家だった。義務として読むという読書がある。
遥か彼方の思い出になりますが、若かりしころにはこの歌に言う「義務」で読む本がありました。 あるいは、「義務」とはちょっと違ったかもしれませんが、何かさっぱり面白くなかったりわからなかったりする作品を、名作と言われたり問題作と言われたがために、さもわかったり面白そうな顔をしたりして読もうとした、そんな青臭い時代がありました。 大江もその中の一人でしたが、ノーベル賞ほかのたくさんの称賛を受けている人なので、あまり大きな声でわからないとかあんまりどうもとは言えないまま、来てしまったのです。 映画で大変権威ある賞を取った作品を見て、大勢の中で「あーあ、面白くなかったー」と大声で言えた赤塚不二夫さんを尊敬するのは、そういうふがいない自分がいたからでした。
もうあまり残りが多くない人生ですから、我慢して面白くないものを読もうとは思いませんが、ただ、来年の大河ドラマになる紫式部・源氏物語については、このところ主演女優の熱心なファンになっているので、白状すれば今までの不勉強を取り返すべく、一度は読んでおかねばかなーと思っている次第です。
|
|