| [997] 君の道と僕の道第8話 |
- 白瀬 - 2005年10月21日 (金) 12時58分
RES
「馬鹿者!なぜあのような人間を連れてきた!!?」 エルクの父、エルメスの声が村中に響いた。 これはしょっちゅうあったことで、村のいい名物でもあった。 エルクはエルメスを睨みつけると、 「こいつと普通の人間を一緒にするんじゃねぇ!」 と言い放った。 その声の大きさは計り知れないもので、 耳栓をしていてもしっかりと聞けるくらいだった。 「だいたいなぁ、俺がそう簡単に死ぬかっつーの! 俺は…あいつの代わりに長いこと生きるって決めたんだよ!!」 「何時の話だ!?」 「たった今だ!!」 その言葉に村中の人間が固まった。 エルメスはため息をつくと、ロイに目を向けた。 「お前、軍の狗か?」 「狗って言うんじゃねぇ!ロイは俺のボディーガードだ。」 「ふんっ、こんなひょろひょろの男に何が出来るというんだ。」 エルメスの言葉にロイの顔が引きつった。 それを感じたクロスは、「落ち着いてください。」とそれをフォローする。 そして、この喧嘩は明日まで続くことを説明した。 「つーか親父!あんたはいつまでもふっるーい仕来り気にしてるんじゃねぇよ。 だからあんたはいつまでたっても外に出られないんだよ。 一生死ぬまで外の景色や愛に触れることなんて出来ないんだよ!! それに、母さんが死んだことだって、あんたが助ければ母さんは…!!」 「エルク!!」 クロスは鋭い目でエルクを睨みつけていた。 それでエルクははっとする。 これは、ヴェイツェル家ではタブーだったのだ。 「…悪かった。俺……」 「気にするな。お前はもういい。この村から出て行け。」 「父上!」 「その男と…幸せにな。」 エルメスはそう言って奥の部屋へと入っていった。 もちろん、誰一人追おうとしなかった。 いや、出来なかったのだ。
*
「すみませんでした、ロイさん。 見苦しいところを見せ付けてしまって。」 「いや、構わないよ。」 「…ロイさん、エルクを…妹を頼みますよ。」 クロスはそう言ってロイ達を見送った。 村人もその大きな二つの背中を見送る。 これから起こる、悲しみへの道を二人は辿っていた。
|
|