| [940] 死神の錬金術師 【番外編・13】 |
- ナヒ - 2005年09月27日 (火) 23時13分
RES
まるで、いつでも側に居たような気さえしていた。 もう少し大きくなったら、絶対見つけると、決めていた。
けれど。
今はもう、君は何処にもいない。
【番外編12】 〔また、その手で〕
1度は、復興なんてもう無理だと思っていた。 未だ焼け焦げた後のある、ヘルダ村だけども、俺達の予想を裏切って元に戻ろうとしている。 訪れる数少ない人々の中に、ここで暮らそうと言う人たちが現れて。そうしてまた、家が並んで焦げ後は無くなっていく。 今ではもう、ほぼ元の通りだった。
「――まさか、こういう風になるとはねぇ。」
部屋の窓から、懐かしい賑やかさを見つめていた俺に、ユウタが声を掛けてきた。 振り返って、同じ顔をした兄の微笑みに「まったく。」と返す俺。
「すげぇよな。噂だって結構、広まってたはずなのに。」
そもそも、ヘルダ村はある1人の軍人によって小さな内乱が起きた。 内乱――と言っても、それは一夜足らずの一瞬の物だったし、そんなに兵も武器も用意せずとも終わるような物だったけど。 予告なしに起きたそれに、村の人達は成す術も持つ武器もない。だから、殆どがやられた、という感じだったんだろうな。
その、ある1人の軍人というは――
「・・・結局は、この森が助けてくれてるんだよ。」
今でも蟠りの残る事実に、ユウタは苦笑いに笑みを変えた。 確かに、そうかもしれない。
例えどんな事があろうとも、この森はいつも助けてくれた。 そりゃあ、迷宮の森とも呼ばれてそうだけど。 実際、この森のお陰で、他で10ありそうな事件もここでは5以下となる。
守って、くれてるんだよねぇ。
「・・・みんなも、くればいいのにね。」
一緒に外を見て、兄はそう言った。 それに俺は「バーカ」と悪口を投げかける。当然、相手はムッと不機嫌になったわけだけど。
「みんなから、俺達が誘われたんだろーが。」
ここにまた、2人で暮らすと言った時、周りは口々にこちらに来いと言った。 ある時はセントラル。ある時はリゼンブール。 仕舞いには東の島国。 そんな遠くにも行きたくないし、ってか言葉通じねぇし、とにかく俺達は断った。
そりゃあ、みんなの気持ちはありがたかったけどさ。 ・・・・どうなっても、ここが俺達の故郷である事に変わりは無い。ここには、母さん達の墓があるから。
――義父さんの、墓も。
「・・・そろそろ、行こうか。」
ここでじっとしてる暇は、ない。 いや、そんなに忙しいわけでもないけどさ。
「んだな。」
家を出て、まっすぐ右に向かった所。 少し村とは離れた場所にある、墓地。 多くの墓があった。 見てくれの物だとしても――前の、村の人たちの墓を作ったんだ。
その中で、三つ並んだ『カーラング』の墓。 婆ちゃんと、母さんと、義父さん。 セントラルまで行って、買って来た花を置いて。
そして、もう1つの墓。 ――少し、離れた場所に作った墓だった。きっとあいつの事だから、この方がいいのかもしれない。
「・・・こいつはさ、この花でいいよな。」 「そうだね。――この花が、好きだった。」
添えた花は、この辺に咲く、ごく有り触れた花。 けれどいつは、この花が好きだったんだ。
『シホ・ダナレス』
義父さんの実の娘で、俺達の血の繋がらない姉であり、
――ヘルダ村に軍を通した者でもある。
別に、恨むとかそんなのは感じなかった。 確かにショックだったけど・・・何でだろう。自分でもよくわからない。
ある時、俺達の前からいなくなって。 見つけた、と思ったら、いろんな事情があったり。 俺達の事、『知らない人』扱いだったし。
知らないうちに、実は死んでて、生き返ったとか何とか。 よく解らない事になってたんだ。
まだ、何も理解なんて出来てない俺達に、あいつはさらに――
『シホちゃんね――いなくなっちゃったんだ。』
数ヶ月前、突然やって来たナツミから言われた。 一瞬、何の事かさっぱりだった。
『シホちゃんがいなくなって、コール・・・あたしの弟やマナの弟達とかが、戻ってきた。――わかるよね?』
真っ白になった頭で、何とか回転を進めた。 わかる。わかるけど。
『・・・最後に、言ったんだよ、あいつ。』
――もう、うちは死んでるんだ。
――だから、流れを元に戻す。・・・それだけの事さ。
―――俺のこと、忘れてくれてもいいから・・・・
忘れない。
忘れない。
忘れられない。
隣の部屋で、ユウタも同じ事を考えているんだろうか。 双子って、何かと考えてる事が似てるって言うし。
いつも、夜になると思い出すんだよ。
昔の思い出とか。 お前の事。
確かに、流れに逆らってるのはどうかとも、思うさ。
でも。
何でお前が、消える必要があるんだよ。
もっと他に、考え付かなかったのか。
昔と、同じだ。
何でも自分1人で決めて。 その癖、それに自信を持つことは少なかった、あいつ。
ホント、自分勝手だよな。
月光が差し込む部屋。 ベッドの上に倒れこむようにして、眠ってしまっていた。 そんなユウマの前に、何かの影。
薄くぼやけたような影は、彼の眠るベッドに腰掛けた。
重さはない。軋む音も鳴らない。
見詰める影の視線は、優しいが悲しい。 そっと、手を伸ばす。
『――これでも、すっごい悩んだ方なんだぞ。』
直接、耳に入るような声ではないが、聞こえた声。
『反省もさ、してる。――というより、お前たちがここまでなるとは、思わなかったよ。』
伸ばされた手は、彼の赤茶のくせっ毛を撫でる。 透き通る、手。
『――――――ごめんな。』
こんな形で謝るのも、何だけど。
『ちゃんと墓、「ダナレス」にしてくれたんだなぁ。』
てっきり、「カーラング」になると、思ってた。
『これからは、2人で頑張れよ。』
辛い思いをさせてしまったけど、元々自分は、死んでいた身だ。 いつかは訪れる事だった。
己の存在で乱した物は、己で直さなければ。
結果は、これだ。
『お前たちなら、きっと大丈夫だから。』
だって、
『俺の――弟はそんなヤワじゃないって、信じてるからな。』
―――ホント、ごめんな。
目を、開けて。 その時初めて、寝てしまってた事に気づいた。 辺りはまだ真っ暗で、時計は深夜の2時だ。
起き上がって、辺りを見回す。
誰かが、頭を撫でてくれてた気がする。 俺、よく寝ぼけるけど――今日のはいつもと違う。
・・・シホ・・・?
昔、不覚にもおんぶとかしてもらった事もあった。 そして――頭も、撫でてくれた事もあった。
照れくさくって、あの時は反発したけど・・・。
あいつがいなくなって。 実際、少しだけ、また頭を撫でてもらいたいかな、と思っていた時は何度もあった。
人間、無くなった時に初めて、その大切さを知る。
だから、もう無理だと思い込ませていたのに。
――ごめんなって。
―――頑張れって、言ってた。
少ないその自信が、確信に変わったのは、部屋のドアを兄が開けた時。
兄も、同じ様な体験をしたと、言った時――
この世界が、まだ平和と言えた訳じゃないけど。 少なくともヘルダ村は平和と言えるだろう。
というより、あいつが『頑張れ』って言ったから・・・頑張るんだけどさ。
言われたら、仕方ないさ。
―――あいつ、母さん達と仲良く、出来てるのかな。
番外編12 END
本編へ続く

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