ss ハレバレとしたハゲと曇り空 |
|
ぽっち [ Home ] [ Mail ] |
灰色の雲が空一面を覆って、どんよりと寒い昼下がりだった。 パトカーの窓越しに、一瞬とらえた、大き目の背中が、人違いだった事に安堵して、土方は、シートに背を埋めると深い溜息を吐いた。 運転席で、原田が、やれやれと言いたげな笑い声を漏らす。ジロリと睨みつけると原田は苦笑して
「何かあったんですか?さっきから」
と、言った。
「近藤さんの頬の傷知ってるか?」
「ああ、姐さんにまたやられたとかいう?」
近藤が頬に大きな絆創膏を張って、皆にからかわれていたのは3日前の事だ。頬のほとんどを覆う不恰好な絆創膏のお陰で、近藤が怪我した事を知らないものは屯所にはいない。
「それが、どうかしたんですか?いつもの事じゃねーですか?」
土方だってそうだ。いつもの事だと思っていた。土方だけじゃない沖田も
「そのうち骨格から面相まで整形されちまうかもしれませんねィ」
なんて真顔で言って、近藤をからかっていた。
その間、近藤はいつものように笑って、「いやー面目ねェ」と言うだけだった。
「刃物傷だったんだ」
「・・・それって」
「それだけだ」
窓の外では、寒そうな風が、街路樹の枝を揺らしていた。 雨が降りそうなわけでもないのに、空はどんよりと重たく街はいつにも増して灰色だった。
近藤の傷を手当した隊士が、その事を土方に報告しに来たのは今朝の事だ。別に口止めされたわけではないのだと前置きして隊士は、近藤の傷が、間違いなく鋭利な刃物による傷だったと言った。局長本人が勘違いを訂正しないので、迷ったが、大事な事のような気がして、気になったので。
土方はまた溜息をついた。 その報告を受けた時、近藤はとっくに出かけてしまっていた。 近藤に悪気は無い。近藤が悪いわけでもない。 近藤を責める気は無いが、土方は、ただ、歯がゆい気持ちになった。 彼が、隠しているわけではなく、ただ自然にしているので、見落としてしまっている昨日が沢山あることを薄々は感じていた。その一つ一つに注意を払っていればノイローゼになってしまうので、そんな事をするつもりは毛頭ないが、それでも、気落ちぐらいはさせて欲しい。
原田が黙りこくったので、車の中は急にしんとした。 傷の事を打ち明けたのは、原田が、芋道場時代からの古参だからだ。 近藤の変わらない性格を、肝に銘じている人間でないと、共感し辛いものがあるからだ。
数分の沈黙をはさんで、原田は、うーと唸ったかと思うと、パッと顔をあげた。
「やるなァ局長」
「・・・お前な」
予想に反して、原田が真に感心した声を出したので、土方は肩透かしをくらった気分だ。
「だって、みんな騙されてたっつー事でしょ」
「だから始末が悪いんだ」
自分の立場と命をなんだと思ってるんだ近藤さんは。
それを思うと土方は、苛立った。 懐に手を伸ばす。
「車中禁煙っスよ」
「・・・・・・」
苛立ちを隠さずにまた睨みつけるが、運転席の男はまったく気にした様子も無く、平然というよりもむしろ晴れ晴れとした顔をしていた。土方は、溜息をつくのもアホらしくなって、窓の外に視線を向けた。
相変わらず、空気は重たく、外は寒そうだった。 突風に、眼をつむる人の様子を見ていたら、ふと、去年の今頃、自分も怪我をしたな。と、思い出した。
「そういう副長だって、いっつも怪我して帰って来たら黙ってんじゃねーですか?」
「ほっとけ。俺はいいんだよ」
土方が、去年、辻斬りに襲われたのも確か、こんな寒い秋のどんよりとした日だった。 妙な話のように聞こえるが、土方は、辻斬りに襲われるのが嫌いじゃなかった。剣の腕をあげるには実践に適うものは無いからだ。 その時も、もちろん、返り討ちにしてやった。さして手ごたえの無い連中だったが、不覚にも、左肩に些細な傷を負った。 原田が、言っているのはその時の事だろう。まぁ、その時に限らず、土方は、小さな傷などは、自分で処理してしまうのだが。
「ま、土方さんと沖田さんには局長がいるからいいんですけどね」
「なんだよそれ?」
聞き捨てなら無いと思って声が少し大きくなったのは、思い当たる節があるからだった。どんな怪我もなぜか近藤にはちゃんバレているのだ。
「前に、言ってましたぜ近藤さん。トシと総悟は強がって隠すからすぐわかる。って」
眉を寄せた土方の顔を見て、失礼な事に原田は笑う。
「やっぱなんだかんだ言っても結構カッコイイッスよね。局長」
原田は、やっぱり晴れ晴れとした顔でそう言い、土方は、シートに身を沈めた。
フロントガラスに映る空は、鉛色に曇っている。
------------------------
お題「知らない昨日」
「十の不安」:お題配布元水の魔女 別館 sama
|
No.459 2008年11月03日 (月) 13時48分 |
にゃんぷ |
ぽっち [ Home ] [ Mail ] |
納得。
そうやんね、沖田総悟やもんね。 ああ、
って騙されたわ!読者もきっちり騙されたわ! ひろくんアホなことやってないで学校いきなさい!!学校!
|
No.460 2008年11月03日 (月) 13時59分 |
|