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椅子視点 九州行きの長距離夜行バス、車内に並ぶ4列シートの内の一脚が私である。ほんのりと銀木犀の香りがする、かなり質の良い椅子だ。 このバスとは生まれた時からの付き合いだ。10年も客席をやっていると、色々な事が起こる。 今日は私の上に座るはずの男が大遅刻、やっと現れたかと思いきや「あたかもしれない」と一声、新顔の運転手も呆れている。 先にも言ったがこのバスは4列だ。この男は固い私の座り心地に憤慨しているかもしれないが、私の方も脅威の体重に背中が痛む。 それでも到着するまで静かに座っていてくれればいいのだが、ここで泥だらけのサッカーボールが登場。 上からボロボロと泥やら砂やらの破片が降り注ぐ。椅子の私だが、隣の女性に申し訳ない気分になる。 私の体が泥だらけになった頃、ようやくバスがSAに到着。ドアが開けられ、新鮮な空気が舞い込む。 私の乗客の男も下車した為、暫くの休息を味わう。男はまたしても集合時間に間に合わず遅刻しているが、少し嬉しいのは椅子失格だろうか。 バスも再びエンジンを回し、急ぎ足に九州へ走り出した安堵感も束の間、上から異様な臭気と共に凄まじい声が聞こえてきた! 「もぉダメだと思ったことがあたかもしれない!!我慢できないと思ったことがあたかもしれない!!漏れちゃうと思ったことがあたかもしれないィィィィィ!!(ブリブリブリドバドビュパッブブブブゥ!!!!!ジョボボボボジョボボボ!!!!!!!ブバッババブッチッパッパッパパ!!!!!!」 こうして私は、椅子としての長い生涯を終えた。 |