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40歳戸部くん視点 思えばあれから様々な事があった。教科書に載ったばかりに、見ず知らずのガキに顔面に落書きされたあげく言動を真似され、madが作られ、ホームページを勝手に作られ、ボール磨きの仕事も壊滅的。 一体どこだ。バラ色だったはずの人生が狂い始めたのはどこだ。記憶を辿り考える。そして、鯨の雲の形をした悪魔に魂を売り渡し、二度と元の時代に戻れないことを条件に、あの日まで時代を遡った。 2012年3月18日、バスターミナル。中々発車しないバスに乗客が苛立つのが手に取るようにわかる。そんな中、バスに近付く男の影。能天気に鞄を抱えてやってきた男。 来た、俺だ。ウッキウキで家を飛び出し、節約もかねてなどと余計な考えを起こして深夜バスに乗り込んだ2年前の俺。聴き慣れた声に乗せて、あのセリフが聞こえてくる。 「あたかもしれない」何があたかもしれないだ。お前はこれからずっと、中学校のガキ共に付きまとわれ続けるんだぞ。あたかもの意味も知らないを知らないガキ共に。 そしてバスが走る。すると、やはり聞こえてきた紙袋を漁る音。直後に漂う泥の香り、わかっていてもたまらない。今改めて第三者として見ると確かに迷惑極まりない行動だ。予め持ってきた長靴を磨いてやりすごす。 バスはサービスエリアに到着。今だ。俺がここに来た目的、それはサービスエリアで食べながらボール磨きをしている俺と入れ替わり、あの日の惨劇を回避することだ。そして教科書会社からのオファーを断り、人生の軌道を戻すのである。 目の前で五個目のサッカーボールを磨きはじめた男の肩を掴んで倒し、素早く手を後ろに縛る。そしてサービスエリア内のトイレに閉じ込めた。お前はそこで一生あたかもと言ってろ。俺がこれからを生きるんだ。 バスはトイレ内の2年前の俺を残して出発。完璧だ。一世一代の偉業を成し遂げた達成感に包まれる。しかしほっとしたのも束の間、俺の腹部に異変が起きた。食後に激しい動きをしたためか、腸内がめまぐるしく蠕動する。 このままでは俺がここに来た意味がなくなってしまう。お願いだ!静まってくれ!俺は生まれて初めて主に心からの祈りを捧げた。 「もぉダメだと思ったことがあたかもしれない!!我慢できないと思ったことがあたかもしれない!!漏れちゃうと思ったことがあたかもしれないィィィィィ!!(ブリブリブリドバドビュパッブブブブゥ!!!!!ジョボボボボジョボボボ!!!!!!!ブバッババブッチッパッパッパパ!!!!!!」 齢40にもなる男の奇声が福岡行きのバスの中でこだました。 |