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[8] ハーレムコンクルード 第一章 全面対決 ⑤
陣 - 2025年09月20日 (土) 21時23分

 (…レナス三姉妹…)

 自分たち四兄弟と比較して、プリシウスの口に苦笑が浮かぶ。

 (比較にならないよなあ…)


 英雄オグミオスの遺児。軍略の長女イヴゥン。魔道の次女オーフェン。武闘の三女アーリー。通称レナス三姉妹。

 前山麓朝国王シャリアスの擁立以来、多大な功績を挙げ続けていたオグミオス。それに対しシャリアスから世話された王家の連枝を母に持つ三姉妹。
 いずれも当代きっての一流と早くから評価され、当然に縁組も注目されていたが、オグミオスへの処遇の悪化もあり、立場的に微妙になっていたとも言う。
 一説では、次に山麓朝の国王となる王太子時代のシリウスが宮廷勤め時代のオーフェンに粉を掛け、それを拒絶されたのが発端だったとも。

 そしてオグミオスの不遇の死後、なんとその三姉妹全てを同時に娶り、レナス家の当主となった一人の男が歴史に登場する。
 その名はバージゼル。幼い頃にオグミオスが拾った戦災孤児だと言われるが、素性は不明。
 なんとそんな彼がオグミオスの遺言と、三姉妹全てからの求婚でレナス家の当主となってしまう。
 もっとも血族としての家督はあくまで三姉妹が分有。それにオグミオスが三人同時にとまで意図していたとまでは思われない。実はそれが後に大きな影響を及ぼす事となる。
 「歪んだ結婚体制」という呼び名と共に。


 バージゼルが相続直後のレナス家。それ以前のオグミオスへの冷遇もあり、当初それほど目立った存在ではなかった。
 それが急速に変化したのは、レナス家も属す西方国境方面の事態の急変。

 奇しくもバージゼルのレナス家相続と同年に本格的に始まった、大陸中央でのドモス王国の大陸拡大。それに触発されたかのように起きた、西南部のヒルクライム家の独立と逆侵攻。
 これらへの対処は当然、国家としての顔であるゴットリープに陣取る、山麓朝の責務。
 だが長きに渡り、バーミアの雲山朝との抗争をはじめ、王弟派としての宿命である内部闘争、引いてはそれに影響を与えるミラージュ家との角逐。それら国内の長年に渡る宿痾を抱え続ける山麓朝には、もはや国外に対する余裕は無い。

 そうした矛盾に対処する中で、次第に西方のリーダー格として台頭認知されていったのが、実にバージゼルと三姉妹のレナス家。
 山麓朝から正式に委任されたわけではなかったが、ヒルクライムの逆侵攻に始まり、対外対応の多くを引き受ける事で、西方諸家の信望を次第に拡大。更にはラージングラード家のような東方の有力家との養子縁組すら結ぶ事となる。
そして遂には、ドモス王国とオルシーニ・サブリナ二重王国の百日戦争の一環として行われた、インフェルミナ戦役への一万もの派遣軍の司令官をも務めることにより、対外的な顔すら手中にする事となる。

 もちろん主家であるはずの山麓朝がそれを喜ぶはずはない。しかし自ら自身にそれらを担う力と余裕が無い以上、レナス家の独断独走を黙認追認する以外に道も無い。
 かつてオグミオスに擁立された恩を持つ、シャリアスにはそれを達観した所があったらしいが、生まれながらの王子王女であった子供たちはそうはいかない。その子供たちとなれば尚更に。
 そして山麓朝の誕生母体であったはずの、バルザックの分家すらレナス家に誼を通じる事態に至った時点で、遂にシャリアスが崩御。

 当然に王太子のシリウスが即位。かくて事態は一挙に急転直下する。



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