| [10] ハーレムコンクルード 第一章 全面対決 ⑦ |
- 陣 - 2025年09月21日 (日) 11時01分
仙樹歴1045年。
長きに渡って両朝の最前線となってきたラージングラード地方で、またしても大きな動きが発生した。 この時点ではレナス家の働きで山麓朝側に転じていた、ラージングラード地方に対し、雲山朝側が久しぶりに大掛かりな奪還軍を起こしたのだ。
これに対して山麓朝側が派遣する大軍の指揮を執れるのは、いまや大将軍のバージゼル以外に無い。たとえ既に簒奪の噂すらプンプンされていたとしても。 ゴットリープでの出陣式の後だが、シリウスが罷免権を発動するのではないかという憶測すら流れ始めていた。
そして内外合わせて一触即発の最高のタイミングで、事件は起きた。 ラージングラードの城下に集結し、北方から来た雲山朝軍と対峙中。突如としてバージゼルが随行の一族全体を揃え、ゴットリープの山麓朝王家に対する反旗を、率いてきた軍全体に公然と宣言したのだ。 一瞬、微妙で不穏な空気が流れるが、そこに雲山朝側からやってきた嫡流王女ニルヴァーナの支持と、バルザック分家出身のベルリアンヌの檄によって、軍はまとまる。 政治権力の分割については曖昧ながら、取り敢えずレナス家がニルヴァーナの登極を支持し、形式的にもその下に就くらしいことが示されたのだ。 これによって雲山朝王家の嫡流でありながら、その即位に抵抗が多かったニルヴァーナのバーミアでの即位はほぼ確実。単独の決起ではまだ不安のあったレナス家も、抗争中における雲山朝の介入を防ぐと共に、一応の心理的安定を保つ事が出来たのである。 その両者を直接取り持ったのは、それまで両属の立場であったサラミス家。レナス家として、例の先祖の「差し出口」の悪評がむしろプラスに働いたのは言うまでもない。
(そして遂にウチに、なんだよな)
反転してゴットリープを目指すのは、まず当然にミラージュ地方。
ゴットリープからラージングラードまで繋がる、交通上の本道にして中継地点。ラージングラードに向かう際にも、その前を通り、同道すら望まれた。 だがゴットリープからの勅命はあくまでラージングラードとの中継と後詰に徹しろとの一点張り。当然それに逆らってまで、バージゼルに従わなければならない義理はまだどこにも無い。 そうなればミラージュは間違いなくゴットリープ側という事になる。ならば一戦してでも通らねばならない。
もちろん出来れば、それをせずに済むに越した事は無い。 当然、互いに使者の往来が往来が行われる。一応の儀礼みたいな定番にして茶番。だがそこで決定的な事件が起きる。 バージゼルの嫡男であり、レナス本家の相続者クリエートが送った使者が、ミラージュ城内で惨殺され、首で送り返されたのだ。

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