少年デッキに睡り晩夏の旅了る

　晩夏光白球沖へ投げ返す

　冬日向湯水に溺れるやも知れず

　ふたつめの瞼の降りず枯野見ゆ

　囀りのひとつが翔ちて海蒼し

　海に貝拾ひて春の山に入る

　牛の眸のどこまでつづくすみれかな

　婆の手が伸びてきさうなすみれ草

　大和まほろば四方の山辺を花染めに

　今生も蓑着て笠着て花の中

　山鮮しければ鯉のぼり鮮らしく

　めまとひやちちははさがす藪の中

　銀器鳴るかと仰げば虹の立ちにけり

　奥の間に襁褓を替えて魂祭

　涼しさの最後に踵洗ひけり

　たましひに届いてをりぬ蜘蛛の糸

　ひとひとり手を洗ひゐる盆の寺

　子午線のどこまで沁みる蝉のこゑ

　馬の鼻吹かれてをりぬ秋の風

　いっぽんの紐に目覚めて秋の暮

　一樹が千樹黄落始まりぬ

　立ちてをり枯野の巨き耳のまへ

　武尊命出ておほ根を引ける霞かな

　ねむるまで少し間のある雛の宿

　春愁の狙ふものなきナイフかな

　山のあと海を見てゐる櫻餅

　一日に三度飯食ふ鳥雲に

　父とゐて水辺の櫻見てをりぬ

　花季の水の匂ひに睡るかな

　堂奥にこつとものおと朝櫻

　空の水あつめてゐたり白木蓮

　麦秋のたれよりとほく父のゐて

　ざわざわと父の胸鳴る麦の秋

　とある日のえごの落花にまみれけり

　風白く空を渡るよ葱坊主

　六月の緑をいそぐ山河かな
2002年07月21日 13時57分41秒