[730] 2025/02/12/(Wed)20:44:31
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名前 |
Seigo
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タイトル |
ドストエフスキーの小説のこれまでの邦訳のこと |
本文 |
※追記更新:25/02/13 07:20
これまでのドストエフスキーの小説の邦訳については、自分としては、米川正夫氏の訳と江川卓氏の訳が、やはり、よいと今でも思う。
米川氏の訳は、たしかに文語調・漢語調の言い回しや語彙を使っていて、そういった表現に慣れてない人にとっては読むのに骨が折れる箇所が少なからずあるけれど、各登場人物の話す言葉をそれぞれにふさわしい口調や表記(『悪霊』のステパン氏の言葉など)にしていることをはじめ、そのぶん、その訳文には格調や奥行きや味わいが生じている。
江川氏の訳は、やや荒削りの傾向があるが、とりわけ、『罪と罰』『地下室の手記』の訳などは、当時の社会の雰囲気や登場人物の息づかいなどが生々しく伝わってくる訳文であり、自分にとっては好みの文体だ。旺文社文庫『罪と罰』にはシマリノフの挿し絵があり、よかった。
亀山郁夫氏、原卓也氏、小沼文彦氏、工藤精一郎氏をはじめ、他の知られた訳業は、中性的と言うか、現代の日本人には読みやすい平明な無難な文章になっていて、それなりに良いと思うが、米川氏や江川氏のようなドストエフスキーの小説の世界をよく伝えていく工夫された個性的な文体文章になっていないことによって、逆に、伝わる内容がやや薄っぺらになっているような感じがする。
自分は、初めに米川氏と江川氏の訳文で読むことによりドストエフスキーの小説の世界を肌で感じ取ることができ、身にしみ込んだその余韻が今も続いていることを幸運に思う。今後も、米川氏と江川氏の訳文でドストエフスキーの小説に親しんでいくことになるだろう。
 [河出書房の決定版世界文學全集の巻11『カラマーゾフの兄弟』(米川正夫訳)]
 [旺文社文庫『罪と罰』(江川卓訳)]
 [旺文社文庫『罪と罰』(江川卓訳)の挿し絵(画:シマリノフ)] |
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