その“好き”がどの部類に入るかなんて関係ない
私はただ兄さんが好きなの
それを邪魔する奴は許さない
私と兄さんの間に入ってくる奴は許さない
それが余所から来た者だったら、尚更のこと
「不愉快よ。嫌な奴!!」
「お前の手に掛かったら満月に近付く奴は誰でも嫌な奴だろ」
あと3日
こいつが家に居たら家が崩壊するくらいの勢いで八つ当たりをする冴香をなだめる。
「部外者のくせして・・・!!兄さんもなんであんな奴家に泊めてるのかしら」
「気に入ったから」
「刺すよ?」
「すみません・・・」
本を広げながら椎は素直に謝り読書に没頭することにした。
また毒を吐きはじめた冴香に付き合っていては身が持たないからだ。
そんなことも構わずに椅子の脚を蹴っている冴香を見て
夜が明けるまでこれに付き合わされる自分に合掌したのだった。
その晩は やけに月が明るいと思った。
満月と深夜貴と喬帆の三人が早々と眠ってしまったから
今居間にいるのは閑と夏葉の二人だけ。
閑は長椅子に座って武器の手入れをしている。
皿洗いが一段落ついたところで夏葉が呟いた。
「月が明るいね」
「そう?俺はいつもと変わんない気がするけど」
「水と風の主が帰ってきたからかしらね」
ふと 武器の手入れをする手を止めて夏葉の顔を見る。
「喜んでるのかな?その明るさってさ」
「さぁね。異形を受け入れたこの世界を軽蔑しているのかも」
夏葉も振り返って閑に目を合わせる。
悲しそうに笑いながら、彼女は続けた。
「水と風の主は本来居てはいけないのよ。月や太陽と共に、永遠に・・・」
「どうして、此処に来たのかな」
「満月が好きだったのか、それとも?」
そこまで言って微笑み、夏葉は食器の片付けにかかった。
閑も少し手を止めてはいたが、すぐにまた目を武器の方に戻す。
一一月が明るい。月の明るさは歓喜の明るさなのかな?
いつか隣にいた少女がそう言って笑ったことがあった。
(あぁ、そっか。さーちゃんは一一一・・・)
月が明るかった。
でもその明るさの意味を考えるのは 悲しすぎて。
次の朝は早くから騒がしかった。
「起きなさい!!」
「・・・ん・・」
喬帆の目の前には冴香。
確か此処はベッドだったはずだ。
これは一体どういう状態なのだろう・・・
「荒野に出かけるわよ!!私と勝負して!!!」
「・・・え?」
その言葉で一気に喬帆の目が覚めた。
冴香はさっさとベッドから降り
喬帆の服と長刀を投げつける。
「真剣勝負。殺す気でやるから」
「一一一・・分かった」
自分と同じ金色の瞳を見つめ、短く答えた。
「で、勝負って具体的にどうやるの?」
「どちらかに一太刀浴びせた方が勝ち。簡単でしょ。私が勝ったらもう兄さんに近付かないで」
「満月に?」
「そうよ!もしあなたが勝ったら・・・」
「・・・冴香ちゃん?」
急に威勢のなくなった冴香を心配して少し喬帆が近付く。
その至近距離で喬帆を見上げ、そして言った。
「あなたが勝ったら・・・私はもうこれ以上兄さんに手出しはしない」
「・・・それ、どういう意味・・?」
「分からなくていいよ。私が勝つんだから」
喬帆の手を払って少し遠ざかる。
喬帆は長刀を構えて冴香をまっすぐと見た。
一一間合いを随分取るみたい・・・でも勝負って、冴香ちゃん不利なんじゃ・・?
タイミングを待つように沈黙が流れる。
冴香の周りを 風が纏いはじめた。
「我の名において今、神々を現さん一一一」
「!?」
「花のもと、土のもと、全てのものにあるように、今願わくば我に力を貸したもう!!」
空に掲げた右手に
少しずつ異変が訪れているのに喬帆は気付く。
「・・・風が・・・」
突然 強風が喬帆を襲った。
「・・・ッ!!!・・冴香ちゃん・・・あなた一体・・・?」
「私は風と水の化身。人と関わることは一切ない世界で暮らす者」
「風と水の・・・一一一一・・・ッ!?」
風の中で 喬帆は
一一許サナイカラ
一一邪魔スルヤツハ許サナイ
一一あれは冴香ちゃんの記憶?
一一ううん、違う・・あれは・・・・・・
そこまでで 喬帆は意識を手放そうとした。
「・・・ッ!?何あれ・・・!!」
「え・・・?」
風が止む。
冴香の目線の方向は 喬帆じゃなくて一一一・・・
「・・・時空の裂け目・・」
その呟きと同時に 喬帆は誰かの声を聞いた。
一一ダメだよ あれは違う
「・・・え?」
一一もう少し君はこの世界に居なければいけないんだ
「誰・・・?あなた・・・」
一一君たち以上の力を持った者を探すんだ
「月の能力者・・・以上の?」
一一そう。彼らが集まったとき、此処の時空の扉は開かれる
ザァァァァァァ一一一一・・・
「喬帆!!さーちゃん!!!」
「あ・・・」
「しーちゃん!」
家の方向から
満月達が歩いてくるのが見える。
真っ先に駆け寄ったのは閑。
「朝早くから何やってたんだよー!!」
「何でもないのよ・・・ねえ閑、夏葉は?」
「夏葉は朝飯の用意してるから留守番。」
「・・・そ、か・・・・・・」
深夜貴達に促され、冴香と喬帆も荒野を後にした。
「決着つかなかったわね」
「え?あぁ・・・変な邪魔が入っちゃったね」
隣で呟く冴香に苦笑する。
「次は負けないから」
「・・・あなた、似てるわ」
「な、何よそれ!?」
「・・・友達に、ね」
太陽が段々と上がってくる
そのまぶしさの中で
冴香は少しだけ“喬帆”を見たような気がした。
「弥涼!何やってんだ早くしろ!!」
「言われなくても今行くよ」
「・・お前水晶なんかで何やってたんだよ」
「ちょっと呪いを・・・っていうのは冗談で」
「お前が言うと冗談に聞こえない」
「助太刀をね・・・同じ力を持つ者として」
「へえ・・・集まりはじめた能力者にか?」
「上弦は気付きはじめたみたいだけれど・・・姫様はまだ、気付くべきじゃないからね」
「それは助太刀じゃなくて邪魔だろ・・・まぁ・・」
「僕達には 関係ないけど?」
「そうだな」
**********to be continued?*************
今回のは以外と早かった・・。虹の向こうにと文章の書き方変えてるから、途中まで切り替えに気付かなくて色々大変でした・・・;(だったら変えるな・・・)さてさて。さーちゃんVS喬帆一回戦・・・。喬帆何も出来ませんでした。さーちゃんの能力はこれだけじゃないです。何せ水と風だし!・・・風水・・・?最後に出てきた弥涼さんと誰かさんは・・・アハハv内緒~v(逝)
前回読んで下さった皆様に感謝v次回もお楽しみに~・・次は何だ・・・ビリーブかな・・・あ、でも虹の向こうに・・・?(どっちだよ)