見たモノは
月明かりと 黒い雌猫
大きな渦
それから・・・・・・
喬帆がこの世界に来てから数日が経とうとしていた。
「雨だ・・・」
「本当・・・洗濯物中に干さないと」
「この世界って雨降るんだ・・・」
「え?ああ、私も此処に初めて来たときはそう思ったわ」
夏葉は苦笑して、雨に感心している喬帆を見る。
土は乾いているし、緑の植物も生えていない。
でもそれは雨が降らないせいではないようだった。
「じゃあどうして荒野なんかが出来るの?雨降ってるのに」
「湿気が少ないのよ。蒸し暑さがないし、それに雨雲以外に太陽を遮る雲が来ないの」
「変わった世界ね・・・」
「そうね」
服のしわを伸ばしながら微笑む。
相変わらず喬帆が窓の外を眺めていると
ふいに家と外を遮っている御簾が上がった。
頭からバケツに入った水を被ったようにびしょ濡れの深夜貴が入ってくる。
「酷い雨だな・・・夏葉、風呂」
「あら深夜貴。水も滴るいい男ね」
「いいから風呂」
うんざりとでも言うように髪の毛の水滴をしぼりながら言う。
「私洗濯物干してるの。喬帆、頼める?」
「分かった。・・・ねえ深夜貴・・・」
「ん?」
「服、透けるよ。女物着ればいいのに」
「俺は・・」
「ああ、水も滴るいい女ってね」
「夏葉・・・」
夏葉のからかいに深夜貴は溜息をついく。
喬帆は苦笑しながらも深夜貴を風呂場へ促した。
「ねえ深夜貴、閑と満月は?」
「荒野じゃないか?雨の日は蛇とか出るんだよ。鳥が投具を使う閑の得意分野だとすれば蛇は刀を使う満月の得意分野。閑は元々満月に着いて回る奴だからな」
「そうなんだ・・・じゃあ深夜貴は何処行ってたの?」
「裏にちょっとした物置があるんだ。雨漏りが酷くて・・そこの整理」
お陰でこの様だよ、と苦笑する。
こういう笑い方は女の子だと喬帆は密かに思った。
口に出したら怒るからだ。
「私も何か出来たらいいのに」
「お前長刀得意じゃないか。満月達と狩り行けば?それに・・・」
「何?」
喬帆が怪訝な顔をすると
深夜貴は意味ありげな微笑みで言った。
「暇なのは今の内だけだぜ。冴香が帰ってきたらお前気が気じゃないぞ」
「サカちゃんってそんなに怖い子なの?」
「満月に近付く女にはな。夏葉が来たときも酷かった」
思い出すのもおぞましいのか
雨に濡れて寒いのか、よく分からない身震いをする。
「お兄ちゃん子なのね」
「そうとも言うが俺に言わせれば極度すぎだよ」
苦笑しながら、深夜貴は浴室に姿を消した。
「会ってみたいな・・・」
誰にも聞こえないように呟いて
喬帆も脱衣所を去った。
「だっしゃぁ!6匹目~」
いつもは乾いている土が泥になっている荒野にそんな声が上がる。
自分よりも背の高い長刀を持っている閑だ。
それを隣で呆れて眺めているのは満月。
片手に2メートル程の蛇を5匹抱えている。
「こんなに狩ってどうするんだ閑・・・」
「これが丸焼きだろ、こっちが煮込み・・・」
「そうじゃなくて」
「じゃあ何?」
きょとんとする閑に余計脱力する。
「食べるのは俺と夏葉と深夜貴と喬帆とお前だぞ?晴れの日にお前と喬帆が狩ってきた大鳥も数匹残ってるだろ」
「喬帆って狩り上手いよな~弓も使えるし・・・」
「だから・・・」
「なあ満月、もしかして喬帆を好きになった?」
ふと満月の方を見やりながら
唐突に問うてくる閑。
「・・・・・・どうしてそうなるんだよ」
「だって、喬帆のことよく気に掛けてるし・・・見る目が違う。」
「何それ」
「さーちゃんや夏葉を見るときの目とは違うってコト。どう?」
閑に問いつめられ
少したじろきながらも満月は呟いた。
「・・・会ったんだ」
「は?」
「闇の果てで・・・時空の裂け目で会ったんだ・・・」
「いつ?」
満月は少し考えてもう一度呟いた。
「覚えてない。でも確かに会ったんだ。喬帆と」
「さーちゃんが聞いたら怒りそうだな」
「なんで冴香が出て来るんだよ」
「だってさーちゃんは・・・」
「あたしが、何?」
雨に消え入りそうだったが、確かにその声は聞こえた。
高く幼い少女の声。
「冴香!」
「さーちゃん!!」
ほぼ同時に、(閑の方が幾分か驚いてはいたが)
二人はその声の主を呼んだ。
髪を上で2つにまとめた、閑と外見年齢は変わらない少女。
閑と満月を交互に見やり、そしてにっこり笑って言った。
「ただいま!満月兄さん、閑!!」
「遅いな・・・」
「そうね。蛇にでもやられたのかしら?」
「満月がそんなへマするかよ」
「私探しに行こうか?」
湯飲みに入れられたお茶を飲みながら
三人があれこれ意見を交わす。
「じゃあ俺も・・・」
喬帆と深夜貴が立ち上がった瞬間
御簾が勢いよく上がった。
「みー兄!」
その声を聞いた途端
深夜貴が固まった・・・ように喬帆には見えた。
「冴香・・・」
固まりながらもその名を呼ぶ。
「久しぶり!夏葉さんもお久しぶり」
「お久しぶり、冴香ちゃん。閑と満月もお帰り。蛇は狩れた?」
冴香の睨みを上手く交わして
後ろの方に居る満月達を入るように促す。
「うん!蛇3匹。ホントは6匹狩ったんだけどさ~」
「そんなにいらないでしょう。」
「そう満月に言われたんだよ」
持って帰ってきた蛇だけとどめを刺したらしい。
蛇の入った袋を夏葉に渡すと、閑は喬帆の方へ歩いていく。
冴香の目が光ったように見えたのは深夜貴の気のせいではないらしかった。
「喬帆!今度満月達と狩り行こうよ!蛇平気だろ?」
「平気だけど・・雨ってあまり降らないんじゃ?」
「大丈夫!雨じゃなくても蛇はいるし。深夜貴が見つけるの上手いんだ」
「俺も行くのか」
深夜貴葉冴香を見張りながら呟く。
気付かなかったのだ。
その一瞬の喬帆の表情なんて。
案の定というか、冴香が喬帆の方へ近付いた。
「あなた、誰?見ない顔よね。」
「喬帆だよ。さーちゃんが居ない時にこの世界に来たんだ」
「しーちゃんには聞いてない!」
キッと睨まれ、閑は肩をすくめる。
夏葉と深夜貴は喬帆の方を伺っているが
喬帆がどんな顔をしているかは見えなかった。
「ねえ。自己紹介も出来ないの?」
「・・・・・・・・・・・」
「?・・・あなた、大丈夫・・・?」
さっき閑と喋ったときは普通だった。
だが、今の喬帆は
「喬帆?顔色悪いよ。大丈・・・」
「喬・・・矢が・・・・・・」
「え?」
聞いたことのない名前に、閑は聞き返す。
「月が光らないの・・・欠けないのよ・・・」
「喬帆・・・?」
その場にしゃがみ込み
頭を抱える。
「早く・・・姿無き能力者を・・・・・・」
「喬帆!!」
閑の声も届かぬまま
喬帆は気を失った。
「喬帆ッ!!!」
すぐさま駆け寄る満月。
呆然とする冴香と深夜貴。
その中
一人夏葉が喬帆の言葉に目を見開いていたことなど
誰も知らない。
一一此処・・・どこ?
一一闇の果てだよ
一一・・・あなた・・・は・・・
一一満ち足りた月の姫、姿無き月の王を探して
一一ねえ、姫とか王とかって何?
一一そのうち分かるよ。ねえ、早く探さないと月が無くなってしまうよ
一一何を・・・言っているの?
一一私は闇の果ての使い人・・・早く王達を集めて
一一・・闇の・・使い人・・・?あなたが・・・?
一一急いで・・・光の果てに一一一一一・・・・・・
「・・・ッ!!」
強烈な光と共に目が覚めた。
「喬帆!」
「大丈夫!?」
満月と夏葉がほぼ同時に声をあげるのが聞こえる。
「・・・夢を見たの・・・」
喬帆はまだ夢見半分のような表情で呟く。
「よく覚えていないけれど・・・誰か居たような・・・」
掠れるような声で言う喬帆に
夏葉の表情が一瞬変化したことは
そこにいた誰も気付かなかった。
しばらく3人とも黙るが、
すぐに部屋を区切る御簾の方から足音が聞こえてくる。
「喬帆!!」
「閑、大声出すんじゃない」
深夜貴と閑が御簾をあげて入り口から顔を出す。
「大丈夫か?何処まで覚えてる?」
深夜貴が単刀直入に聞くのを見て
閑が蹴りを入れた気がしたが、素直に答える。
「・・・閑が・・・狩りに誘ってくれて・・・それで・・・」
覚えているはずなのに、それ以上は思い出せなかった。
「そうか・・・。まあ今日1日安静にしてろよ。冴香も居ないし」
「そうよ。明日には帰ってくるから、そしたら大変よ」
夏葉も深夜貴の後に続いて言った。
喬帆には未だに深夜貴達が
こんなに冴香から自分を護ろうとするのか分からない。
見た限りでは良い子だと思った。
そして、自分に似ていると。
「明日になれば、喬帆の疑問は解けるよ」
今まで黙っていた満月が、ふいに喬帆に呟く。
「え・・?」
「ちょっと性格に問題あるけど、良い子なんだ」
苦笑しながら、わいわい騒いでいる夏葉達を見やる。
喬帆はその笑顔に違和感を覚えた。
「一一一あいつらもあんなこと言ってるけど・・・」
「ホントの妹じゃないのね」
「なんでそう思う?」
「・・・似てるから・・・知り合いに」
「そっか」
満月は優しく微笑んだ。
やっぱりその笑顔に
喬帆は違和感を覚えた。
これから起こる一騒動でしばらく忘れてしまう
違和感。
夢を見た
一人は少女
もう一人は少年
捕らえられた、影法師。
戦士と仙女がいつも傍にいて
それから・・・
それから・・・・・・
***********to be continued?*************
今回は2週間かな・・・書いて保存書いて保存書いて保存・・・(無限)。さて、今から北軽井沢行って来ます!!24日に帰ってきます☆
さて本編・・・最初の方の内容覚えてないんですが(問題です)雨の話ですね。この世界砂漠みたいに大袈裟に乾いている訳じゃないんですよ~。植物も育てようと思えば育つと思います。雨降るし。地下水もあるので。第一部のキーワードは猫とカラス。覚えておくと何かいいことが・・・ないかもしれません(オイ)それでは!!前回読んで下さった皆様に感謝!次回お楽しみに!!