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烈火の剣/理想郷
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[127] 2005年11月04日 (金) 23時30分 烈火の剣/理想郷
「どういうこと?」
 きっと喜んでくれると思った妹の声は、けれど怒りの色に染められていた。
「話した通りよ。有給が溜まっていたから、まとめて取ることにしたの」
 けれど、妹に怒られることになど慣れている姉の態度も淡々としたものだ。
「そうじゃなくて! その後!!」
「…キアランに勤めるということ?」
「そうよ。せっかく有給とって…なのにまだ働くって… 一体どういうことなの?」
「だから、話したじゃない。姉さんの、大学時代にお世話になった人が、いま少し困っているのよ。力になりたいの」
「納得いかないわ」
「ファリナ」
「納得いかない」
 どうしてそこまでする必要があるの?
 ファリナは頬を膨らませて、そういう。
 そんな表情をすると、なんだか亡くなった父に面差しが似てきたなんて考えてると知れたら、一層怒られてしまうだろう。
「あのね、ファリナ。聞いて欲しいの。
 私たちが小さい頃、父さんと母さんが亡くなって…それから三人きりで生きてきたわ。
 だけどね、ここまで来るために、叔父さんや叔母さん…たくさんの人達に、お世話になってきた…。そうでしょう?」
「…それは…だけど」
 フィオーラやファリナが、学業を片手に自立できるようになったとはいえ、それまでの間は確かに親戚の面倒になったことはある。尤も、その居心地が悪かったことが、自立を早めた理由なのだが。
「私たちは、それを忘れてはいけないと思うの。
 お世話になった人達が、困っていたら…何か力になりたいと、私は思うの」
「…確かに姉貴の言うことはもっともだけど!」
 そう、姉の言うことはいつだって尤もなのだ。
 そして何時だって、現実の自分自身の力、というものをわかっていないのだ。
 無理をして、倒れる姉の姿など、見たくない。
 それに第一、
「どうせ、姉さんはそのケントって言う人のことが好きなんでしょう!!?」
「えぇ、確かにそうだけど」
 あっさり肯定されて、ファリナは思わず転びそうになった。
「前にも話したわよね、大学で歴史の研究をしていて、そのゼミで一緒になったのだけれど。
 知的で、気配り上手な人なのよ。そのくせ少し上がり性なところがあってね…。ファリナも気に入ると思うのだけど」
「…そういう問題じゃなくてっ」
 姉がこういう態度で異性のことを話すときはアレだ、恋愛対象としては一切見ていないということだ。
 そのことに多少安堵しつつ、それでもファリナの怒りは収まらなくて。
「とにかく、あたしは認めないからね!絶対に、手なんか貸さないからね!!」
 言い捨てて、部屋を出て行った。
 困ったわね…。
 本音を言えばこの件で、フリーターとしてプロの域に達している妹の腕も、借りたいと考えていたのだ。
 それでも、自分の手で回し始めてしまった歯車は、止めるわけには行かない。
 何とかするしか、ないのだ。
 妹が去り、すこし物寂しい空気を残す部屋に一人立ち、フィオーラは明日からの世界に微かな希望と不安とを、感じていた。


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というわけで!久々の!
本当に久々の!理想郷はラガの字もマの字もございません。あれ?
姉と妹の会話、ってどんなものなのだろう…高崎未体験ゾーン。
ともあれ、喫茶キアランにまつわるエトセトラの、始まりの一片でございました。
多分続かない(おい)。


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