覚書
小説に成りきれない雑文や、日々の語りなど。| ベルウィックサーガ | |
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| [119] 2005年11月01日 (火) 10時47分 ベルウィックサーガ | |
| 酷く寒い夜だった。 暖炉に薪をいくらくべても、なかなか部屋は暖まらない。 ディアンは構わず、軋む椅子に座り、ぼんやりと雪の降る景色を眺めていた。 夕闇に伴い、礼拝堂の蝋燭に火を灯してきたイゼルナが、戻ってきて息の白さを確認した。 「まだ…寒いですね」 「あぁ…、そうか?」 暑いだの寒いだの、自分を取り巻く環境に無頓着な男が、顔を上げて疑問の声をあげた。 イゼルナは呆れて、笑ってしまう。 「待ってて、何か暖かいものを作ってきます」 ついでに夕飯も作ってこよう。立ち去りかけたイゼルナへ、 「いや、ここで」 …何を、振り向く彼女へ、ディアンが距離を縮める。 「あ、」 「こうした方が暖かくいられる」 「…………、」 後ろからやわらかく抱きしめられる。 イゼルナは抵抗できなかった。 「もう少しで…部屋も暖まるだろう。それまで」 仕事のせいで霜焼になった、小さな手を包み込む、ディアンの手は少し荒れていて、だけどとても暖かい。 イゼルナは声が出せなくて、ただ小さく頷くだけだった。 ディアンが笑ったのが、吐息として耳に掛かる。 「………イゼルナ、」 ずいぶん迷ってから発せられた自分の名に、イゼルナは胸が高鳴る。 半ば無理やりのように、郷へ戻るという彼に付いてきて、村の教会に就いて。 これからは…名で呼んで欲しいと。一人の人間でありたいと、そう伝えてからずいぶん経つのに、彼は「シスター」と呼ぶ癖をなかなか抜いてくれなかった。(意識的ではなく、本当に癖だと思う、彼の場合) 「………………」 それからも間が空く。 何か言葉を捜しているようだった。彼女を抱く彼の腕からは、微かに緊張が伝わるから。 「…俺と、一緒になって欲しい」 「はい。」 「……………」 「……………」 「あ、いや、そういうわけじゃなくて、だな。」 あまりに早い返事に、ディアンは戸惑っている。 無理もない。かくいう自分だって、平静でなどいられない。 「夫婦として神に誓うのでしょう? …喜んで」 顔を見れない位置で告白したのは失敗だったな、と彼女の穏やかな声を聞きながらディアンは思った。 本気で答えてくれているのか、からかわれているのかわからない。 いや、彼女は嘘や冗談でそんなことを言える人間ではないことはわかっている。しかしどうしても不安が残る問題なのだ、こればかりは。 「…いいのか、俺で」 「私はもとよりそのつもりでした… ナルヴィアを出て、あなたと共に生きたいと、願っていました」 「…………………………」 それは驚いた。 ディアンだって男だ、悪く思われていないことくらいは気づいていたけれどそこまで頑なな意思だとはしらず――いやしかし彼女は初めて出会った頃からずいぶん頑固な女だった―――ではなくて、つまり、 夢幻でもなければ、冗談でもなくて、 現実というものを、ディアンはかみ締めた。 「……雪が溶けたら」 いまだ冷たく降り注ぐ雪も、やがては終わりを告げるだろう。祝福の季節が、来るだろう。 「ナルヴィアの、母上の元へ挨拶に行こう」 「はい」 今の彼女がどんな表情をしているか…ディアンは伺うまでも無かった。 それ以上は何も言わず、ただそっと、彼女の冷たい頬に触れるだけ。 冷えた空気を、暖炉の熱がゆっくりと溶かし始めていた。 -------------------------------------------- 戦後ですねー ディアイゼ書くのは久しぶり(でも10日というのが恐ろしい暇人)ですが容赦なく甘い。 適度な障害(弟)を乗り越えてしまえばだってこの二人って何もないんだもん。邪魔されることなく幸せになってください。 ついでに結婚後も「シスター、」とかうっかり呼んで怒られるといいな! |
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