覚書
小説に成りきれない雑文や、日々の語りなど。| 烈火の剣 | |
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| [50] 2004年04月10日 (土) 00時15分 烈火の剣 | |
| 療養中のマシューは一人、見張り台の屋根の上にいた。 森の向こうから立ち上る煙が薄くなり、戦の終わりを告げている。 怪我人の戻りが多くなり、砦も賑やかになってきたようだ。 今、中へ戻ろうものなら、きっとセーラ辺りに捕まってコキ使われるに違いない。 もう少し… 空が紫に焼ける頃までは、ここにいようか。 そんなことを考えながら、マシューは大きく伸びをした。 昨晩の無理が残る胸の傷が痛んで、思わず顔を顰める。 …そこへ。ふと、風を切る音が聞こえてきた。 何処だろうか、振り向いて、わずかに目を見開く。 点だった。 砦の向こう側の見張り台上空に、黒い点がある。 それは音と風を巻き起こし、一気に近づいて――― それが何者であるのか、認識した瞬間に、 黒い翼が、マシューの頬を掠める。 「――――――――――っっっ」 風圧で、声が出ない。 「あぶない!」 若い男の声だった。 甲冑に護られた逞しい腕が、自分の腕を掴み上げる。 「…いっ」 痛い、声を出す暇すらなく、軽々と抱き上げられて。 「悪い、まさかこんなトコに人が居るとは思わなくって…」 飛竜の羽音がうるさくて、声が良く聞き取れないが、どうやら男は謝っているらしい。 「あ。あれ?あんた、もしかしてマシュー?」 …しかも認識しないまま拾ったってか。 内心呆れながら、マシューは「あぁ」と顔を上げた。 「こうして口を聞くのは初めてだよな。俺はヒース、見てのとおりベルン竜騎士だ。…元、だけどな。」 おどけるように笑って見せて、それから「あ、」と表情を変える。 「マシュー、あんた、そういえば酷い怪我してたじゃないか…!!!もう大丈夫なのか!!?」 バッと体を引き離し、マシューの体の上から下まで視線を走らせる。 「血が滲んでる…! もしかして、今ので傷口が開いたのかっ?」 そりゃあ、腕だけ捕まれて飛竜に乗せられたのだ、そんな扱いを受ければ多少は開くだろう。 「や、たいしたもんじゃー――」 「悪かった!俺のせいだな…、もっと注意して飛んでいれば…。ひとまず衛生兵のところへ行こう!」 衛生兵。 その単語にヒースはなぜか顔を赤らめ、マシューはあからさまに青ざめた。 思い浮かべる人物はきっと異なっていて、相手へ対する感情もまた対極のものだろう。 「いっ、いや!いいって!大丈夫! こんなのたいしたことねぇって!」 「だが…」 「戦場の前線に立ってればこんなもんじゃすまないし、そのたびに一々シスターの手を煩わせるわけにいかねぇだろ? 気力でなんとかなる程度ならもっと重傷な奴の治療に集中させるべきだろ」 自分のことよりも、それを見る衛生兵の負担のことを口にすると、ヒースはそれでも、と言い募ろうとし…ようやく口をつぐんだ。 「…そう、だな、確かに… マシュー、本当にすまない」 「いいって、気にすんなって」 吹っ切ったようでいてそれでも必死にすまなさがる姿が、誰かとオーバーラップする。 …ギィだ。 普段はなんだかんだと自分に良いようにからかわれている少年が、彼の不注意――と自身は思い込んで―――でマシューがケガをしたことがあった。 その時も、必死の表情で謝り、何とか償おうと七転八倒していたのだ。…結局はマシューに貸し一つ加算と言うことで渋々納得したようだけれど。 それを思い出し、マシューは小さく笑った。 開いた傷は確かに痛く、できるなら杖で治療を受けたいところだったが、気力で何とかならないほどでもない。 「ほんと、気にしなくていい。元はといえばあの馬鹿疾風が悪いんだし」 口にして、その気持ちが強まる。 何よりも悪いのはラガルト。 戦闘終了後に。怪我人相手に。明日も戦はあると言うのに。 ―――――あんな無茶をさせやがって… ヒースの反応を置いて、沸々と怒りが込み上げてくる。 「…馬鹿疾風って……もしかしてラガルトか?」 あぁ、それにしてもたいがい鈍いなこの竜騎士も。 ギィレベルだ。 ラガルトが、何かにつけこの青年を構う理由がなんとなくわかる。 わかるから… ………面白くない。 なんて思ってしまう自分自身に対しても腹が立ち、自然と仏頂面になり―――ふと視線を上げると、泣き出すんじゃないかと思うような色の、ヒースの瞳にぶつかった。 女性向別館の方のラガマ3部作の最終話"朱"のオマケ話でR指定の"紫"、その更に後日談…です(長い…) 一体いつの話だよ… いや、掘ってたら出てきたので…。 マシューとヒースの(実質的な)初顔あわせ、がテーマ…で… 何処が萌えポイントなのか自身にもよくわからず、こんなところにアプしてみました… ヒース、おたつきすぎ。 |
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