覚書
小説に成りきれない雑文や、日々の語りなど。| 烈火の剣 | |
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| [46] 2004年03月10日 (水) 04時55分 烈火の剣 | |
| 白く 細い 指の根に 輝く 小さく白い導き 迷い進むこの者に しるべ となるように その代償 は? 「聖女エリミーヌの導きを受けることに…迷いはありますか?セーラさん」 金の髪の美しい人が、色素の薄い青の瞳を不安そうに揺らす。 前髪の触れる位置で、セーラはそれでも笑んで答える。 「不安がないといえば嘘になります。ですが、迷いはありません、ルセア様。わたしは、」 えりみーぬさまのみちびきに、したがいます。 それが誓いの言葉、はめられた指輪がその証。 朝早い礼拝堂、立ち会わせた者はごくわずかである祝福の儀は、こうして終えた。 エリウッドとリンディスは、おめでとうと素直に祝い、オズインはこれからも精進をと神妙な面持ちで告げる。ヘクトルなどはお前がここまでやるなんて信じらんねぇなどと失礼な賛辞を送り――― …マシューはその場に居なかった。 ゆっくりと暮れゆく夕焼けを、血の色のようだなどと形容する気持ちになるのは久しぶりのことで、マシューは疲れた瞼を2、3度閉じて瞬きをする。 「帰ったら飯より風呂だな。」 併走する男の声にも疲れが交えて見える。マシューも男に対して「全くだ」なんて返事をするくらいには気を許すようになっていた。 ずさんな警備の砦の下調べなど二人には造作のないことだったが、如何せんその数が尋常ではなかった。全て終えるのに3日かかり、帰れば明日にでも出陣となるだろう。 帰ったら…。 主には見聞した面白い話を。上司には秘密裏の情報を伝えて。 それから同僚―――から、は、降るような他愛もない愚痴を受けることになるのだろう。 そう思うと更なる疲れが訪れ、そしてほんのちょっとだけ暖かい気持ちに、なる。 全くだ。思考を知るわけが無いはずのラガルトがなぞるようにそう言って、笑いながらマシューの肩を叩いた。 …はい? 伝えられたメンバーの割り振りに、マシューは思わず言葉を返した。 「だから、君には西の砦へ行って欲しいんだけれど」 「いえ、おれが聞きたいのはそこじゃなくて―――」 笑顔で返すエリウッドへ、無礼とはわかりつつマシューが口を挟む。 「セーラと、ということかい?」 首を横に振る。 「何故、おれが、――――サポートなんですか?」 彼女の。 「か弱い」シスターの、…サポート?自分たちは救護活動に走るわけではないはずなのだが。 ははっ、笑ったのはヘクトルだ。 「"か弱い"…ねぇ…」 降られたオズインも、苦く笑っている。 …? どういう意味だろう? 「よ、マシュー。お互い生きててなによ」 り。 合流ポイントに先に着いていた相棒の背を見つけたラガルトは、軽くかけた言葉を最後まで言うことができなかった。 「……、マシュー?」 ケガをしている風ではない。彼も、また、…彼女にも? 「シスター」 ラガルトはすぐに方向を変え、少し離れたところで風を受けている少女に声をかけた。 「なにかあったのか?」 他人に聞くより自分で探る方を好むラガルトが、それでもセーラに訊ねる。 戦いに次ぐ戦いで、誰かと平和な会話をしたかったということもある。 「何か…っていうか、ね。」 珍しくため息なんかついて、セーラは肩をすくめてマシューの背中へ視線を投げた。 少女の綺麗な肌にもかすり傷ひとつなく、装束の裾が泥に汚れているくらい…、と。 細い腕から腰へと流れる薄布のショールに、数滴、乾いた血の染みが。 「……シスター?」 ラガルトが意味を捉えかね、眉を顰める。受け取ったセーラが彼を見上げて答える。 「"聖女"よ。」 にこり。 それは確かに、笑顔であったのだろう。 ラガルトには、泣いているかのように見えただけで。 「司祭に昇格したのよ、わたし。知らなかったのね、あいつ―――」 まるで唄うかのような少女の声。 指先から生まれる閃光、刃となって螺旋を描き、 裂く。 悲鳴は聞こえない。 「セーラ」 自分の呼び声もきっと、届かない。 「セーラ」 眩い光に、何もかもが飲み込まれて、行って。 「…セーラ!!!!!」 赤い花が 咲く。 「なによ、マシュー」 冷たい冷たい闇の中、ぽとリ、落とされた光の雫が名を呼ぶ。 「…レイラ?」 バコンッ 唇から愛しい女性の名が零れ落ちると同時に、側頭を分厚い本で殴り飛ばされる。 「元気そうで何よりだわ、マシュー!!」 辺りに充満するほどの殺気でもって、セーラが同僚を見下ろした。 「………。マシュー?」 様子のおかしさに気が付いて、セーラは身をかがめる。 長かった戦いが終わり、怪我人の収容も終わり、ようやくようやく眠りに就こうと部屋へ戻る途中に見つけた同僚は、どこか調子が悪いのだろうか最後に見かけたときのまま、柱に背を預けて座り込んだ状態でうなだれていた。 「マシュー」 疲れているのはセーラとて同じだ。 慣れぬ魔道書を繰り、祝福と裁きの言の葉を紡ぎ、そして今の時間まで癒しの杖を振るっていた。 けれどそんなことよりも目の前の同僚へ気を回してしまうところが、「聖職者」のサガという物なのだろうか…? 「…セーラ」 頬へ伸ばされた細い指。白い手袋に覆われた冷たい感触を受けて。マシューは伏せていた目を上げた。 「一体どうしたのよ、具合悪いの?」 「……違う」 答える声は掠れていて。 伝える言葉がわからなくて。 マシューはおず、と手をのばし、少女の指をとった。 「っ、マシュ…?」 そのまま自分の唇へと運び、 祝福の 口付けを。 「…おやすみ」 立ち上がり、短く告げて、足音も立てずに闇の中へ姿を消す。 残された少女の表情なんて知りもしないで。 レイラ その名を音にしたのはずいぶんと久しぶりなのに、マシューには自覚はなかった。 セーラ、 頭の中を占めるのはずっとずっと、一人の少女のことばかりだ。 セーラ、 光をまとうその姿は神々しいのに、指先の紡ぐ軌跡は禍々しい赤をまとう。 セーラ、 記憶の中の少女は無垢で、笑った顔しか思い出せないのに、 どうして、どうして、 お前が血に汚れる必要があるんだ? 「護ってもらおうだなんて思ってないわ。守りたいからよ」 女はこともなげにそう告げた。 愛用の銀の剣はそのために公爵から賜ったもので、彼女の誇りの証で。 それを手入れする女の横顔が、好きだった。 「レイラ、だけど、」 そのために、女は闇をまとった。マシューは知っている。 「なぁに?」 答える女の声は優しい。甘く。変わらない。 「大丈夫よ、私は」 飲まれたりなんかしない。 ―――そうだ。 強く美しい彼のひとは、誓い通りに決して闇に飲まれたりなんかしなかった。 ただ、その淵で、足を滑らせただけなのだ。 あの時、自分がその手を引き寄せていたなら…もしくは背を押していたのなら、 闇は彼女を取り込もうとはしなかった?それとも優しく包み込んでいたのだろうか。 わからないが、ともあれ闇になりきれなかった彼女はその申し子に討たれたのだ。 レイラ、おれは、 お前がオスティアを守りたいというように、 おれもおまえを守りたかった。 おれに足りなかったのは ちからか それとも 覚悟? なんて顔してやがる。 部屋に戻るなり、まだ起きていた相棒が声をかけてきた。 硬いベッドに上体を起こしているのが闇の中シルエットとなって見える。 「…ラガルト」 「明日も早いぜ」 闇の中表情はうかがえないが、きっと声と同じ優しい笑みを浮かべているのだろう。 「どうした?」 「ん?」 「お前が気遣うなんて……珍しい」 素直にそう言うと、「勝手にしろ」と少し怒った声が返ってきたから、マシューは小さく笑った。 「悪い。 …おやすみ、ラガルト」 ぷっ、と向こうが肩を震わせたのが空気で伝わる。 焦りと不安でささくれ立った心が少し、和らいだ気がして、マシューは再度礼を述べて床に就いた。 「おはよ、マシュー!」 その日も少女は全開で元気である。 「なに朝からボーっとしてるのよ!ホラ、行くわよ!!マシュー!」 マシューの名を呼ぶ、かしましい声も変わることはなく。 差し出される手は、変わらず白く。 「―――――セーラ」 呼び止めて。立ち止まる少女に並んで。 けれど伝えるべき言葉が出てこない。浮かばない。 守りたい とも少し、違う気がする。 無茶するな なんて言ったらまた殴られる。 「何よ。」 沈んだ表情のマシューを、不機嫌にセーラが見上げて。 もぅ、と小さくため息をついて、 少し背を伸ばして。 マシューの肩を、柔らかな髪がくすぐる。 花の香り、感じた時には頬に触れた柔らかな唇は離れていて。 「 」 絶句しているマシューを、楽しそうにセーラは見返した。 「死んだような顔してんじゃないわよ、まったく! 目は覚めた?」 「 」 まだ、言葉は出てこない。 「置いてくわよ、マシュー!」 それとも、 「守って欲しいわけ―!?」 遠くなる声が。 そんなことを言って見せるから――― 「冗談っっ」 叫び返して、走り出す。 その反応に、光を受けた少女が笑ったのがわかった。 キラリ、左手の指輪が小さく輝く。 導きと呼ばれるそれは、光の纏い手にとってのものだというけれど、 その周りに居る者にも、そうであるのだろうか。 纏い手が、迷えるものへ道を示すようにと。その証であると。 ふとそんなことを考えながら…マシューは少女を追った。 その先に、自分の道は在ると感じて。 白く 細い 指の根に 輝く 小さく白い導き 迷い進むこの者に しるべ となるように。 そのために差し出すものは覚悟、たった一つの。 指先が 装束が 幾度赤を浴びようとも 彼女の魂は白く輝いて 迷うものへ道を示すのであろう そうであることの、覚悟を。 …う、ちょっと電波入ってます(いつもですから) セーラクラチェンにまつわるエトセトラ。割と必然的に、マシューが誓約書手に入れるより前になるのですよね。それでも少しでも引き伸ばしたくて、ルセアの方が先に司祭になっております。 "牙"を手に入れて、もちろんセーラ自身が全く平気だなんてあるわけがないのです。でも、セーラは絶対にそういう弱さを他に見せたりしないと思うのです。それはマシューに対してもそうであって。 で、その辺の微妙な違和感を、徐々にマシューにも気付いていって欲しいと… ってことはこれはまだ冒頭なのか!!!(今気付く) それでいてラガルトは、マシューともセーラとも交友を暖めてるようでちゃっかりしてるというか(笑) SSとしてアプする前に、とりあえず勢いでここに… 推敲がなっちゃいないのでえらい文章だろな…。 普段はここから、もっときちんと情景とか感情の描写を居れてアプ、と言った段取りです。 さて…寝るか。(あと30分!!? ヒィ!) |
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