覚書
小説に成りきれない雑文や、日々の語りなど。| 烈火の剣 | |
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| [45] 2004年02月18日 (水) 01時00分 烈火の剣 | |
| 「――――ラガルトっ」 風を。 吹き抜ける、一陣の風を、止めるすべなどなかった。 低空を飛んでいたヒースの横を、黒い風が駆け抜けたのは一瞬。 それが「彼」であることを認識し、名を呼んだときには全てが終わっていた。 足を止め、振り返る黒い影。 紫銀の髪をさらりと後ろに流し、こちらを見上げる氷片の瞳。 白い頬には深紅の返り血が数滴、飛んでいた。 ぞくり 体に戦慄が走る。 死神、そんな単語が脳裏をよぎった。 「なんだい?」 死神が口を開く。 ヒースは声が、出なかった。 「ラガルト!」 変わりにその名を呼んだのは、遥か後方から。 「一人で先に行くなって何度行ったらわかるんだ、お前は!!!」 「やぁ、悪い悪い。」 不機嫌を顔に書き込んで駆け寄ってくるのは、死神の元監視役で、今はそのまま相棒の位置に納まっている、 「…マシュー」 「よ、ヒース。無事でお互い何よりだな。」 マシューはヒースへ軽く挨拶をして、そのままラガルトの隣に並んだ。 「で?何処まで行った?」 「こいつで最後だよ。ほれ、青の宝玉。」 「ご苦労。」 ラガルトが敵から拾い上げたアイテムを受け取ると、それを片手に持ち替えて流れるようにハイタッチを交わす。 パンッ、 乾いた音が、周囲の空気を変えた。…ヒースはそう、感じだた。 「んじゃ、本拠地に戻るか。 ヒース!」 「あっ、あぁ!」 唐突に名を呼ばれて、ヒースが慌てて顔を上げる。 「悪いがこれ、先にオズイン様のところへ届けてくれるか?おれ達は歩いて戻るから、少し遅れると。」 「あ、……あぁ。わかった。」 マシューの手からいくつかのアイテムを受け取り、ヒースは物いいたげな表情で見つめ返したが…結局は何も言わずにその場を去っていった。 「嫌われちまったかなぁ」 その背を眺めながら、ラガルトがポツリと呟く。 そんな姿が小さく見えて、マシューは思わず吹き出した。 「…何がおかしいんだよ」 「おかしいさ、ラガルト」 むっとした表情で睨まれたって、何一つ怖いものか。 「お前、自分で思ってるより威厳は無いから安心してろ」 「…なんですかそれは。」 「なんでしょうねぇ」 ふざけた口調のやり取り、笑って逃げるマシューに、ラガルトが腕を伸ばす。 捉え、抱き寄せる力は柔らかく、そのまま耳元に掛けられる吐息は甘く。 マシューは酔うように目を細め、口元に当てられる指先を舐めた。 「……ラガルト」 名前を呼び、ゆるい拘束を自ら手繰り寄せる。 「マシュー?」 「側にいろ」 「………」 「ラガルト、お前は」 …気付いているのだろうか、この青年は。 腕を強く掴む彼は、闇の淵にいる自分を、なお〈こちら側〉にとどめようとしているようにも思える。 「…マシュー」 青年の腕をするりと交わし、その細い顎に指をあてがって上をむかせる。 返事をする間も与えずに深く深く、口づけてやる。 「――――っ、」 慣れた反応で、侵入する舌を受け入れ…マシューは背を伸ばし奥を求める。 おかしい、そう判断する力はラガルトには残されていなかった。 闇に冒され麻痺した思考で、本能だけがマシューを求めて。 「――――っは、ラガ…トっ」 掠れる声にすら感じてしまう。 自身が制御できなくなってゆくのを…ラガルトは感じていた。 流麗な手つきで着衣を解かせ、露になった首筋に歯を立てる。 ――――血、が。 ラガルトの口腔に、いつの間にか馴染んだ味が広がる。 それは、マシューの、 「…っ、痛…」 声を洩らし、肩をすくめるマシューに…正気をゆり戻される。 「………」 そして、呆然とする。 オレは 今 何を? …望んだ? 「…知らなかったのか?」 振り返ったマシューの瞳は普段どおりの、凛とした琥珀の輝きを放っている。 「最近の、お前のおれを見る目… …おれは感じてたけどな」 それは、恐れというよりむしろ誘っているように見えたのは、自分が狂っているせいだろうか? 「ラガルト」 乱れた着衣はそのままで、流れる血も厭わずに、マシューがラガルトへ腕を伸ばしては口付けた。 「おれから離れるな」 その言葉も全て、ラガルトの唇に吸い込まれていった。 闇に捕らわれたのは オレ? それとも、あんたなのか―――マシュー。 手放せだなんて今さら言われても、それはもう手遅れな話。 …すんません。ワケわかりません。 アサシンにクラスチェンジしたラガさんと、やがて後を追うマシュー、です。 マシュをアサシンにしたくなくて誓約書を横取りしたラガさんですが(SS"サイン"参照)、結局自分のまとう"闇"に感化されて引き込まれてゆくマシュー…といった感じで。 誓約後の人間というのは、やはり以前とは少し変わってしまうのかな、とか。 一般人代表でヒーやんを引き合いに出しましたが、何でマシューは平気なのかってぇと彼が「資格もち」だからなのだろう、ということで。もしくは愛。 S月さまのアオとアカの間に位置する時制で…なんてこっそり言ってみたりしますv ていうか落ち着いて考えれば、戦場の真ん中で追いかけっこしたりいちゃついたり服ぬがせてるのねこの二人。 …気にしてはいけません。 |
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