覚書
小説に成りきれない雑文や、日々の語りなど。| 烈火の剣 | |
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| [44] 2004年02月15日 (日) 01時50分 烈火の剣 | |
| 「ホントにそんなのでいいのか?セーラ」 少女が大切そうに胸に抱いているのは、10センチほどの薄い箱。 ラッピングは白い和紙に十字掛けした細身の赤いリボンで、黄色の花のコサージュは店のもの。 いたってシンプルな外装に、その中身も相応の、シンプルな薄い板チョコレートだ。 「えぇ、十分だわ。ありがとね、マシュー」 それでも少女は満足そうに微笑んだ。 時刻は当に日付の移り変わりを告げ、必要な場所以外明かりを落とされた厨房内には二人以外の気配は無い。 ランチタイムを含む、明日の来客用にと用意された生チョコレートの鬼のような箱詰め作業が終わった後に、少し時間が取れるだろうかとセーラが話を持ちかけ、理由を知っているからマシューも疲れた体を押して承諾した。 「安心したら腹減ったな。昼間の試作、未だ残ってるかな」 ―――昼間の。不慮の事故で水が入ってしまったチョコレートの無事な部分を、生地に練りこんで焼き上げた薄手のパンは幸いにも好評を博した。 棚を開けて捜すマシューの背に、セーラが珍しく少し躊躇いながら声をかける。 「あっ、あのね、マシュー…!」 暗い廊下の向こうからもれてくる明かり、その奥から少女の声が響いて、また呼ばれた名前にびくりとしてエルクは足を止めた。 「これ、良かったら……食べて?」 ――――どうして。 どうして僕は、いつもいつもいつも!こう、間が悪い時に出くわしてしまうんだろう… そうは思いながらも、確認せずにはいられなくて。 こっそり歩を進め、半開きの戸の隙間から厨房内をうかがう。 嫌な予想通りに、そこには若い男女が二人きり。マシューとセーラ、である。 「………それ。お前が作ったのか?」 棚の中を覗いていたマシューが身を捻り、セーラが足元から取り出した箱の中を見やる。 ここからでは確認できないが、箱の大きさからどうやらケーキらしい。 「うん。その、ちょっと、失敗しちゃったんだけど」 「…。おれが食べて言いのか?」 「うん。 マシューのために作ったんだから。」 「それは、どーも。」 普段どおりの茶化した返事、けれど彼の頬が薄く色づいてるのをエルクは見逃さず、それを受けたセーラの顔なんて… 考えたくも、なかった。 きっと予定の半分くらいの厚さなのだろうクラシックのチョコレートケーキを、無造作に指でつまんで口元に運ぶ。 ふわりと広がる苦味はきっとチョコレート由来のものではないなと判断した時に、パタパタと遠ざかる足音に気がついた。 「…マシュー?」 「―――いや。セーラ」 「なによ。」 「お前、…だからおれにチョコレート教えろっていったんだな?」 「……さあ、何のことかしら」 《失敗作》のケーキを少女の手から取り上げて、マシューが意地悪な表情を浮かべる。 「〜〜〜〜〜〜〜だって」 視線の重みに、耐えかねて。セーラが言い訳を口にする。 「好きな人には、一番美味しいものを…食べてもらいたいじゃない」 …やっぱりあの二人は付き合っていたんだ。 朝が訪れても、エルクの頭は晴れない。 何度浮かんでは消してきたことだろうかその答えに、今度こそ否定する要素が見当たらない。 夜中に、厨房に二人きりで、マシューのためにとケーキを焼いてきたセーラ。顔を赤らめて、それを食べたマシュー。 エルクはその時、マシューにはレイラという正規の恋人と、ラガルトという違法な恋人がいることを不幸にも知らなかった。 知っていれば…もう少し楽になったろうか、それともそれ以上に理不尽さに頭を悩ませただろうか。 悶々としながら、バイト先であるレストランへの道を急いだ。 「エ―――ルクッ♪」 バシン。 ―――そこへ。衝撃が後頭部を襲う。 「いっ、 …セーラ!!!!君は!!!!」 「なぁに暗い顔してんのよ、こんな日に!」 晴天に負けないくらいの強い笑顔でセーラは言って。 「はいっ、ハッピーバレンタイン!」 肩に提げていたバッグから、小さな箱を取り出した。 「………え?」 「あげるって言ってるの。 どうせ今年も一人からももらえてないんでしょう?」 「よっ、余計なおせわだ!!!」 「ふふふ、じゃあね!私、先に行ってるから!」 「え、あ、セーラ…!!!」 呼びかける声もむなしく、セーラはいつの間にか横につけられた車―――オスティア家の紋章入りだ――に乗り込んで行ってしまった。 「………まさか手作り?」 ふわりと浮かんだ疑問に答えるものもなく。 エルクはしばらくそこに放置されることとなった。 ひとまずこれにて〜〜(涙) 体力尽きてオズセラまでには行けず |
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