 「早く起きなさい!もうすぐ6時よ!」 私は池田ありす。 私の通っている学校、聖林高学校はとてつもなく暗い学校。 一応名門高校だから人気もある…入るまでは…だけど…そして毎年 の受験生の人数は200以上。 私はこの学校に好きで入ったわけじゃない。母がむりやり入れたのだ。 私は普通の高校に入って、友達をたくさん作って、高校生活を楽しくすごそうと思っていたのに…。 この学校の登校時間は7時半〜8時半まで。 家から遠い訳じゃないのに毎朝母に起こされる時間は5時50分。 いつも夜遅くに寝て朝こんな早くに起こされていて寝不。 学校が終わるとカバンを置きに家に戻りすぐに塾まで自転車をとば す。 6時ごろから10時ごろまで塾で勉強、くたくたになって家に帰ってそ こからまた学校と塾の宿題をする。終わるのは12時30分ごろ。 そこから明日の学校と塾の準備、お風呂に入って制服にアイロンを かける、けっきょく寝るのは2時ごろだ。 休む時間がほしかった…でも休む時間なんて1分も、1秒さえもなか った。 私は高校に入ってから一回も笑ったことがない。 中学3年のとき、仕事のつごうで両親が離れて暮らすことになって、 大好きだった父と離れ離れになった。 母と私は考えが違いすぎて、ケンカばかりしている。 父の家は知っている………でもいつでも行くことが出来るわけじゃな い。 何度も家出をしようと思ったけどムリだった……。 母の言うことをきいて、まるでロボットのような生活……私は鳥かご に閉じめられた鳥のようだ……毎日寝不足…“休む時間がほしい” とゆう叶うことのない願いが私の心を乱す…この生活は狭くて…私 は今にも押しつぶされそうだった。 でも…これでもうこんな生活からおさらばできる………私が父の家 に行くことが出来なかった理由がなくなるから。 私は10時に塾を出てから12時までバイトをすることにした。 いつでも家出が出来るように…もちろん母には秘密だ。 もう分かるだろうけど一応言っておく…父の家にいけない理由、それは“お金”だ。私には電車に乗るためのお金がなかったんだ。 これで私の願いが“すべて”叶った…と言ったらそうじゃない。 まだ叶っていない願いもあるわけだ。 怖いことや心配なこともあるし、なに1つ不自由していないわけじゃない。 「叶う願いは自分の手で叶えるんだ…!」 私はそう決心した。 もう母の暮らしに縛られるのはイヤだ。私だってもうできる。 ご飯も掃除も洗濯も…一人暮らしだってお金があれば出来る。 でも…肝心のお金がない……バイトが母に見つかるまでに何円稼 げるかも分からない…もしかしたらもう見つかっているかもしれな い……怖い… 一生自由になれないかもしれない……もしそうなら……自分だけで 何とかできるわけがない…… 私の心には新たな悩みが生まれた。私は考える。 助けてもらおう………《誰に?》 私が心で思っていることにたいして誰かがきいてくる。 家出しよう………《どこに行くの?》 また…誰?私にはその声が誰なのかが分からなかった。 でもその声は私が考えもしないことを聞いてくる… そうだ……父さんの家に行こう。 《それで…誰があなたを助けてくれるの?》 そんなの誰でもいい…今はお金を貯めることが大切だ…お母さんにばれるまで……がんばろう。 抜け出さなくちゃ……この世界から私を助けてくれる人を探さないと……バイトを始めてから一ヶ月たったころ……… 「ここ一ヶ月塾の帰りが遅いんじゃない?何をしているの?」 私は無言。 「答えられないような悪いことなの?」 「バイト……」 「何…?バイト?」 私がうなずくとお母は私の左の頬をたいた。 「なに!?バイトをするのは私の自由よ!何でなぐられなきゃいけないの!?」 「親の言うことも聞かないで何バイトなんてしているの!?しっかり勉強してちゃんとした仕事をしなさい!!」 「なんでお母さんの言うことばかりきかなきゃいけないの!?」 「誰のおかげで生活していると思っているの!?親の言うことをきくのはあたりまえでしょ!?子供はおとなしく親の言うことをきけばいいの!」 「言うことをきくのはそれが正しいときでしょ!?今のお母さんの言うことは間違っているわ!子供も自分で考えないといけないときがある!子供だって1人の人間よ!心もあるし、考えることも出来る!かんちがいしないで!私はロボットじゃない!」 離れて暮らすようになってからの母の頭にはいっているのはお金のこと。 子供のことも弟の彰吾だけ甘やかして私のことなんて全然考えていない。 家にいれば「勉強しなさい」とか「少しは家の手伝いをしたらどうなの」とか、そうゆうことしか言わないのである。 私は部屋を飛び出して自分の部屋に行った。 することはもちろん“家出の荷物まとめ”だ。 臨海や修学旅行のときに使った大きなカバンに荷物をつめた。 もうここにはいられない……鳥かごから飛び立つ日がきたの… さあドアを開けて………… そのとき「やっと私は解放されたんだ」と感じることが出来た。 これが私のかなうことのない願いの1つ…“自由”なんだ…… 私は初めに銀行に行った。 バイトで貯めた15万ほどのお金をシルバーのケースに入れて鍵をかける。これから歩いて駅にむかう。 駅に着き、切符を買って電車に乗る。 父の家は“花田木駅”からバスで3分ほどの所にある“花町”で、歩いて行っても10分かかるかかからないか。 花田木駅に着いたとき、ちょうど“花町”行きのバスがバス停に止まっていた。 バスが止まった。私はそのバスに乗る。 窓側の席に座る。 バスが動き出すと窓をとおして見える外の景色が流れる。 私が外を見ている間に花町についていた。 バス停の真正面の家から右に4件進んだところにある家が父の家だ。 バス停から歩く。父の家の2件前から父の駐車場が見える。 車がないことで今父は家にいないことが分かった。 近くにいれば帰ってきたことがすぐ分かるし、家の前で待てばいいのだが、急にきたものだからいつ帰ってくるかも分かっていない。 もしかしたら夜まで帰ってこないかもしれない。 何をしようか迷ったけれどまずは服を買いに行くことにした。 商店街にくるとハデな人がふえる。 この町はおしゃれな人ばかりだ、母が買ってきたシンプルな服しか持っていない私に町の人が 「くるところが間違っている」 と言っているような目で私を見る。 私とおなじくらいの年齢の女の子はきれいな服を着てすごくカワイイ。 くやしい……母の言うことばかりきいて生活していた私が前よりもっとバカらしくなってきた。 一件の店に入った。 オシャレなカワイイ店だ。 18歳くらいの店員の人がニコっと笑って 「いらっしゃいませ〜」 と言った。 入口の右側にレジがある。 私は店員さんに手伝ってもらって何とか服を選んだ。 パーカーの下から白いノースリーブの模様がのぞく。 半ズボンにはピンクのハイビスカスがさいている。 髪を結んでもらって、メイクまでしてもらった。 鏡を手渡されて見てみた。 「うそ〜!これが私!?」 と口が勝手に言っていた。 「ありがとうございます、メイクまでしてもらっちゃって…」 「かんたんなことですから…またきてくださいね〜」 と言って店員さんはニコッと笑ってくれた。 私はドアを開けて店を出た。 オシャレをしただけでこんなにもいい気分になるなんて思いもしなかった。 私はいい気分のままもう一度父の家に行こうとしたとき… 「すみませぇん」 後ろから声がした。 後ろをむくと私の腰くらいの背丈の腰の曲がったおばあさんが私を見上げている。 「何?」 私はそう言うとおばあさんが… 「田木町にはどう行ったらいいのか分からなくてねぇ〜…」 田木町は花町の隣にある町で父の家の近くだ。 父の家の前の道路をまっすぐ歩いて1つ目の交差点を右に曲がったところからが田木町だった。 「おばあさん、一緒に行きましょうか?」 私はおばあさんに言った。 「お願いしますぅ」 おばあさんは私に笑みを見せてくれた。 私はおばあさんがスーパーの袋を5袋ほど持っているのに気が付いた。 お菓子のような軽いものが入っている袋、調味料などの重いものが入っている袋、落としたら割れてしまうような、“卵”や“お酒の入ったビン”なんかもある。 おばあさんはその袋を重たそうに持ち上げ一歩一歩ゆっくり歩いていく。 「おばあちゃん、荷物持つよ!」 私はおばあさんのところに走っていって3袋を持ち上げた。 もちろん重そうな袋のほうだ。 私にとっては軽い袋だった。 「ありがとうねぇ〜大丈夫?」 「大丈夫です。軽いから」 私はそう言った。 「そういえばあなた名前はなんていうの?」 おばあさんが名前を聞いてきた。 「“ありす”です」 「可愛い名前ね、私は“美代子”よろしくね」 美代子おばあさんはまた歩き出した。 歩き始めて何分たっただろう…美代子おばあさんのペースに合わせているとどうしてもゆっくりになってしまう。 「“みよばあ”はなにをしに田木町に行くの?」 私はいつのまにか美代子おばあちゃんを“みよばあ”と呼ぶようになっていた。 「結婚した娘と暮らすことになって…“いつでもいいから準備してきてね”って言われてねぇ…」 「へぇ〜…よかったね」 「楽しみでしょうがないのよぉ」 みよばあ はすごく楽しそうに娘さんのことを話してくれた。 私の母とは違って娘を愛していたとゆうことがすぐ分かるほど楽しそうに。 父の家の前を通った。父はまだ帰ってきていない。 田木町にある、みよばあ の娘さんの家についた。 玄関には女の人が落ち着かない様子で立っている。 女の人が みよばあ を見つけて 「お母さん!」 と言って走ってやってくる。 「由梨、こんにちは」 この女の人が みよばあ の娘さん、名前は“由梨”21歳。 「遅かったじゃない!ちゃんとこれたのね!」 「ありすちゃんが連れてきてくれたのよぉ」 「ありす?」 由梨さんは私のことをじーっと見つめて 「あ!“理沙実”先輩の娘のありすちゃんね!ひさしぶり!」 理沙実とゆうのは私の母の名前。 由梨さんは母の勤めている会社の後輩だった。 「おひさしぶりです…」 私はあいさつをした。 「急いでる?少しあがっていかない?」 「はい…」 私は由梨さんに連れられてリビングにあるテーブルのイスに座った。 「少し待っててね?お母さんを部屋に連れて行くから」 「はい…」 10分たった。 「お待たせ!」 由梨さんは冷蔵庫がらオレンジジュースを出してくれた。 “カラン”とコップに氷が入る音がリビングに響く。 「はい」と由梨さんが私にコップを渡す。 由梨さんはオレンジジュースを一口飲むとこう言った。 「ありすちゃんはなんでここにいるの?」 「…家出…です…近くに父の家があるので…」 「家出…?どうしてそんな…」 「このまま家にいたら私はロボットになってしまう…」 「ロボット…!?」 「言うことをきいて動くだけじゃだめだと思ったんです…」 「…」 「だから私は母との“距離”をとることにしたんです…母が可愛がるのは彰吾だけですから…私は母にとって“不必要”な存在…私はいてもいなくても関係ないと思って……」 「そんなことないよ、自分の子供がいなくて寂しがらない親なんていないと思うけど…?」 「“思う”でしょ?もし一千万人のうち一人が自分の子供がいなくても平気な親だったら私の母はそのうちの一人なんです。」 「でも理沙見先輩はあなたを愛してくれていると思う…」 「ええ…父と母がはなれて暮らす前までは…ね…ちょうど、あなたがあの会社をやめてしまう前までは優しかったんです…あのころの私は友達もたくさんいてよく笑う子だったんですよこれでも…母も“将来はあなたのやりたいことをすればいいわ。高校に入ったらバイトをしてもかまわないから”って言ってたんです…でも……あ、私が家出した理由言ってませんでしたね…バイト見つかってぶたれたんです…私が言いたいこと分かりますよね?」 「前に言ったこととは反対のことを理沙実先輩はしている…?」 「そう…母は父とはなれて暮らすようになってから変わってしまった」 「理沙実先輩が…?優しくなくなった理由はなに?」 「……暮らし…です…」 「暮らし?」 「両親は相手が嫌ではなれて暮らしているわけじゃありませんから」 「お父さんの仕事…それと、あなたの学校の問題でしょ?」 「はい…私さえいなければ父と母ははなれて暮らすことはなかった し…」 「…もう6時ね…どうする?」 「一度父の家に行きます。」 「いなかったら家にいらっしゃい、泊めてあげる。」 由梨さんは電話番号が書いてあるメモを渡してくれた。 「ありがとうございます」 私と由梨さんは玄関に行った。 「ありがとうございました」 私がそう言うと 「またきてねぇ」 と横の部屋から みよばあ が言った。 「うん、またくるね」 私は みよばあ に言った。 みよばあ は笑ってくれた。 本当の家よりもこの家のほうが温かい…私はこの家が好きになった。 「私がここにいることは秘密にしておいてください。」 「分かったわ…それから私にも1つお願いが…」 由梨さんは私の耳元でささやいた…“今度から敬語は無しね” 少し驚いたけど私は 「はい!」 と元気よく返事をして父の家に向かった。 私には由梨さんの言葉がすごくうれしかった。 父の家のガレージには青色の車が止まっていた。 私はインターホンを鳴らす。 《はい》 「ありすです」 《ありす…ありすか!?ちょっと待ってろ!》 父はそう言ってバタバタとあわてた様子で出てきた。 「どうした?まぁとりあえず入れ」 私はリビングに入った。 テーブルの前のイスに座った。 イスは四つあった。 毎日父はここで1人、ご飯を食べているのかな…さびしいだろうな… 「母さんは元気か?」 父は母のことをきいた。 父が母のことをきいてもおかしくない。 仕事のつごうで遠くに行くことになってしまった父が「私が転校するのはかわいそうだから」と言ったからはなれて暮らしているだけだ。 私は黙ったままでコクンと首をにふった。 「そうか、元気か…」 父はそう言ってうっすら笑った。 「それで?用は何だ?」 父は母があれから変わってしまった事を知らない…知らないほうが幸せだろう…でも…私はいままでのことを全部話した…すると… 「そうか…家に泊まっていくか?これからどーするんだ?母さん心配してしてるんじゃないか?帰って謝るなら早いほうがいいぞ?」 父が母より私のほうが悪いと言っているように思えた。 「私、謝らないよ?悪いのはお母さんだもん…前言ってたことと、今言ってることが正反対なんだし…お母さんはぶったもん…私だってぶちたかったわ!塾だって嫌でも行ってるんだからバイトくらいわがままきいてくれたっていいじゃない!」 「ぶったのも悪いけどな、ありすだって悪いところくらいあっ」 「もう!なんでお母さんのみかたばかりするの!?」 「…ありす、そんなに塾行くの嫌か?」 「あたりまえよ!勉強なんて学校でちゃんとやってるのにどーして塾なんて行かなくちゃいけないのよ!?」 「母さんはお前の将来を考えて…」 「自分の将来くらい自分で決めるわ!お母さんみたいな仕事はやらない!私は物語を書くの! いつまでも子供扱いしないでよ!」 「まだ子供だろ……」 父は入れたてのコーヒーを一口飲んだ。 いつも冷静な人でかっこいいとさえも思った父のことが今はにくたらしくてしょうがない…父のことをこんなふうに思う日がくるなんて考えたこともなかった。 「私は言うことをきいて動くだけのロボットじゃないのよ!もうお母さんにしばられるのは嫌なの!」 私は声を張り上げて言った。 「たしかにありすはロボットじゃないけどきついことも全部 “自分のため”だと思えばなんてことないさ」 私は父のその言葉をきこうとはしなかった。 「部屋…空いてるんでしょ?使うから…」 私はそう言って2階にあがっていった。 私は父からわたされた部屋の鍵をドアの鍵穴にさして右に回した。 カチッと音が鳴って鍵が開く ドアノブに手をかけてグッと下におろして自分のほうに引っ張った。 キィィィとさびた音が鳴ってドアが開いた。 少しホコリっぽい…ずいぶん長いあいだ使われていなかったようだ。 フローリングの床のを歩くと靴下が黒くなった。 奥にあったベッドの布団をベランダの手すりにかけて手でたたいてみた。バフッバフッと音が鳴ってホコリがまう。 ホコリが出なくなるまでたたいた。 次に掃除機を借りて部屋中の大きなホコリをとる。 そのあとに雑巾で床をふいた。 ベッドには水色のシーツをかけて干していた布団をのせる。 次は荷物の整理だ。カバンから荷物を出した。 本が13冊、服は持ってきてないけどさっきの店でそろえたから上下5着づつ、折り畳み傘、サイフ、文具、使わないのに入れたものもある…あとは 「写真…?」 青色の写真たてに入れられた写真。 移っているのは3人の家族…中学1年の私と、父と母…幸せそうな笑顔…私の中学の入学式で撮ったものだった。私は気づいた… 「この私…笑ってる…?」 今の私は笑うことが出来ないのに…このころの私は出来たんだ…私は思い出した…このころのお母さんはすごく優しかった… 高校受験の合格の知らせがあった日の夜…私はのどが渇いて部屋を出た。 このときはもう父とははなれて暮らしていた。 前の家は広すぎたからマンションの5階に引っ越したんだ。 一番おくの部屋が私の部屋。 むかいにあるリビングのほうからかすかな音が聞こえる。 「ヒック…ヒッ」 (泣き声…?) 私は声に出さずに頭の中で言った。 ドアが少し開いていて…その間からかすかに光がもれていた。 そのとき彰吾は私と同じ部屋の2段ベッドで寝ていた…そうなると泣いているのは母しかいないではないか…私は隙間からのぞいた。 母が机に顔を押し当てて泣いている。 「しん…どぉしてヒック…私たちがはなれなきゃいけないの…?さびしいよぉ……」 “しん”とゆうのはお父さんの名前…漢字だと“申”と書く。 私は母の泣くところは見たことがない。 父とはなれるときも… 「私は大丈夫だよ!ありす もいるし…それに申だって仕事が終われば帰ってくるじゃん!お仕事がんばってね!」 と言って元気に見送っていた。 「お母さん」と声をかけようとも思ったけどやめた…たまには思いっきり泣かしてあげたほうがいいと思った。 いつも泣かないのは私に心配をかけないためだと分かったからだ。 (お母さんは毎晩隠れて泣いているのかな……?) 私は台所に行って水を飲むとさっさと布団に戻った。 見ていたら今までの母の苦労が水の泡になてしまう…母が必に隠していた思いがムダになってしまうと思ったんだ。 次の日の朝、母はすっかり元気になっているように見えた。 でも私には分かった。 あの笑顔はにせものだ…心から笑っているわけじゃない。 今の母の目は赤いんだ…本当はまだ泣きたいはずなのに… 「お母さん目…赤いよ…?」 「あーこれ?かゆくてこすっちゃったの!」 「私の前だからって我慢しないでいいよ…?私じゃ頼りないけど…」 「!…ありす…なんのこと言ってるの?お母さん分かんないんだけど」 「知ってるよ…昨日見ちゃったの…少しくらい泣いてもいいんじゃない?」 「……ありす………わぁぁぁぁぁ!!」 母は私に抱きついて泣いた…声を張り上げて、たくさん涙を流していた。 その次の日、やさしかった母は消えた…私の笑顔と一緒に… この写真のころまでの私は今の私が 「本当にこれが私?」 と思うほどよく笑っていた。 キラキラ輝いて、笑うことが出来ない今の私なんかより百倍、いや千倍かわいかった。 くやしいくらい幸せそうで今の私なんて本当はいらないんじゃないかとまで思わせる。 (お父さんもお母さんのみかた…今のところ私のみかたはいない…お父さんの家を出たとしたらいくところないんだよな…さんの家しかないんだよな…友達とかいたらいいのに…もうちょっと考えな きゃ…) 3時間たった。部屋はすっかり片付いている。お風呂に入って、寝ることにした。私はあおむけになってベッドにのった。 この部屋は2階。上には少し斜めにかたむいた平らの壁のようなものが乗っているだけの屋根。私がいる部屋のてんじょうには、はば 2mほどの天窓があってそこから星を見ることが出来た。 「きれい…」 まるで中3のころまでの私のようにキラキラ輝いている星があった。 たくさんの星の中で一番輝いている…その隣にはあまり光っていない星があった。今の私みたい…そう思った。 今の私は全然耀いていないともう一度自覚した。 いつのまにか寝ていたようだ…私が起きたのは朝5時…もう一度寝ようとしても眠れなかった。 私はメモをリビングの机の上に置いた。 “ちょっと外を走ってきます。鍵使わしてもらったよ!“ポスト”に入れておきました。仕事に行くまでに私が帰ってきていなかったら机の上にメモを置いていってください。家に入れなくなると困るので鍵はまたポストの中ね?朝食は用意しなくていいです。” 父がいつも鍵を入れているカゴから鍵を出して家を出た。 メモのとおり鍵はポストに入れた。 私は田木町にむかって走った。 みよばあ の家の台所に電気がついている。 台所の窓を見ると由梨さんが朝食をつくっていた。 「こんな時間からつくるんだ…」 私は5分くらいその場所にたちつくしていた。 由梨さんの幸せそうな顔が私の頭の中にはいってくる。 「このままここにいたら私はこの“感情”を隠すことが出来なくなる」 そう思い私はその場から離れた。 横断歩道をわたろうとしたとき“ププー”と車が私のほうへ走ってくる車はあわててブレーキをふんだがすぐには止まらない。 (ぶつかる!!) 私はあきらめて目をつむる…そのとき…私の体が浮いた。 「あっぶねぇ〜」 誰かの声…私は目を開ける…目の前には男の子がいて私はその子に抱えられていた。 「きゃぁ!!」 私は思わず叫んでしまった。 男の子は15pくらいの髪の長さ、髪を金髪に染めて、髪先5pくらいまでのところが黒い…私はその髪に見覚えがあった。 「なにが“きゃぁ”だよ!ぬ気か!?右左くらい見ろ!」 男の子は私にどなった。 「だれ?」 私は男の子に名前をきいた。 「右京!」 「私は…ありす」 「ありす?どこかできいたことあるような…気のせいか…?」 「右京もしかして大阪の人?」 「前まで大阪に住んでた。それがどーかした?」 「もしかして…」 「もしかして?」 「士左地右京…?」 「池田ありす!?」 私は赤くなってうなずいた。 士左地右京…私の初恋の人。 右京には告白もしていない…まだ好きなんだけど…ね。 右京は前住んでいた家の隣に住んでいた。 右京と初めて会ったのは3歳のとき。 私が泣いているのをなぐさめてくれたのをよく覚えている。 私と右京の部屋が隣で家と家の幅が1mより少し短いくらいだったから窓を開けて話すことも出来れば窓から窓に移って遊ぶことも出来た。 毎日こうたいで2人の家で遊んでいた。 相手がいつでもくることができるように留守のとき意外は窓の鍵を開けていた。 右京の部屋に行くとゲームをすることが多かった。 ゲームはゲームでもテレビゲームだけじゃない。 テレビゲームで対戦するのはあたりまえのこと、トランプやオセロなんかもしたし、相手の夕飯の時間が分かっていたから両方の夕食が終わったらすぐに遊ぶことが出来た。 私の部屋に来たときは小説を書いていた。 右京は私の夢を応援してくれた。 右京はゲームも好きだけど本を読むことも大好きな人だった。 私も右京も1年に250ページほどの本を200冊ほど読む。 部屋で遊ぶようになったのも2人ともゲームも小説も好きだとゆうことを知ってからだった。 右京は小説を書いたこともあってとても頼りになった。 書こうと思ったきっかけは右京の 「お前小説書く気ない?」 とゆう短い言葉。 私はもちろんOKした。 さっそく私と右京が好きなファンタジー小説を書き始めた。 右京と私で話し合って内容を細かくノートにまとめる。 ノートにまとめた内容を言葉を選びながら文章にしていく。 “小説の仕上げは2人がいるときにしよう”書き始める前にした約束。 文章の最後の文字が書かれた。 右京は喜んだ…私も笑顔を見せて…ただ笑顔を見せているだけでもきっと右京は私がすごく喜んでいたと分かったと思う…だって私の心も中には幸せで満たされていたから…見せた笑顔はいつもの笑顔じゃなかったんだ…洗面所で鏡をみたとき思った…いつもの笑顔なんて本当の笑顔じゃないんじゃないかって…私は小説が書きあがったことはもちろんうれしかった、でも好きな人と“一緒に書き上げた小説”だとゆうことがなによりもうれしかった。 最後にその小説の内容にあった“題名”をつける。 「幸せは友達と…」 右京と私がはじめて書き上げた小説…この小説は皆に好きになってほしい…そう思った。 でも私は誰にも読ませなかった…右京と私…“2人だけ”が知っている小説にしたかったから。 1歳年上の右京は面白くてスポーツ万能で、やさしくて…私の憧れだった。 私は右京の言葉、性格…すべてにひきこまれていた…右京の笑顔を見るたびにドキドキして…夜に遊ぶのがとても楽しみだったんだ。 そのとき私は中学2年生、右京は中学3年生。 右京が受験勉強で昼間遊べなくなって昼間やることもなく寝てすごした。 私は学校では地味な存在。 いつも髪をみつあみして目が悪くもないのに“度”がはいっていない眼鏡をかけていた。 家に帰って眼鏡を取って制服から着替えて…右京と夕飯まで遊んで、夕飯が終わったらまた遊んで…学校の友達は、分からない問題を教えあうくらいしかしない。私は右京がいれば満足だった。 遊ぶための友達はいらない…そう思っていた。 でも今は友達がほしいと思った。右京と会えなくて寂しさでうまった心をまぎらわすために…私はみつあみをやめてポニーテールにかえた。 眼鏡もはずして、制服のスカートもいつもより短くして… 朝、学校に行って教室のドアを開けた。 「ぉ、おはよう…」 中学に入ってはじめて言う言葉…すごくキンチョーした… 「おはよー!!」 皆はそう言ってくれた。 「だれ?あんな可愛い子いたっけ?」 「バカ!池田さんだよ!」 私の周りには、はじめて人が集まった。 「ねー友達になってー!」 「今日一緒に遊ばない?」 「池田さんってほんとはすごく可愛いんだね〜」 「前とイメージ違うねー話しやすいよ!」 「だて眼鏡だったの!?」 「メアド交換しよ!」 皆の言葉が今の私にとってうれしいことばかりで、すごくはげまされた。 私はその日から友達と遊ぶようになった。 右京に会う時間が少なくても右京のことが好きだって気持ちは変わらなかった。昼間に友達と遊ぶようになってからも夜は右京と遊んでいた。 右京が時間を作ってくれたから。 そして1ヶ月がたった。 小説の2冊目が完成した。 でもその小説は1冊目と同じように喜ぶことができなかった。 右京は喜んでいたのに…右京は気がついていたかな…? あのとき私がとても寂しかったこと…… 右京は遊んでいてもボーっとしてるし…会う時間も前よりずっと少なくなって…「大丈夫」って言葉を笑いながら言うのとても苦しかった…本当は泣いて「寂しい」って言いたかった。 今の私を右京が好きになってくれるわけがない。 もし今の私がニコニコ笑える子ならきっともう告白していたと思う。 右京は考えもしなかっただろうな…私がこんなふうになってるなんて……運命は人が思っているように楽しいばかりじゃない…未来なんて予想がつかないんだ…真っ暗な未来…前の私なら考えなかった…私がこんなふうになっているなんて…右京と離れてからの私には “やる気”がない。 前は寂しい気持ちをまぎらわすために友達を作ったりしていたのに。 「もし未来を変えることができるなら…右京はどうするんだろう…」 私はそう思った…自分の未来を考えもしない私が… 「ありすは何してた?」 「走ってた…」 「俺も…また走る?」 右京にきかれて私は「うん」と言った。 少し母に感謝した。 家出したことで右京と会えたんだ。 右京と私は走りながら昔の話をした。 昔と言えるほど前じゃないけど10年も前のことのような気がした。 「ありすは中2のときと同じでよく笑うな」 ビックリした 「私が…よく笑う…?」 「どうした?」 「私は…笑わない…」 「え?」 「笑えない…」 「どうした!?」 「私がここにいる理由まだ教えてなかったよね?」 「…うん」 「家出したの…今はお父さんの家に泊まってる」 「どうして…」 私は由梨さんや父に話したときと同じように右京に話す。 「この話をしたの…右京で3人目なの…父は母のみかた…右京は?右京もお母さんのみかた?」 「…俺はありすのみかただよ…」 私はビックリした…右京は母のみかただと思っていたから。 それでも私は、はじめて現れた私のみかたをしてくれる…私を信じてくれる人…そんな人がいてうれしいはずなのに素直に喜べない……私は “同情しているだけの人が「みかた」になるのなら私は一生みかたなんていらない“ そう思った。 「なんで…?」 私は右京にきいた。いやな言い方…自分でも分かった…今の言い方はすごくいやな言い方だった…幼なじみの右京さえも信用していないような言い方…私は自分がいやになった…それでも右京は 「約束したから…」 「…?」 「はじめてお前と会ったとき…今みたいに ありす は ありすの母さんとけんかしてて、お父さんはお母さんのみかたばかりする…って泣いてて…そのとき、俺はずっとお前のみかたや!て約束したから。」 「そんなに前のこと…覚えててくれたの?」 「うん!大切なことは忘れない!」 右京が笑った。 「どうした?」 「な…何が?」 そのときは気がつかなかった…私の目から涙があふれていること。 10秒もたつと涙が乾いて少しかゆくなる…そのときやっと気がついた。 「右京…ごめんね…?ビックリしたでしょ?」 「ありす…」 右京は少し寂しそうな笑顔を見せて私に抱きついた。 「右京?痛いよ…?」 「ごめん…ありす…受験のとき寂しい思い…させてごめん」 「…何?何言ってるの?私分かんな」 「本当は気がついてたのに!ありすが寂しそうなの…ありすが無理して笑顔見せてるの…気がついてたのに!またありす泣かして…」 「何言ってるの?あの時私泣かなかったよ?」 「自分の部屋で泣いてたの見た!遊ぶの終わったあと机につっぷして泣いてるの見たよ!受験勉強で遊ばれなくなってから2日たったくらいから…本当にごめん!」 あの時と同じ…お母さんが泣いてるところを見たときと同じなんだ… 「…あの時…私寂しいのにたえられなくて泣いた…でも…朝に右京の顔見たらはげまされたんだ…右京泣かないで…笑って?私に笑顔をくれるのは右京の笑顔だよ?どんな言葉よりも、どんなものよりも、私には右京の笑顔が一番うれしいプレゼントだよ?右京の笑顔を見るだけで私は幸せ…だから笑っていて…ね?」 私は感じた…いまの私は笑っているって分かった。 「右京の笑顔を見るだけで幸せ」この言葉はうそじゃないただ右京を笑顔にするだけの言葉じゃない、私の本当の気持ち…私には右京が必要なんだ…私はついに決意した…告白…今言おう… 「右京…あのね私右京がす…」 「ストップ!」 「え?」 「俺から言わせろ…」 「…」 体が熱い…溶けてしまいそうなほど熱くて熱くてたまらない…もういまの私には右京の顔を見ることが出来なくなっていた。 「えっと…俺は始めてありすと会ったときからありすのことが好きだ」 「…」 「付き合って!」 「あのさ…ひとつきいていい?」 「なに?」 「右京もしかして告白はじめて?」 私の質問と右京の答えには間があいた。 「ギクッ!」 「やっぱね…」 「そーゆーありすは!?」 「断ったことはあるけど告白はしたことないよ?」 「ありす…一回父さんの家戻って荷物まとめてきて?」 「持ってきた荷物?」 「そう」 私には何がなんだか分からなかった。でも右京は私がよく分かっていないことに気がついたみたいで理由を言ってくれた。 「俺、今ここの近くのマンションで1人暮らししてて…父さん、母さんのみかただったら、ありす母さんのみかたの家にいるのつらくない?もしそーだったら家きたらいいと思って…」 「行っていいの!?」 「部屋1つあいてるからいつでもOK」 「やったー!!」 「マンションの場所ここ…メモ見てきて?部屋空けとく」 「うん!」 右京は走って家に戻った。私も家に向かって走った。
家に着いたのは6時5分ごろ。まだ父は寝ている。 私は部屋に行って荷物をまとめた。 6時30分に私は家を出た。 メモに “友達の家に泊まることにしました。鍵はポストの中です。多分もう帰ってこないと思います” と書き残して… 右京が書いた地図を見ながらマンションを探す。 「ここが右京の住んでいるマンション?」 マンションの名前は“ポッチー”。 管理人のおじさんが飼っている犬の名前からとった名前だ。 このマンションは管理人さんが動物好きだから“動物OK”らしい。 私は10階建てのマンションの6階を見た。 右京の部屋が6階の右端なんだ。 マンションのロビーに入る。ロビーにはインターホンがついていて、部屋の番号を入力すると部屋の人と話すことが出来て、ドアのロックを開けてもらえるんだ。 私はさっそく番号を入力する。「ピッピッピ」とゆう音がロビーに響く。 “決定”を押すと 《はい?》 と声が聞こえた。間違いなく右京の声。 「私よ」 《ありす?待って、今迎えに行く。》 「分かった、待ってるよ」 私がそう言うと“プツ”っと音が鳴って話が出来なくなる。 切れてから1分もたたずに右京が走ってきた。 「お待たせ…ゼーゼー」 「ま、待ってないよ!!」 こんなに早くに来てそれでも「お待たせ」と言った右京はすごく疲れていそうだった。 右京は息を整えてから 「そう?」 と言った。 「ここ、ホコリついてるよ?」 と私は右京の頬についていたホコリをとって見せた。 「本当だ…部屋の掃除してたからそのときついたんだと思う」 そう言って右京は白い歯を見せた。 「いこう?」 右京が私の手をにぎった。すると顔が真っ赤にそまる。 「右京…まさか女の子と手をつなぐのもはじめて?」 私が聞くと右京が首を上下にふった。 「マジ…?」 私はビックリした。 手をつないだことが無いとゆうことはこんなにカッコイイ右京に彼女がいなかったとゆうことになるんじゃないかと思ったんだ。 「右京…彼女いなかったんだ…?」 「!…なんで分かるの!?」 右京が、あんまりにも おおげさな反応をするものだから私は「クスクス」と笑ってしまった。 「だって彼女と手もつながないなんてありえなくない!?」 「そんなことで分かるのか?」 「ま、100%じゃないけどね」 「へー…部屋行こう!!」 「うん」 私たちはエレベーターで5階まで上がる。 右京がポケットから出した鍵でドアを開けた。 右京が 「入って」 と言ったので私は玄関で靴を脱いで部屋に上がる。 片付いた部屋…リビングには“ピアノ”が置いてあった。 「右京…ピアノ弾くの?」 「ああ…少しだけ」 「弾いてみて!!」 「いいよ」 右京がピアノの前に座った。 「ありすが知ってる歌弾いてあげる」 右京がそう言ってくれた。 私は右京に笑顔をむけた。 右京が弾くピアノの音楽が私の頭の中に入ってくる。 ♪〜 「この歌…」 「思い出した?」 その歌は私が一番好きだった歌…この歌を聴くときはいつも右京のことを考えて聴いていたんだ…CDを持っているけど右京のことを思い出すと寂しいからって押入れの奥に隠しておいた歌。 「今なら楽しく歌える」そう思った。 大きく息を吸って、歌い始めた。 私は歌った。 「ありす歌うまくなったな」 「ありがとう!右京のピアノうまかったよ!」 「ありがとう」 「この歌私前まで歌えなかったんだよ…CDだと寂しくなるんだ…この歌を歌えたのは右京のおかげ!」 私がそう言うと右京は笑ってくれた、そして右京は言った。 「俺がこの歌を弾けたのもありすのおかげなんだ。」 右京は私を見てもう一度笑ったんだ。 私も右京に笑顔を見せた。 その後だった。右京の後ろにある壁に何かが書いてあることに。 「右京…あれ、なに?」 「何が?」 「壁に何か書いてある」 私と右京が壁のほうに向かって走った。 「今も覚えているよ…何これ、詩? 長いんだけど…」 右京が壁の文字を読み出す。
〜 今も覚えているよ 私はいつもあなたの笑顔に励まされて… 私のそばにはいつもあなたがいて いつも微笑んでいたね… 幸せだったあの時間 私はその時間を少しだけ失った あなたと会う時間が少なくなって 私はいつも寂しかった それでもあなたは私と会う時間を作ってくれた いくら会う時間が少なくてもどんなに遠く離れていても あなたを好きな気持ちは変わらない 私はあなたを愛していた
遠くはなれてもあなたのことを私は忘れなかった あなたのことを考えながら一日をすごしていた あなたの笑顔を思い出すだけで元気が出たから ある日私はお母さんとケンカして家を飛び出た 私が行った場所であなたに出会った 8年の年月がたっていた でも私はまだ覚えていた 大好きなあなたにまた会えた 私は思い切って告白しようと思った でもあなたが先に言ってしまった 私はすぐに答えを出した すぐに私はあなたの家に行くことになった その後私はあなたの言葉をきいて自分の家に戻った そのときお母さんと仲直りをしたんだ 私とお母さんはあなたのおかげで仲直りすることが出来た ありがとう 私は誓った 私はあなたのことをずっと ずっと愛します 〜
私は怖くなった。 「この話の“私”って人、私にすごく似てる…」 「似てるって、どんな人か分からないのに?」 「顔とか性格とか、そうゆうのは関係ないの…似てるのは…」 「…?」 「似ているのは…運命の流れ…」 「運命の流れ!?」 「そう…私と右京がしたことや、考えたり感じたりしたことが、この詩の文章と同じなの」 「そういえばそうかも…それが何か?」 「私の運命がこの詩と同じように動いているなら次にあるのは…」 「お母さんとの仲直り!?」 「そう」 「よかったな!!」 右京は私に笑顔を見せる。 私には右京の言葉が…右京の笑顔がなぜかとても悲しかった、とゆうよりも寂しかった。 そしてあのときの母の気持ちがどんなものなのかが分かった。 父と離れるときの母の気持ちが… 「右京は私が家に帰っても寂しくないの?」 そう言いたかった。 「…ありがとう」 私は寂しい気持ちを必に隠した。 「眠くなったからもう寝るね?」 「分かった、お休み」 右京はそう言ってまた微笑んだ。 私は部屋に入るとベッドに乗った。それから少し泣いた。 本当はいっぱい泣きたいけど右京に泣いていることを知られないために少しだけ… “泣きたいのに泣けないのはつらい”私はそう思った。 そのとき“笑いたいのに笑えないのはもっとつらい”とも思った。 私は高校に入ってから一回も思いっきり泣いたことも笑ったこともない。涙を流していても心は泣いていない、顔は笑っていても心は笑っていない…高校生の私はずっとそうだった。 私は苦しかった。“どうして私は泣いたり笑ったり出来ないのか” 考える気にもならない私が嫌だった。 「悲しいって何?」「楽しいってなんだろう」 私はそれさえも分からなかった。 私はそのときの気持ちを覚えている。 苦しい…すごく苦しい…私はずっと暗闇の中にいた。 「今の苦しい気持ちは前よりも楽なんだ」 そう言って流れる涙を止めようとしたのに涙は止まらない。 私はやっと涙が止まらない理由が分かった。 この苦しみは“泣きたいのに泣けない”のでも“笑いたいのに笑えない”のでもない。“寂しいのに寂しいと言えない”とゆう苦しみ…右京と離れたくないとゆう私の“右京のことを好き”だとゆう心が生み出す苦しみ…今まで私が感じたことのない気持ち… 今の私にはこの苦しみを消す方法は分からない…だから布団にもぐって声を小さくして泣いた。 その日は泣きつかれて寝てしまった。 次の日の朝、私が起きたとき右京はまだ寝ていた。 私はあの文字のところに行った。 私は文字を指で触ってみた、すると声が聞こえたんだ。 『ありす?』 「だ、誰!?」 『私は…未来のあなたよ』 「未来の私?」 『そうよ』 「どうして未来の私が?」 『その文章を書いたのは私なの…あなたがその文章に触ったら私がいる未来がつながるようにしたの。』 「なんとなく分かったよ」 『あなたに言いたいことがあるの』 「何?」 『あなたは夜に“今まで感じたことのない気持ち”になったはずなんだけど…』 「そうだけど…」 『その気持ちはとても大切なものなの。そのとき分かったかしら?どうしてそうなったか』 「右京が好きだってゆう気持ち…それからずっと一緒にいたいってゆう私の願い」 『そうよ。そこまで分かっていれば説明も簡単になるわ、それが分かっていても何もしなければ意味がないの…右京に言いたいことを言ってみて?そうすれば不安もなくなるから。また何かあったらここにきてね?』 「ありがとう分かった」 私は未来の私にお礼を言って壁から手をはなした。 ドアが開いて右京が起きてきた。 「おはよう右京」 私はそう言って右京に笑顔を見せた。 右京もあくびをしながら 「おはよう」 と言った。 「右京…」 「何?」 「私家に帰ろうと思うの…」 「そーか…」 「それで…お母さんとちゃんと話合おうと思って…」 「俺、そっちに引っ越す…」 「え?」 「俺、ありすの家の近くのマンションに引っ越す」 私はビックリした。 いきなりそう言われてビックリしない人はいないと思う。 「どうして…」 「ありすのそばにいたいから…」 右京はほおを赤くして言った。 「おくってく」 「うん」 右京はまだ車の免許を持っていない。 私たちは駅まで歩いていった。 駅で切符を買い、電車に乗り込む。 さっきのことを右京に話した。 右京はビックリしながらも私の話しを信じてくれた。 最後まで真剣にきいてくれた。 「じゃああそこは引っ越さないほうがいいな。」 右京は言った。 「右京さえよければ私の家に泊まってあそこは週に1回くらい行くだけでもいいんじゃないかな…」 私は言った。 「そうだな…ありすのお母さんがいいって言ったらそうする」 右京はそう言った。 とてもうれしそうな顔… 「右京、もしかしてうれしい?」 右京は「うん」と言った。 「私もうれしい」と私も言った。 電車が駅についた。 私たちはまっすぐ私の家に向かった。 恐る恐る鍵をあけて中に入った。 するとリビングのドアが開いた。 開いたリビングのドアから母が出てきた。 「お母さん…」 私は母を呼んだ。母は私に気がついた。 「ありす…」 母は私に飛びついた。 そして…泣いた… たくさんたくさん涙を流して、流れ落ちる涙を何度もふいて、母は私に「おかえり」と言った。 「ありすが帰ってきてよかった…」 母はそう言った。 騒ぎに気付いた彰吾が部屋から出てきた。 彰吾はビックリしたような顔をして、母と私を交互にみつめた。 「おかえり。お姉ちゃん」 彰吾は笑顔で言った。 「ただいま」 私も言った。 今までにない笑顔で…
私が帰ってきてから20分くらいたった。母がやっと泣き止んで私は右京をここに泊めてもいいかきいた。 母は、私がお世話になったようだからと言って許してくれた。 私はすぐに由梨さんに電話をした。 「おせわになりました。ありがとう」と… 右京は私の家に泊まりはじめてから、1ヶ月、父が帰ってきた。 いっきに家がにぎやかになった。 休日には家族で公園に遊びにいく。もちろん右京も一緒に。 春には彰吾が小学3年生になる。 今では右京は家族の一員になっている。 右京が住んでいたマンションには、3日に一回くらい通っている。 私が家に帰って5ヶ月のとき、私はみよばあと由梨さんに手紙を書いた。
みよばあ由梨さんお元気ですか? 私たちは元気にやっています。 私が家に帰ってもう5ヶ月たちました。 本当にお世話になりました。 私に彼氏できたんです。 また彼と一緒に2人にあいに行きます。 話は変わりますが、次の春には弟が小学3年生になります。 1年てとても早いものですね^^ また手紙送ります。お元気で。
私は変わった。 あの事件(?)のおかげで。 今まで暗かったあの聖林高校も少しずつ明るさをとりもどし、残りの高校生活も明るくなった。 私は今年で卒業する。 卒業したらどうしよう…そうだ…右京とまたあのマンションで暮らすのもいいかもな… 高校卒業後、私は右京とあのマンションで暮らすことになった。 両親も彰吾が卒業したらマンションの近くの家に住むと言っている。 私は引越しの日、マンションのあの詩の隣に文字をかいた。
〜ずっと右京を愛せますように〜
2008年01月09日 (水) 20時47分
|