夜のとばりが、巴里を包んでいます。 街並みに、そして窓辺にそそがれる淡い輝き。 今また雲に吸い込まれ、陰りを見せていく月光。 そんな深い闇の中に、今夜もまた、いくつもの秘められた情景が。 ここにもまた、重なっていく影が……二つ。「どうした……震えてるのか?フフ、やっぱり……怖いのかい?」「えっ……そ、そんなこと……」「初めだけだよ。すぐに……怖くなくなるさ。」「そう……そうですね。大丈夫です……どうか、続けて下さい……」「フフ、意外と……でもないか。」「えっ……?どうしたのですか……ロベリアさん……?」「いや。慣れてるんだな、やっぱり……」「そ、そんなこと……恥ずかしい。」「フフ、可愛いよ。じゃあ……いいな、続けるぜ……」「は、はい……どうか、お手柔らかに……ぽっ。」 と、月が雲を出ます。 照らし出すのは、手を……そっと触れあわせた、二人。 ロベリア・カルリーニ。 そして、北大路花火。 じっと見つめあい……そして、ゆっくりと……互いの背に、想いを込めるように腕を回して……「その瞳も、唇も……私にだけ許された、美の彫刻……あぁ、愛しいローラ……」「そんな……カーミラ、どうしてそんなことを……私たちは、善き……お友達同士でしょう……?」 と……そこで、つっと身を離すのはロベリアさん。艶やかな表情が一変、苛立ったように……「チッ……ったく!ダメだダメだ!」 銀色の髪を、クシャっとかきます。「ロベリアさん……?」 とまどうような花火さんを、チラリ。ロベリアさん、深く息を吐きます。「あーあ!やり直しだ、やり直し!ちきしょう、どうにも……ハッ!イヤになるね!」 何か、形にならないような気分をもてあますように……手首の鎖が鈍い音をたてます。 心配そうに、その横顔を覗き込むのは花火さん。「あ、あの……すみません。やっぱり、私の至らなさで……」 消え入りそうな声。 花火さん、近くに置かれている厚手の本を一べつします。 夜風の悪戯でしょうか。開かれていたその表紙が、フワッと閉じました。 テアトル・シャノワール、帝国劇場交流記念・特別レビュー……『吸血姫・カーミラ』 女吸血鬼カーミラ……ロベリア・カルリーニ。令嬢ローラ……北大路花火。 深く降りた夜の闇。 ロベリアさんが、メガネをかけていない素の眼光を眼下に向けます。 見下ろせるのは、巴里の夜景。「あぁ……まったくだ。ちきしょう、まんまとグラン・マに騙されちまった。何がアタシ向きのいい稼ぎ、だよ……ったく!」 花火さん、申し訳なさそうに頭を下げます。「す、すみません……ロベリアさんは、とても上手にこなしていらっしゃるのに……私が、私だけが……うまく、できなくて……」 月明かりの下で、緑がかった美しい瞳がゆっくりと巡っていきます。 立ち並ぶ……石の標。 ここは、モンマルトルの丘にある墓地でした。 その中の一点。忘れるべくもない、一つの墓標を……花火さんの潤んだ視線が捉えます。「私が……いつまでも、あの人のことを……引きずっているから。せっかくのお芝居も、うまくできなくて……ごめんなさい……」 うら若き乙女。穢れを知らぬ無垢な魂。まだ恋も知らぬその前に、現れた……相手。 憧れなのか。恋なのか。それとも……気付かない間に、心に入り込んでいきます。 そして、二人は……「あーっ!くそっ!」 いまいましそうに叫ぶ、こちらはロベリアさん。花火さんが、ビクッと震えます。「いつまでも、ウダウダ言ってんなよ。だから、こんな夜中に練習することにしたんだろ?おあつらえむきの場所、いるのはアタシたち二人だけ。誰かに冷やかされるステージじゃないんだ。練習するつもりがないなら、さっさとやめちまいな!」 厳しいながらも、どこか力のないロベリアさんの叱咤。 花火さん、じっとその顔を見つめて……うなずきます。「はい。そうですね……私、頑張らせていただきます。どうか、おつきあいくださいませ。」 小さくうなずき返し、出かかったため息を横に捨てるロベリアさん。「ったく……らしくないね、アタシも。だいたい、吸血鬼がどうしたってんだ。何を今さら……クソっ!」「ロベリアさん……?」 何かを睨むような瞳に、花火さんがまた身を震わせます。ロベリアさん、さらに苛立ちをつのらせたかのように……天を仰ぎます。 月。眩しい……眩しすぎる、その光。「吸血鬼、か……」 遥かなる故郷。今はもう、地図から消え去った小国。 トランシルバニアの、そこは名もなき村。 吸血鬼!吸血鬼だ!人々の叫びが響きます。 幼い娘の手を引いて……逃げ出す父母。 投げ付けられる石。つきつけられる十字架。怒りの、そして怨みの叫び。 たいまつの炎。燃え上がる家屋。恐怖に歪む顔。そして……「今さら、ナンだってんだ!ちきしょう!」 業火。激情と共にほとばしったそれが、瞬間、墓地を紅に染め上げます。 ロベリアさんの行為に、唖然とする花火さん。そして……「な、何をなさるんですか!」 さすがの花火さんも怒ったようです。ロベリアさんに詰めよって……「ハァ?」「こ、こんな夜更けに……危ないです!火事にでもなったら……」「フン、こんな墓場で何が燃えるってんだ。眠ってる奴らにも、いい暇つぶしになるだろ。それとも何か、コンガリと火葬にでもするか?」 片手に、残り香のように小さな炎。冗談めかして口にする言葉。 それが、花火さんの瞳を見開かせます。「な、何ということを!あの人の……フィリップの眠りをそしるようなことを言わないで下さい!ロベリアさん、謝って……この墓地に眠る人たちに、今すぐ謝って下さい!」 普段のそれからはまったく想像もつかない、花火さんの激しい叱責。 それを受けて……ロベリアさんが、ニヤリと口元を歪めます。「イヤだね。バカバカしい、死人がなんだってんだ。化けて出たいなら出てくりゃいいだろ。その時は、マジで火葬にしてやるよ。」「な……!ロ、ロベリアさん……何てことを言うんですか!」「知らないね。アタシが何をしようと、アンタの知ったことじゃないだろ。あーあ、バカバカしい。」 懐中から、取り出されるメガネ。ロベリアさん、それをおもむろにかけると……歩き出します。「ど、どこに行くんですか!」「知ったことじゃないって言っただろ。もうヤメだ。練習したいなら、アンタ一人でやってな。」「ま、待って下さい!このままにして、帰るつもりなんですか!」「何もしちゃいないだろ?アンタはいつものように、死んだオトコの墓でメソメソしてな。じゃあな、あばよ。」 背に手をあげて、去り行くロベリアさん。と、花火さんが駆け出します。 墓地を出ようとするロベリアさんの前に、立ち塞がる姿。 広がる両手。キッと見据えた瞳から、涙が散ります。「アァ?何のつもりだい!」「謝って!謝って下さい……彼に、フィリップに……謝って下さい!」 潤んだまなざしと、鋭い眼光。共に、激情の宿ったそれが重なりあいます。 静と動。正と偽。 純情と奔放。可憐と粗暴。 二人は、まったく違いました。 共に、同じものをその身に深く宿しながら。 それを隠れ蓑にしてきた。 それを巻き起こしてきた。 傷ついた自分の心を、癒せると信じて。「ロベリアさんには、わからないんです!」 口を開いたのは、花火さんでした。「ロベリアさんには、私の……私の気持ちなんか……」「あぁ、わからないね!」 吐き捨てるような声が、それに応じます。「アンタの不幸は、アタシの不幸じゃない!花火、お前がどこの馬の骨とどれだけイチャついてたか、そんなのアタシの知ったことか!」 花火さんの瞳が震えます。「それが死んだって?だからどうした!アタシには関係ない話だね!自分の不幸を自慢するのは、いいかげんにしてくれ!」 叩きつけるような叫び。 そして……声が。今にも消えそうな、はなかげな……それが。「わからないんです……」 また、同じ台詞。ロベリアさん、ギラつく視線でそれを見返し…… 怒号は、発せられませんでした。 流れ落ちるもの。 花火さんの頬を、幾筋も……それが伝っていきます。「ロベリアさん。ロベリアさんは……人を愛したことが……ないんですか……?」 涙。 あわれむような、慈愛に満ちた雫。 息を呑んだその胸に、かつての記憶が甦ります。 同じ……これと同じ光。 ごめんよ……ロベリア…… 遠い追憶。暖かい手。かけられた言葉。 唇を震わせ、足下をぐらつかせて…… ロベリアさんは、グッと拳を握りました。 砕けない。決して……砕かれない。 その口元に……再び、力に満ちた笑みが浮かびます。「そうだよ。アタシは……愛なんて知らない。知ったこともない。」 不敵な……妖艶なる笑み。 そのまま、ロベリアさんの手が……持ち上がります。 花火さんの肩を、押さえるように。そして、近くの墓碑に強引に押しつけます。「……!」「だったら……花火、教えてくれよ。」 驚き。そして、とまどい。 美しい黒の目尻から……涙をそっと、拭き取る指先。驚くほど優しげなその愛撫に……花火さんの頬が染まります。「お前の知っている、愛を……この可愛い髪と、瞳と、唇で、私に教えておくれよ……」 花火さんの両目が見開かれます。 ロベリアさんの台詞が……そこに置かれた台本、そのままであることに気付いて。 静寂。花火さん、目の前の相手を……美しい女性を、じっと見つめて……「わ、私は……あなたを……愛しています。それで……それで……」「この私を?本当に?花火、本当に……永遠に、私のものになってくれるのかい?」 紅潮する頬。吐息も聞こえそうなほどに迫る、銀色の髪の美女。 その瞳が、輝きます。妖しく。 我を忘れそうになる感覚。舞台にいるのか、現実にいるのか……「か……構いません。私は……愛して……」 ニヤリ。持ち上がる口元。 そして、あざけりと共に……たおやかな身を突き放す、鎖持つ荒らぶる腕。「ハッ……!やっぱりお前はダメだ!そんなんじゃない!そんなんじゃ……!」「ど、どうして……どこが……どこが間違っているんですか!」 我にかえり、食い下がる花火さんに……闇に響く嘲笑が。「気付いてないのか?アハハハ!だからお前はおめでたいっていうんだよ!何が、愛してる、だ!お前の言ってるのは、同情って奴さ!愛なんかじゃない!」「ど……同情?」「そうさ!アタシの愛は、全て死んだあの人のもの。その思い出を汚すヤツは、愛の尊さを知らない可哀想なヤツ。ああ、なんてあわれな……花火、お前はいつもそういう目で他人を見てるんだ!」「そ、そんなこと……そんなことありません!私は……」「同情なんてまっぴらなんだよ!そんなもの、一銭にもなりゃしないんだからね!」「そ、そんなことありません!違います……違います!」 繰り返される、否定の叫び。呆れたように、肩をすくめるロベリアさん。「私は……私は、ロベリアさんが好きです!」 必死の訴え。二人の視線が、再び交錯します。「私は、花組の皆さんが……シャノワールの皆さんが好きです!それは……愛していると言ってもいいはずです!」「詭弁だね……ハッ!」 吐き捨てるロベリアさん。「愛って、そんなもんかい?そんなことなら、アタシだって愛してるよ。あらゆるもの、全部だね。この巴里も、あの月も。アタシは愛してる。札束も、宝石も、ギャンブルも……アハハハ!」 花火さんの肩が、小刻みに震えます。 ロベリアさん、フッと笑って身を翻しました。再び、墓地の外へ。 そして、これも再び……その前に立ち塞がる、花火さん。「何のつもりだい。いいかげんにしないと、痛い目を見るよ!?」「まだ……答えを聞いていません。」「ハァ?何の話だい。」「人を、愛したことがあるか……その答えを、聞いていません……」「今、言っただろ。愛してるよ。アタシに全財産を貢いだバカも、半殺しにしてやったクズも、みんな愛してるよ。あぁ、花火、お前のことだって愛してる。エリカのバカだって、高飛車なグリシーヌのヤツだって、みんな愛してるよ。さあ、これでいいだろ。さっさとそこをどきな!」「いやです!ちゃんと答えて下さい!」「答えただろ!いいかげんにしな!」「どうして……どうしていつも、そうやって逃げるんですか!」 涙を散らした、花火さんの叫び。 ロベリアさんの瞳が、カッと燃え上がります。「ンだと……逃げてるのはどっちだ!」 花火さんの胸ぐらを掴む腕。全てを焼き尽くすかのような、怒りの表情。「いいか、アタシは逃げたことなんてない!はむかう奴、気にいらない奴は、この手で叩き潰して来た!ひとり残らず、全部さ!」 花火さんの瞳は揺るぎません。ロベリアさんの口元が持ち上がります。「それに比べて、アンタはどうだい。惚れた男、結婚する男が死んだ?式の当日、目の前で?」 こわばる表情。ロベリアさん、楽しそうに……残酷な言葉を続けました。「手を放さなきゃ良かった。一緒に死ねば良かった。私をかばって死んだ、最愛の人……何もかも、みんな私のせいだ。だからその黒服を着て、毎日冷たい墓に寄り添う。あぁまったく、美しいことだねェ。」 キッと、睨むような視線が。二人の……それが。「だけどね……それのどこが!花火!お前こそ、生きることから逃げてたんじゃないのか!?それを否定できるかい!」 触れあうほど近くで、睨みあう二人。 そして……花火さんが、口を開きました。「逃げていたのかもしれません……いえ、きっと……逃げていたんです。」 それみたことかと、あざけりのロベリアさん。「でも……私は、今を生きることに決めたんです。あなたのように……自分の犯した罪から逃げてはいません!お金を貰って、刑期を減らしてもらうなんて……そんなの償いじゃない!逃げです!そんな人、そんな人……大神さんにふさわしくありません!」 メガネが揺れます。ヒビの入ったその奥で……震える、切れ長の瞳。「私、知ってます……ロベリアさんの、大神さんを見る目が変わったこと。私たちには開かない心が、大神さんには開き始めてること……私、それがすごく嬉しかった。」 放される、手。 動きを止めた、二つの影。「私が変わることができたように、ロベリアさんの心も、大神さんが開いてくれた……だから、あなたたちを見つめていました。私の想いなんて、どうでもいい……そう思えて。それが、嬉しくて……」 肩を落とし、視線を下げた女性。 似つかわしくない、決して誰にも見せたことがない……そんな、姿。「でも、でも……清廉潔白な、どこまでも真正直なあの人の前に、今みたいな……偽りのロベリアさんが立っているのはダメなんです!本当に……あの人に、愛される資格がある人に……周りじゃない、誰からでもない!自分の、あなたの心でそう思えないと、ダメなんです……!」 震える声。心の……叫び。「……そうでなければ……きっと、ロベリアさん自身が……きっと……大神さんの気持ちに……答えない……答えてくれない……そう、思うから……」 わからない……話している本人ですら、そうであるかもしれない……そんな、言葉。 口にしている者も、聞いている者も。「私、お二人に……幸せになって欲しいんです。だから……だから、ロベリアさんに、愛を、人を想う心を知って……気付いて欲しかった。それは、それは……素晴らしいものだから……どんな終わりが来ても、かけがえのない……ものだから……」 涙……そして、嗚咽。 声を殺し、顔を覆って……花火さんが泣きます。 夜の丘。 静かな墓所に、ゆっくりと時が流れて……「……エリカは、まとわりついてやかましい奴だ。」 静寂を破ったのは、ロベリアさんの低い声でした。「コクリコは、はしっこくてうざったい。」 目線が、定まることなく流れていきます。「グリシーヌは、いつも人をコケにして見下す……最低な奴だ。」 言葉と裏腹な、抑揚の……力のない声。「他のシャノワールの連中なんて、最悪だ。街の奴らだって。そして……」 不思議な……表情の読めない、そんな素顔。 それが、黒い服の乙女を見つめます。「北大路花火。お前は……バカだ。」 花火さんが、静かに顔を上げました。「どうして、お前は想いを隠す。前の男に遠慮してか?アタシの目を気にしてか?グリシーヌか?どうして……どうしてそんなことをする!」 叫び。今までと違う、それは……必死の色を持つ、心の響き。「自分の想いを偽って、他人が幸せになって……お前は、それで満足か?そんなことに、何の意味がある!自分で奪い取り、掴んでこそ価値があるんだ!何だって……人の心だって同じだろ!アタシはずっとそうやって生きてきた!だから、もしアタシが男に惚れたなら、そいつを無理矢理にでもアタシのモノにしてみせる!そいつの心を、有無を言わさずこの手に奪い取ってやる!それがアタシだ!ロベリア・カルリーニのやり方なんだよ!」 何か……花火さんではない、もっと遥かな、何かに対する……叫び。「なのに、お前は……」「私も……私も、気持ちは同じです。あの人への……想いも。」 静かな声。そして、微笑。 それは、晴れやかな表情でした。 「でも……私は、ロベリアさんのことも大好きです。お二人が幸せになってくれたら、自分のことのように嬉しい。心から、祝福してあげたい。もちろん、私の恋が……新しく芽生えた想いが、ついえたことになるのかもしれない。さみしいかもしれません。でも……それでも、あなたたち二人が幸せになってくれたら……きっと、そんなさみしさなんて忘れられる。いい思い出にできる。そう思うんです。フィリップのことも、今は……いい思い出ですから。」 告白。そして……ロベリアさんが、身震いするようにその手を振りました。「あ……アタシはごめんだ!そんなこと考えられるか!思い出なんてない!そんなものいらない!アタシが覚えてることは……全部、何もかもイヤなことばかりだ!暴力、破壊、恐怖、血と炎……それだけさ!いい思い出なんて、一つもない!」「大神さんとの日々も、そうですか……?」 見開かれる、硝子に隠れた……瞳。「大神さんと過ごした時間も、このモンマルトルの街でのことも、思い出せませんか……?私の知らない……グリシーヌやエリカさん、コクリコさんと一緒に、花組に入って戦った日々も……そうですか?怪人と戦い、巴里を守る今も……今日、この日のことも……そうですか?」 重なる視線。 そして……動かない、二つの長い影。 いくばくかの時をへて、目線を外したのは……花火さんの方でした。「……ごめんなさい。私……」 涙に濡れる瞳。何かに恥じらい、そして、きびすを返して……「待ちな。」 もう一人の声に、立ち止まります。「どこへ行くんだい。勝ち逃げされるほど……アタシは甘くないよ。」「えっ……?」 驚きの表情の前で……ロベリアさんが、フッと笑います。「練習……するんだろ。」 花火さんの、表情が。「まだ、時間はあるだろ。その……つきあえよ。アタシだって、完璧に仕上げたいからね。」「は……はい!」 こぼれるような笑顔。そして、駆け寄る姿。 月明かりが、再び重なっていく二つの影を照らしていました。 シャノワールの夜。 普段にもまして、今日はいちだんと盛況です。 それもそのはず……待ちに待った、新しいレビューが始まったのです。 壇上を舞う、二人。 妖艶な美女。可憐な美少女。 二人が、妖しく……そして、はかなく。 想いがすれちがい、心を重ねあわせます。 それを見守る……舞台の袖。 巴里華撃団、花組の面々です。「はー、何だかスッゴク息があってますねー。」「そうだね。前はあんなにケンカしてたのに。どうしたのかな。」「フン、花火はあれでも気丈な娘だ。ロベリアなどに負けはせんよ。」「でも、お似合いですねぇ。うーん、お二人の結婚式には、何を贈りましょうか?」「エリカ、それちょっと違うよ……」「静かにしろ、二人とも……今は、あの素晴らしいステージを見ていようではないか。」 盛り上がる舞台。 歌声が響き、そして華麗なるダンス。 クライマックス。そして、別れの……最期の時を迎えた二人が、手を触れ合わせます。「しばしの別れか……次にめぐりあう時は、必ず……ただの人として……そなたの元に……」「思い出をありがとう……そして、さようなら……私の、愛した人……」 今日もまた、満場の拍手がシャノワールに響きます。
以前より思っていたのですが、今回からあとがきを『書かないものは書かない』で済ませてしまうことにしようかと。理由は様々ですが…… ……基本的にこの手の文章ほど、後々読み返して凹む(涙)ものもないので。 そのため以後は、『 〆 』や『 Ω 』、『 fin 』や『 end 』といった書き込みを本文末に記載して、投稿の〆とすることがあると思います。ご了承を。 [Ombragez dans le Noir]2001/12/25,TaleArea投稿作品