[601] 約束をした遠い日 |
- ゆうゆ - 2004年07月01日 (木) 11時27分
遠くの空で、雷が鳴っていた。
山に囲まれたこの田舎町では、夏の頃になると頻繁に雷雨が起こる。でも、都会から見ると、大分この辺は涼しいのではないだろうか。
社会人になって二年目。 俺はふるさとに帰って来た。 高校を出て、一度は都会、つまりは東京へ出て仕事をしていたんだけれども・・・どうにも上手く行かず、結局実家に帰ってきてしまった。 どうにか、バイトを決めて一人暮らしをしている。
休みの日の午後、雷が鳴って来てとうとう近くなって、真上で鳴り響く。
「なんだかなあ・・・」
こう言う天気は嫌な想い出を思い出させる。
中学一年生の時の事。
中学に入ってから知り合った可愛い男の子がいた。 あんまりにも可愛くて、隣の席になった時はどきどきしてた。
その内仲良く鳴って、二人で遊ぶようになった。 色々な所に行った。まずは、近くの公園から。
次は近所の川で、次は山。
彼の家に泊まったり。そして、そして・・・遊園地。
田舎にお似合いの小さな、遊園地。 今にも壊れそうなジェットコースターに乗ったりした。
そして、その遊園地の中のファーストフードショップで 出会った時から抱いていた感情を、思いを彼に伝えた。 まだ十二、三のガキがあんな恋愛感情を持てていたんだから。 今、考えてみるとかなり不思議だ。
(俺は、お前を女の子と同じように、好きなんだ。)
そう言ったのが間違いだった。彼はショックを受けて、慌ててつには怒りだした。
(もう、君とは話さない)
そう言われた。そう言って彼は一人で帰ってしまった。
それから、学校であっても全く無視されるようになった。
学校の遠足とかで、こっちから話しかけたりすれば良かったんだろうが・・・・・・どうしても勇気が出なかった。
あっと言う間に時が過ぎて、中学卒業というその日。 偶然彼と二人きりになってしまった。 親同士が話しに夢中になってしまい、取り残された俺と、彼はお互いに体育館の壁に寄り添っていた。
俺は、気まずくて空を見つめていた。 空には、そう黒い雲が立ち篭めていて、今にも雷が鳴りそうだった。 そうやって、ぼんやりしてると、何と彼は俺に話しかけて来た。
(佐伯は、中学出たらどうするの?)
俺は久しく聞いていなかった、彼の声に驚いたけど。 嬉しいのが事実で、何とか答えた。
(高校に・・・行くよ)
(その後は?)
そう聞かれて凄く困った。 高校を出た後は、良く考えていなかった。
(ええと、じゃあ、社長にでもなろうかな・・・)
何故かそう言ってしまった。
(社長? なれるの)
彼は冷たい目線を向けて来た。
(小さい会社ならさ、きっと)
自信なんて無かった。ただ、かっこいいと思える事を言った、あでだった。
(ふうん。じゃあ、本当に佐伯が社長になったら考えても 良いかな?)
(・・・何を?)
彼は照れた様に、顔を赤らませた。
(もう、ずっと前だけど、僕が君を無視するようになるまえ 君が、僕に行った事・・・まだ君は)
そこまで言われて、いきなり心臓がばくばくと鳴った。
(あ、それは、確かに、まだ、その、好き、だけど!!)
焦ってとにかく意志だけは伝えようと、しどろもどろになって 言った。
彼はため息を吐くとこう言った。 それと同時に雷が鳴って、雨が降って来た。 慣れていたので、俺も彼も大して驚かなかった。
(佐伯が本当に将来社長になったら、付き合っても良いよ)
そう言われた。
(お、俺高校出たら東京の方に行って社長のなり方勉強する!)
また勢いでそう言ってしまった。
(帰って来たら、こっちに会社作って社長になるよ!)
勢いでそんな事を言ったら。彼は笑ってこう言った。
(そうなんだ。僕はずっと地元で暮らすつもりだから 帰って来たら連絡ちょうだい)
俺と彼は、違う高校に行くからもう会えなくなった。 住所は知っていたけど、会えて行かなかった。 それは、俺のけじめだった。 本当に叶えたら、会いに行こう。そう思っていた。 彼からの連絡も無かった。
「何か頭痛くなって来たな・・・」
物思いに耽っていると、ふいに電話が鳴った。 気が付けば、雷も雨も止んでいる。
「は~い。もしもし?」
『やっと出たのね、さっきから電話してたのよ』
「お袋。そうだったか? 気が付かなかった」
『幹ちゃんってあんた覚えてる?』
幹、その名前は。
「まさか」
『あ、覚えてる? さっき偶然スーパーで会ってねあんたが 帰って来って言ったら、直ぐにそっちに行ったみたいよ』
「ま、まじ?」
『嬉しそうだったわよ! 何だ一年の時に喧嘩したまま 遊んで無かったけど、いつの間にか仲良くなってたのね』
そう言って、用事があるからと一方的にお袋からの電話は切れた。
「ど、どうすんだよ!!」
居留守を使おうか?
でも。
ふと、階段を登る音が聞こえた。 俺はびくっと身体を震わせた。
インターホンが鳴った。
三度目くらいでやっと俺は、玄関に向かった。
佐伯、いないの? と言う声がした。
声はあの時から差程変わっていないような気がした。
俺は意を決してドアを開けた。
きっと、困ったような顔をしていたのだろう。
俺を見て、彼は柔らかく笑った。

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