[790] Lost Days |
- ゆう - 2004年11月04日 (木) 15時04分
なぁ 隼人、
あの頃俺は勇気が無くて お前の手を握り返すことができなかったけれど
もしも お前がまだ 同じ気持ちでいるのなら 今度は俺が手をさしのべるから
もう一度二人で あの頃からやり直さないか
「翔~、何組だったぁ?」 小林が息を切らして駆け寄ってきた。 「え~っ・・・と、3組。び~みょ~・・」 「まっじで!!俺も3組だし!!ま~た一緒だな、翔♪」
桜も散り始めた4月、俺達は高校2年生になった。
つい最近入学したばっかのような気がするのに、時間は予想をはるかに上回る速さで過ぎていった。 小林は高1の時のクラスメイトで、今となっては親友と呼んでもおかしくない程に仲がいい。 「最初の席順って出席番号順だよな~。俺の周り誰だろ?」 小林が独り言のように呟いて、クラス発表の紙を食い入るように見ていた。確かに、いち早く新しいクラスに馴染むには、最初の席順というのは重要だ。 「翔は苗字が相川だからな~♪1番確実!」 「・・うるせ~な・・。お前も一番になってみろよ!まじ嫌なんだからな!!」 俺は苗字が相川だから、今までで一度も一番を外れたことがない。なんてったって あ の次が い なんだから。 窓際の一番前。そこが俺の新しい生活が始まるときのお決まりの位置になっていた。 「ま、い~や。その代わり後ろの奴とかなり仲良くなれんだ♪」 前には誰もいないし、左側は窓だし、右側は女子だし。 そうなると喋る奴は必然的に後ろの奴に絞られる。 「んなこといって~、じゃあなんで去年仲良くなったのは小林君なのかな?ん?」 小林はケタケタと笑いながら、わざとらしく『こ』を強調しながら言った。俺はその言葉にちょっとムッとしながら、 「当たり外れがあるんだよ!今年は絶対当たりだな。そんなことばっか言ってると、俺を取られちゃうぜ~小林君♪」 なんて言ってやった。もっとも、そんな気はさらさら無かったが。きっとこれからの一年間、もしくは高校を卒業してからだって、小林とは親友を続けていくつもりだ。 「ひで~」とさっきと変わらない調子で俺にまとわり付いてくる小林を無視して、俺は しばらく暇な授業中の話し相手になるであろう出席番号2番の名前を探した。 「あ~っと・・・3組の~・・2番。おっ、赤・・」 『赤』 そこで俺の言葉は詰まってしまった。言葉が出てこない。声が出ない。 「・・・翔?どしたんだよ。翔??」 俺のただならぬ様子に気づいたのか、小林がしきりに声をかけてくる。だけどその声さえも、既に俺の耳には届いていなかった。 聞こえてくるのは、だんだんと速くなってゆく心臓の鼓動。
同じ高校なのは知っていた。 同じ理系なのも知っていた。
「赤坂 隼人・・・・」
それだけ口にして、俺はその場に立ち尽くした。
隼人 あの頃俺は、この名前を一体何回呼んだのだろう。
中学2年の時、俺と隼人は誰もが認める大親友だった。 どこへ行くにも一緒で、何をするにも一緒で、いつの間にか二人で1つとセットみたいな扱いをされるようになっていた。
でも、それは嫌ではなくて。 むしろ、嬉しくて。
二人でいるだけで楽しくて、いつも時間を忘れて遊んでいた。みんなで騒ぐのも好きだったけれど、俺は隼人と二人きりの時間が一番好きだった。しょっちゅう二人で授業をサボって、屋上で他愛も無い話をした。 そのうちに、隼人を独占したいという気持ちが芽生えてきた。
友情と愛情は紙一重だ、なんて言うけれど、友情とは違うものがそこにはあった。
触れたい 抱きしめたい キスをしたい
いつからか、なんて聞かれてもきっと答えられないだろうと思う。それくらい自然に、当たり前のように、俺は隼人に惹かれ、恋をした。
「相川 翔!!」
名前を呼ばれてはっとした。 いつの間にか俺は新しい教室にいて、お決まりの位置に座っていた。 「相川~大丈夫か?クラス替え早々居眠りはやめてくれよ~」 「あ・・・はぁ・・・。」 どうやら今は出席確認の最中だったらしい。昔を思い出して浸っているなんて、俺も女々しい奴。 そんな風に自分に呆れながらも、後ろを気にせずにはいられなかった。
中3のクラス替え以来、隼人とは一言も言葉を交わしていない。それもこれもすべては俺のせいなのだが。
「次、赤坂 隼人」 「はぁ~い」
気の抜けたような、おちゃらけた声が後ろから響いてきた。
鼓動が加速する。
俺は息をするのがやっとで、俯いたままクラスメイトを呼ぶ先生の声を聞いていた。

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