[699] 成功率(%) |
- 喜多原 未遊 - 2004年08月24日 (火) 21時47分
クリスマス前になると毎年やる。 「最高のクリスマス!!思いを繋げる、ラブラブカップルvコンテスト」 と、なんとも長ったらしい題名のこのコンテストは、私立椿ヶ丘学園の生徒会スタッフがおくる、由緒正しきコンテストなはずなのだ…。 しかし、このコンテストで思いを告げるのは〔男〕思いを受けるのも‥〔男〕なのだ… そう、この学園は男の園と言われる、名門名家の男子学生が通う、男だけの楽園‥ なので、思いを寄せる相手が、例え同姓であろうと、そんなのお構いなし、なわけだった。
寒さが11月になり増し、中庭で掃き掃除をする手がどんどん熱を失っていく。 竹箒を片手で持って、指に息を吹きかけながら、中庭の掲示板にド派手に印刷されたポスターを眺める。 「この企画か‥」 そういって、ため息をつくと、また掃き掃除を始めるこの少年は、自分と、さほど変わらない高さの竹箒を賢明に動かし、秋になって散った自分と同じ髪の毛の色の、茶色い葉を集めていた。目はドングリのように大きく。肌は、雪のように白く肌理が細かい。頬は、季節を忘れて咲いた桜のようにピンク色。唇は、ぷっくり赤く染められ、とても愛らしい容姿。そして、この寒空のなか、サボることをしらない、少年は健気で可愛らしい。高2なのに、青年ではなく、少年という言葉がよく似合う。 そんな、これでもかと言わんばかりに、可愛い少年【薙捺】(チナツ)は、ポスターを見上げ、浮かない顔をしていた。 『…安堂(あんどう)さん…。』
数日前 薙捺は自分の許容範囲以上の重いプリントの束を職員室に持っていく最中だった。それが、急に後ろから声を掛けられ、振り返った。 「薙捺!」 「?!っ、安堂さん。ビックリした。どうしたんですか?」 頭が2個ほど離れた安堂を見上げる薙捺は、重いプリントを一回持ち直し、頬を膨らませる。 「重そうだな、持ってやるよ、どこまで?」 「あっ。‥職員室です…」 持っていたプリントを全部奪われ、職員室までの道のりを並んで歩く。 「…で、あの…」 不安そうに安堂を見上げる薙捺はとても可愛く、例外ではなく安堂は鼻の下を伸ばした。 「っと、そうそう、薙捺にお願いがあって、きたんだった。」 鼻の下をすぐに戻し、本題を話す。 「お願い?」 キョトンとして、安堂をみる。 「そ、お願い。今度、生徒会でやる企画に出て欲しんだ。薙捺が来てくれると、盛り上がると思うし!」 優しい笑顔を見せられ、ビクッと肩を振るわせる薙捺に安堂は、眉を少し寄せる。 「悪いことはしないよ。ただ、俺のために出て?」 そう言ってくれた、安堂の顔はいつもより少し大人に見えた。バックの窓から見えた空が綺麗だったからだろうか。 二人で並んで歩き、職員室にプリントを置く。帰りの廊下でOKの返事を出した。 「プリント持って貰ったお礼!」 と、勢いよく言って自分のクラスに逃げ帰る。サラリと揺れた髪を振って、廊下を走っていく。 苦笑しながら安堂は、少年の背中を見送り、頭を掻いた。
安堂 隆秀。通称、安堂さん。 高校3年生で、現生徒会副会長。南寮の寮長。部活は陸上部。高飛びをしている。自分より高いバーを軽々飛んでしまう、超が着くほどの運動神経。実家は長野。家族構成は、父・母・弟が2人・妹1人の今時では珍しい、そこそこ大家族なお家。容姿は、スポーツマンらしいけれど、しなやかな筋肉を腕足につけ、理想的体格。肌は浅黒く、目は少しつり目。けれど、笑うと目尻が下がっている。なんとも愛嬌がある。それに、薄い唇から発せられる声は、よく通るバリトーン。
そして、僕の憧れの人でもある。 あの人に助けられ、あの人に笑ってもらって、あの人に優しくされてる。 自分でも、照れるくらいあの人は僕に良くしてくれる。 でも、『告白』だなんで大看板背負って、あの人に想いは伝えられない。 意気地がないのも、気弱だってことも分かってる。 でも、今の関係は壊したくない。 自分の恋心が、50%を越えていても、成功する確率は50%をみたない。 それこそ、僕は『告白』という名の、重石に負けて心が砕けてしまう。 このまま、100%仲のいい『後輩』でいよう。と、少しでも多い確率に手を伸ばす。 『安堂さんに、嫌われたくない。気まずくなりたくないよ。』
数日前を思い出し自分の想いに耽って、竹箒を持って固まっていると、掲示板の向かいにある、1階文化部室から声がかかる。 「チナ。」 「?あ、西川。」 自分を呼んだのは、西川 太久郎(にしかわ たくろう)。同じクラスの親友。 片手にカメラを持ち、ニッコリ笑って手を振っている。 彼は、この学校でも少し目立つ綺麗な男子。入学当時は俺と大差なかった身長もいつの間にか抜かされ、綺麗に磨きを掛けている。そして、同姓の恋人がいる。 「掃除終わった?終わったら、取材させてよ。」 「取材?」 「そ。チナがどうして、あの企画に名乗りをあげたのかなぁって。記事にしないけど。」 そう言ってウインクをしてくる、西川に少し戸惑いながらも、返事を返す。 「ぅん。あの…安堂さんが、出て欲しいって……。」 「はぁ?!安堂先輩!‥ほっほ~、チナ。遂に告白する気になったのか!」 大声で感心され、慌てて西川の口を塞ぎに竹箒を投げ捨てて走り叫ぶ。 「違う!違うんだって!!安藤さんにプリント運ぶの手伝って貰ったから!!」 真っ赤になりながら、西川の口を押さえようとして、かわされ前のめりに倒れそうになって踏みとどまる。 「ま、いいけどさ。チナ、俺お前には幸せになってもらいたいんだ。大切だから。」 優しく微笑まれ、顔を安堂さんとは違う意味で赤くなる。 『西川って、やっぱ美人‥』 ボーッとなってるところに、西川の手が僕の頭を撫でる。 「金井(かない)とも話してたんだ。チナは幸せな顔が似合うのに、最近浮かない顔で心配だって。やっぱり思春期で親には何も言えないのかしら?とか。」 金井とは、西川の彼氏。何故か2人して僕を子ども扱いする。 「もーなんだよ、それ。僕は2人の子どもじゃないぞ!」 頬を膨らませて反発するが、笑い飛ばされてしまう。 「お前は、俺らの子どもみたいなもんだろ。可愛い娘。」 とんでもないことを言って、頭を軽く叩く。 「誰が娘だぁ!!」 2人でじゃれていると、西川の腰を抱きしめるように後ろから腕が伸びてきて捕まえ、首にキスする。 「タク。何やってるの?って、薙捺ちゃんじゃん。」 「もう、金井。学校では駄目っていったじゃん。うちの子見てるし。」 「そうだった。娘には刺激強いよな。」 2人でベタベタしている間にも、僕を2人して【娘】という。 「もう!僕は、女の子じゃない!男だ!」 胸を張って腰に手を着く。意気込んで言ったのに、2人は一斉に吹き出した。 「あはは。チナ、可愛い!」 「薙捺ちゃん。本当に可愛くて良い子だな。」 「どうして笑うの!?」 目を潤ませ、必死に思考を巡らせるが、どうやっても自分の言い分が通じない。それどころか、2人にバカにされたようで、拗ねて掃除を再開しようと、竹箒を拾いに足を運ぶが、腕を捕まれる。 振り向くと笑って出た涙を拭いて、少し真剣になった、西川がいた。 「ごめん。でも、心配なのは本当。金井も俺もチナが心配。他の虫なんかに大事なチナは渡せないけど、安堂先輩なら考えてやらなくもないんだ。それに…チナが安堂先輩を思ってるのも承知の上なんだから。この企画でチナの気持ちが伝わればって思ってるよ。」 西川の言葉を黙って聞いていた金井も、優しく言葉をくれる。 「薙捺ちゃんは、とても良い子だよ。でも、頑張らなくちゃ。好きなら叶えたいなら動かないと、自分の気持ちはそのままだよ?…2人で、薙捺ちゃんの恋が成就するのを見守っててあげるから、頑張れ。」 本当に両親のような2人に励ませれるが、どうしても頑張る勇気がわかない。 だって、もし駄目だったら? もし、嫌われたら? もし、もう話せなくなったら? 怖いよ… 眉が下がって元気がなくなってしまった薙捺に、2人は揃って顔を見合わせた。 ウジウジ考えているうちに、企画の日はやってきた。

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