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[274]NAO
この作品は長い間忘れられていたが、1959年に、署名と1631年の年記が発見されて以降、レンブラントの作品と認められた。上縁はアーチ型に切られ、十字架に磔にされたキリストが、真正面向きで描かれ、十字架の上にはヘブライ語、ギリシア語、ラテン語で書かれた罪状書が打ちつけられている。この作品のように、十字架にかけられたキリストが闇を背にして荒野に向かい、完全に孤立している図像表現は、死に直面した神の子の絶対的な孤独の表現として、17世紀以降に流行したものである。だが、力強い明暗の配分や、十字架にかけられたイエスの苦痛の表情は、17世紀の絵画伝統のなかでは、レンブラント独特のものである。 この作品の制作年、主題、手法、寸法から考えると、1630年代のレンブラントにとって最も重要な公的注文である、フレデリック・ヘンドリック総督のための『受難伝』連作との関連性を感じさせる。この作品が制作されたのは、総督の秘書コンスタンティン・ハイヘンスがレンブラント工房を訪れた1629年であり、ハイヘンスは未完成の状態であったこの作品を見たのかもしれない。 興味深いことに、レンブラントの工房の仲間であったヤン・リーフェンスが、まったく同じ時期に同主題の油彩画を、類似した形式で描いている。このほかにも、レンブラントとリーフェンスはしばしば同じ主題を同時期に制作している作例がある。これは、一方が他方を真似している、というのではなく、むしろ同じ主題をどのように解釈して表現するかという、芸術的創意の競い合い、対抗意識から制作されたと思われる。
2002年11月04日 (月) 15時14分
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