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[272]NAO
1630年代のレンブラントが描いたオランダ上流階級の肖像画の典型的な作例。 この婦人は、豪華な黒いサテンのドレスを着て鑑賞者のほうに体を向けて椅子に座り、画面全体にはみ出すかのように描かれている。右手には黒い扇を持ち、左手は椅子の肘掛けにのせている。この肖像は、レンブラントがアムステルダムで数多く手がけていたフォーマルな肖像画の最も創意に満ちた作例である。レンブラントは本作の制作の際に、優雅な肖像画で知られるアンソニー・ファン・ダイクから学んだ、と考えられている。 この女性像には、対となる男性の肖像『椅子から立ちあがる男』(シンシナティ、タフト美術館)が存在する。この男女の肖像は、婚約か結婚を記念して依頼されたのだろう。この作品で男性は、椅子から腰を浮かし、手を差し出すという驚くべきポーズで描かれている。鑑賞者を出迎えるようなこの男の身振りは、当時の他の肖像画家の作品に全く見られないというわけではない。しかし、この対作品においてレンブラントは、通常の肖像画に「客を出迎える」といういわば物語的な色付けを行うことで、それまでの生硬な肖像画にない、生き生きとした人物描写に達したのである。
2002年11月04日 (月) 13時52分
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