[38684] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-53『明日…後編1』 |
- 健 - 2020年03月30日 (月) 17時54分
エルシリアとセラフィナは財産の処理を行い、以後は残った屋敷で暮らしていた。生き残った使用人達もこちらに来ており、相変わらず仕える気でいる。制度が変わっても、心は変わらないということだろう。
エルシリアは孤児達の保護や勉学に力を入れており、その方面ではトゥーリアとの連携を密にしようとしている。元々子供に甘い側面があったエルシリアはその方が良いのかもしれない。
が、セラフィナは悩んでいた。ライルほど重い罪には問われなかった今…『黒の騎士団』の枠組みに入ったブリタニア軍で指揮官として活動するか………
秀作はゲイリーのすすめで大学に通うつもりらしく、ライルは屋敷を孤児院に改築しながら福祉方面に転向している。
「私は……」
「セラ……畑方秀作のことなら、もう何も言わないわよ。」
「姉さん?」
「もう私達は皇族ではない、ただの人。責任は果たさないといけないけど…貴女の大事な人とのことをあれこれ言う者はいないわ。いるとしたら、それはまだブリタニアが世界一だと思っている時代錯誤よ。」
「それって……」
「認めてあげたいと思っていた……でも、皇族の責務と板挟みになっていたから。」
セラフィナは姉に抱きついた。
「姉さん……ごめんなさい。心配かけて。」
「良いのよ………私だって一人の姉として、妹の幸せは願うわ。姉上も…ユフィにそんな人が……きっと枢木スザクだったら認めていたかもしれないし。だから…貴女も大事な人と幸せになって良いのよ、私はそう思えるような人がいなくなったんだから。」
グラビーナのことだ……彼が姉に想いを寄せていたのはセラフィナも気付いていた。だが、彼は帰らぬ人となった。
「だから…ね。早く甥か姪の顔を見せてちょうだい。」
少し気が早いが、セラフィナは涙ぐんで「はい…」と答えた。
時は遡り……シルヴィオは富士山を見つめていた。前は採掘プラントが増設されたあの山が大嫌いだった………が、今度は噴火であのころの姿はほぼ失われている。
「全く……宝に目がくらんで雄大な山をあんな姿にするとは。我が国はつくづく愚かだ。」
文化遺産にそれほど関心はないが、この国で所謂日本アルプスと呼ばれる山脈など……この国の自然は豊かだ。だというのに、奴らはことあるごとにブリタニア本国の自然、それこそナイアガラの滝やグランドキャニオンが優れているなどと言っていたが、シルヴィオに言わせれば何かとブリタニアが上でないと我慢が出来ない我が儘にすぎなかった。
それが出来なくなり、富士山は日本の手に戻る。ブリタニアのエリアでなくなった以上、時間はかかるがあのプラントは解体される。あの雪が積もった…木宮と始めてあった頃の富士山はもう戻らないのが残念でならないが………
「シルヴィオ様……何か?」
ミルカだ……今日、富士山に呼んだのは大事な話があるからだ。
「ミルカ……お前に、渡したい物がある。」
「はい。」
懐から、あるものを取り出した。指輪だ……
「シルヴィオ、様?」
「回りくどいのは苦手だから、率直に言う。ミルカ、私と結婚して欲しい。」
目の前の女性は呆然としていた。聞こえなかった?
「ミルカ?」
「……本当に、私で…良いのですか?」
どうやら、ちゃんと届いていたようだ。
「それは、私の台詞だ……自分でも分かっているが、私は所謂武術バカだ。そんな私で…良いのか?」
「………私は、ご自分の鍛錬を欠かさないシルヴィオ様を見ているのが好きでした。皇族として…上に立つ者として……自身が心身共に強くなければいけない、と。」
そう、それはシルヴィオが皇族として考える理念だった……皇族は民を守る剣だ。臣下が皇族を守る盾であり、剣ならば自身もまた剣であり盾でなければならない。だからこそ、信頼が出来る腕利きを『十勇士』に加えた。
「そんなシルヴィオ様のお側にいたくて…私も入隊したんです。木宮さんみたいに剣を振るえない私が…妻でよろしいので?」
「……今まで、私が付き合ってきた女は武術を軽んじるような女ばかりだった。庶民やナンバーズにやらせるのが当たり前の………俺がそうするのさえ馬鹿にしていたようなのがいた。」
いつの間にか一人称が木宮や彼の家族の前で使う『俺』になっていた。
「お前は、そんな俺に寄り添ってくれていた……だから、これからも。」
「……はい。」
何も言わず、シルヴィオはミルカを抱きしめて唇を重ねた。
ウェルナーは一息ついた。まだ身体は弱く、デスクワークもそれほど多くはない。だが……少なくとも母の親戚筋の財産の扱いは区切りがついた。支援機関の資金源の一つとすると同時に、各合衆国に子供達を受け入れる施設を建設すると共に教育施設の建設も進められている。
「植民エリアだった国々の学校設備も立て直さないといけないが……そちらはその国の政府に任せるしかないかな?」
水や食料、衛生の回復はそちらよりも重要だ。雛の言っていた気持ちが分かる。ブリタニアのエリア政策が終わっても、彼らの生活がすぐによくなるわけではない。日本で出来る部分と日本でまかないきれない部分はブリタニアなどの国から支援を行うしかない。
今やブリタニアも日本も一つの連合国家の枠組み……かつての区別やナンバーズの統治はナンバーズにという理屈も通用しないのだ。
他にも、E.U.や中華連邦も政府によって見捨てられた地域が多い。そちらはE.U.と中華連邦だった国に任せるしかないが、それでは限界が生じる。受け皿がやはり必要となってくる。
「ナナリーや兄上もそちらで検討してくれているけど……」
ナナリーといえば………あの映像で、ナナリーはルルーシュの遺体に縋り泣きじゃくっていた。当然だ……人々がどう思うかは分からないが、ナナリーは『ブラック・リベリオン』までルルーシュと暮らしていた可能性が高い。それが、あんな形で敵対して最後は死別……それでも、今は戦後の復興に尽力しているのだ。あれほど仲が良かった兄と戦ったなどというレッテルを背負って。
「君は強いよ、ナナリー。」
もし、ライルがあんな形で死んだら……自分は彼女みたいにやれただろうか?いや、多分無理だろう。まして、殺した張本人が今彼女の側にいるなど………
僕も…君みたいな強さを得られるのかな?

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