[38682] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-53『明日…中編2』 |
- 健 - 2020年03月24日 (火) 13時21分
バルディーニは『黒の騎士団』でヨーロッパ方面軍の指揮官に抜擢された。彼がまず行ったのは、日本人達の解放と難民保護地区に住まう人々の祖国への帰還だ。
あの政治家共も少しは身にしみたと思いたいが、基本的に信用していないバルディーニは極力自分で行っていた。今度はゼロとシュナイゼルの二人にすり寄るなどとやりかねないからだ。
部下や当時の少数派も似た考えが多く、主流派はほぼ信用されていない。あの腐敗を抱えたまま超合集国に加盟させても、自分が■ねばどうなるかルルーシュとて分かっていたはずだ。
「だが、待てよ。裏を返せば、ゼロという絶対のカリスマに加えてシュナイゼルもいれば奴らが媚を売ると読んだとすれば説明はつく。」
もしそうならば、やはりあのゼロは……全てあの男のシナリオ通りに事が運んだことになる。
「ふ……シュナイゼルといい、あの男といい、私など及ばないほどに器が大きい。」
だが、今はやらねばならないのは難民保護地区の市民を祖国へ送り届けること。奴らの利権のためではない、他ならぬ彼らのために。
マクスタインも『方舟の船団』の事件で評価されているが、所詮は奴らの利権目的であるのは明白であろう。彼も妻子のためにと活動を続けているが、もううんざりしていると聞く。
「私も、こういう時に海棠がいないのは苦しいな。」
「ええ……ああ見えて彼は本当にやり手でした。」
補佐官の一人が同調する。直接的に補佐して欲しかった海棠は…難民保護地区などの支援現場を希望した。彼が補佐にいないのは少々痛いが、彼らしいのかもしれない。
海棠は部下や孤児達の身の安全という条件で投降した後、自ら本流を外れて現在は難民キャンプへの支援に力を注ぐ道を選んだ。
日本に限らず、戦争で国を焼け出された人々の復職や子供達の教育の立て直しは欠かせない。あのライル・フェ・ブリタニアでさえ、主張していたことだ。
「ったく、キョウトの爺さん達や四十人委員会の連中、本当にそれは必要だって分かってたのやら。」
前者だけでなく、草壁のような急進的な独立派は分かっていたかは疑わしいが、今度は状況が違う。ブリタニアも含め、三極が超合集国という枠に収まった。つまり、当時のE.U.や中華連邦加盟国の力が全てまとまった分、貧困や教育に力を入れる余裕が生まれたということだ。
独立後の課題としてそれらを重要視していた海棠はそうした支援活動を希望し、部署もそちらへと転属。KMFも少ない部隊だ。
子供達の中にはまだ高校や大学へ通える年齢の者も多く、海棠はその子達がその恩恵を受けられるようにするためにも、それを選んだ。投降の時も自分は殺しても良いから、せめて子供達を許して欲しい……そして、丁度高校や大学へ行ける年代の子達だけでも学校へ行かせて欲しいと。子供達からの強い助命祈願もあったらしく、藤堂や扇も『海棠のような思想の人間は重要』と一応フォローを入れてくれたらしい。
当分、あいつらに足を向けて寝られないな。
「大佐、オランダのゲットーから出た人々の前職と学歴です。」
「あいよ……ああ、こら酷いね。あのままだったら、まともな読み書きだって出来ない子供が増えるところだったぞ。……裕太、ジャンヌ・ダルクが自分の名前を書く位しか出来ないのを利用されてはめられたの、知ってるか?」
「ええ…騙されて自らが異端と認める書類にサインした、程度には。」
「後、二、三十年もしたらブリタニアもE.U.もナンバーズやら相手にそれやってたかもしれないぜ。ったく、騙せることしか考えないで……読み書きできない労働者なんて扱いにくいってのが分からんのかね。ま、家畜が読み書きする必要ないってんだろうね。あの八番目様もその辺を危惧してたんだろうよ。」
日本だって占領から十年足らずだったからまだ良かったのだ………あの状況下でもそれにもっと力を入れることも出来たはずだが…………あの老人達はそのあたりを考えていたとは思えない。そこだけは、かつての同僚達もおそらくそうだ。これは魂や誇りで解決しない。
「まあ、いいや。流石にあの頃の反対派支援の爺さん達もこっちに目を向けるだろう。向けてくれなきゃ困るが。」
「もし…向ける気がなかったら?」
海棠に着いてきたE.U.の将兵が問う。それに対し、海棠は目を鋭くして……
「んな生きた化石、いたら困るって?あの片瀬少将やキョウトの爺さん達や草壁達だって、俺に言わせれば生きた化石だったんだ。」
穏便にご退場願いたいが、今後の反対派はその化石共の可能性は濃厚だ。それから守るのも、軍人の役目だと海棠は信じている。そして、害悪になるのならば消えて貰うしかあるまい。
ルルーシュに着いた俺なりに埋め合わせはしないといけないんでね。未だに日本の威信だのなんだの抜かすような化石共の血を被るのは、俺のようなロートルで十分さ。
池田よ……お前さんがどんな思いで逝ったのか分からんが、お前さんが見限った頃よりは日本も他の国もマシになって欲しいな、お互い。
デルクは祐介と香奈の墓に花を添えていた。
「祐介、香奈……お前達の国は解放されて、お前達をゲットーに押し込んだ革命政府は滅びたよ。」
否、滅びたというのは正確ではない。どちらかと言えば、恐怖に屈したというほかにない。だが、いっそ本当にパリがフレイヤで消し飛んでくれれば良かったのにと思う自分がいた。
二人とも、もうこの世にいない。心の中にあいた空白はどうやっても埋まらない………無意識に、二人の代わりを求めた美奈川浅海も除隊した。やはり、一度日本で会い貢ぎ物にされた時に再会したライル・フェ・ブリタニアに心を奪われていたようだが、今は会いに行けないのを残念に思っていた。
日本に戻る気にもなれなかった彼女の身元保証人を引き受けることとし、彼女に大学への入学を勧めているが、その傍ら彼女自身はライルを諦めていないようだ…何か口実でも見つけて会いたがってもいる。
ゼラートはドイツ州の正規軍や政府の官僚が便宜を計らい、『黒の騎士団』での残留が認められた。全く、大方超合集国での器の広い部分でもアピールしたいのだろう。向こうにとってはゼラートが失うには惜しい人材だという見方も含まれてはいるが、ゼラートはあの出来事がルルーシュの筋書きだと睨んでいた。
できすぎている……何から何まで。アレが狙いだったのならば、少なくとも枢木スザクや彼の保護者だった二人の士官、『オレンジ』も共犯者と見て良いだろう。『オレンジ』でさえ、大きな罪状に問われなかったのだから。
が、ゼラートは『全ては悪逆皇帝ルルーシュの仕業』という悪意を集中させるやり方は納得しがたかった。何より、他の誰よりも納得していない者がすぐ近くにいる。
イロナ・メルクーシンだ………『ユーロ・ブリタニア』の腐敗貴族、ルーカスと蹂躙されていき心が壊れた姉が生きていた。成り行き任せの節もあったが、自分達が傘下に入ったということになっているライルがルルーシュに着いたことでペンドラゴンで精神的、肉体的に治療が出来ると思われたが、その姉はペンドラゴンで■んだ。
彼女はフレイヤを落とした張本人であるナナリーとシュナイゼル、それと組んだ『黒の騎士団』に対して途方もない憎悪を抱いている。
『お姉ちゃんを殺したナナリーとシュナイゼルと手を組んだ奴らの下になんか入りたくない………それに頼らないと目指せない世界なんか知らない。どうせ出てくるなら、あいつらが処刑されてから出てきなさいよ。』
もはやゼロにさえ憎悪を向けている。無理もない……まして、自分の分析を彼女に言えるわけもない。ルルーシュに着いた動機があまりにも直接的且つ正当なもので、しかも『ルルーシュの仕業』が通用しない彼女の憎悪は軍も持て余していた。残留を問われた際にも『ナナリーやシュナイゼル、当時の幹部達を全員自分に殺させてくれるなら』、と付け加えるほどで、もはや精神的な異常による除隊という形で切り離す以外になかった。
「全てを誰かのせいにしないと目指せない明日、か………そんなガキの喧嘩みたいな理屈を全世界規模で掲げないと前へ進めないとは。人間とは、ここまで醜く弱い者だったのだな。」
そして、所詮そんなものは一時凌ぎ。その理屈がねじ曲がる形で蔓延したら、ブリタニアの悪行の繰り返し。シャルル・ジ・ブリタニアでさえルルーシュと比較して名君だ………ブリタニアの世界制覇と悪行を始めた張本人でさえも。
「同じ悪逆をなすのならば、生涯をかけてその悪名を背負い続けることも出来たのではないか?」
■ぬまでその業を背負った上で、世界をよりよい形に変えていく。それこそ、スマイラスが考えていたナポレオンの皇帝即位……『愚民共の民主主義より有能な独裁者の方が人類に有益』であると同じだ。意味のない権力アピールや外に無関心な民衆、特権に寄生する貴族や何の役にも立たないものだけ大事にする愚かな反対派共の悪意さえも一身に受けて………この仮説通りでゼロが彼ならば、■に逃げと同じだ。
とはいえ、今更後の祭りで根拠に乏しい仮説に過ぎない以上はこれ以上考えても仕方がない。ゼラートも、イロナのあの状態を見かねて彼女の保護者を買って出た。彼女ともう一人……いや、あと二人養わねばならない人間がいる。ウェンディが宿した、新しい命………アレクシアやアサドもきっとそれを望む……そして、ニコロスとの約束を。
当分、お前達の元にはいけそうにないな。
ラルフは『黒の騎士団』を離れ、大学に通うこととなった。両親の事故の件が認められ、親戚に奪われた家なども殆どが返ってきた。
扇はそれをいたわってくれた………が、ラルフはもう『黒の騎士団』に戻らないし、戻れるわけがない。どうあっても、自分は扇達を裏切った。父同然に慕っていた彼を………
これはルルーシュのせいではない。疑念を抱いて、扇達を裏切った自分のせいだ。
『ラルフ、君がそこまで責任を感じることは。』
『扇さん………扇さんは僕の両親の件も彼の仕業だとおっしゃるのですか?』
『いや……確かに、それは彼とは無関係だ。』
『だからです………周りが両親のことも彼の仕業とされても、僕自身は納得しませんし、そんなの認めません。それに……やはり、どうしても貴方の奥方のことも納得がいかないから、そんな僕がいるわけにはいかないから、これは僕のケジメです。二年弱、お世話になりました……カレンさんや玉城さんもお元気で。』
ニュースではブリタニアの代表となったナナリーが日本の首相になった扇との会談に臨む様子が映っている。
「扇さんが日本の首相………大丈夫なのかな?」
馴染みの観点からはっきり言うと、不安だ。彼は中間管理職向けだ。いくらルルーシュ皇帝に立ち向かったという経歴があるとはいえ荷が重すぎるような気もする。藤堂は軍人と兼任は出来ないから除外して……合衆国日本の代表兼任で神楽耶が勤めた方が良かったような気がした。

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