[38680] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-53『明日…中編1』 |
- 健 - 2020年03月18日 (水) 12時23分
マクスタインは『黒の騎士団』の事務方に回っていた。元々ブリタニアの将軍もペンドラゴンの消滅で大勢が死亡している。ルルーシュに全権を掌握された今、ブリタニア国内の軍事機能の回復のためにも有能な将校は一人として無駄に出来ない。
彼はまずルーカスと処刑された彼の親戚筋の財産をどうするか考えた。一つは決まり切っている。あの連中に弄ばれた女達の治療費だ。
中には妊娠した女もおり、産みたくないという者もいる。生まれる命を…といいたいところだがそれが言えるような立場でもない。
ただでさえ弄んで飽きたら捨てるを繰り返していたこともあって、マクスタインもまだ把握しきっていないほどに多い。とはいえ、そうした目に遭わされた者は世界中、山ほどいるだろう。せめてルーカスに蹂躙された女達だけでもと、クルークハルトが共同で行っているがまだ先は長い。
これは完全にルルーシュが無関係で、他の『黒の騎士団』幹部や各合衆国の官僚達も頭を悩ませていた。とはいえ、マクスタインも一つの不安を抱えていた。ライルの副官のゲイリーやエルシリアとセラフィナに仕えていたウィンスレット、生き延びた他の将軍達も同意見だった。ルルーシュとシャルル、二人のブリタニア皇帝が死んだとはいえ当時の反ブリタニア勢力がそれで大人しくなるか?
そう問われれば誰も首を縦に振れない。むしろ、これがきっかけで逆に暴走する者も現れるのではないかと懸念していた。そして、ルルーシュの粛正を逃れたブリタニア貴族もそれに含まれるだろう。
仕える価値も敬意を払う価値もない皇族の下にいたマクスタインにとっては、清々するが他の貴族……それこそルーカスのような貴族は何をしでかすか。
ナナリー様やシュナイゼル殿下はゼロと同じかそれ以上に狙われるやもしれぬ。
そして、他の生き残った皇族達も腐敗貴族による報復または『真の第100代皇帝』という象徴の形で狙われる可能性を否定できない。世界が彼らをどう思おうが、彼らの能力はこれからの世界に必要だ。
クレアは日本のブリタニア大使館でデスクワークに一つの区切りをつけた。
「もう……あいつら、何時までこの国がブリタニアのエリアでいるつもりなのよ。」
ブリタニア側の人間の多くが未だにこの国をブリタニア領土と思い込んでおり、日本の観光名所や文化遺産の立て直しには無関心だ。
国民生活や教育にさえも関心を持たない傾向がある。なんのための外交大使だ。日本を始めとした各国との国交回復も大切な外交大使の仕事だというのに。
そういう意味ではシュナイゼルや側近のカノンがまともだ。
ペンドラゴンを住民ごと消し去った件についてはまだクレア個人としても軍人としても怒りがある。
だが、二人は今ゼロに仕える形で復興に尽力しており、その手腕は捨てがたい。
「得がたきは優れた外交官と柔軟な発想力ね。」
ただでさえ、軍人のクレアにとってこちらは不慣れだというのに。だが、軍人としてもエリア時代にこの国にいたブリタニア軍との調整は不可欠だ。父もそちらも込みで来ているのだから。
「ああ、早く終わらせて現地の本場料理が食べたい。」
軍に残ったウィンスレットは各エリアにいたブリタニア軍と連絡を取り合い、一時帰国及び『黒の騎士団』としての再編成に追われている。そちらよりは幾分かマシかもしれない。
木宮ユウキはシルヴィオの護衛を務めていた。武器などは相変わらず持っているが、長い間着慣れた礼装はいずれ着られなくなるだろう。
「はあ、流石に愛着があるこれが着納めになるのは嫌ね。」
「日本人なら逆では?」
ミルカが問うが、木宮は艶やかな笑みを見せて額を指で突く。
「もう、そういうのなしよ?あたしは十年以上シルと付き合ってるんだから、育ちは日本でも心はブリタニアの騎士。」
今更日本に戻ったからシルヴィオと別れる気などない。ここまで来たら、墓まで付き合うつもりだ。
「貴方こそ、相変わらずシルにお仕えするんでしょ?」
「え、ええ……その…シルヴィオ様に、プロポーズ…されたし。」
ようやくか………長続きしないシルヴィオにしては珍しいと思っていたが、どうやらようやく彼にとって本気で愛することが出来る女性を見つけたようだ。
「それじゃあ、貴女も守らないといけないわね。皇妃様?」
「そんな風に思ってないくせに…私だって、貴族制がそのままでもしばらくは皇妃より側付きメイドのつもりだったんだもの。」
「あらあら……一般家庭ならいい専業主婦だったのに。」
不快に思ったのか、今度はミルカがふて腐れた。
「当分、専業主婦は無理よ。」
「残念。」
そういえば、エリアはどうしているだろうか?あの後、エリアは一度あの施設に戻って引き続き軍人を続けるか、それとも同じような子供達の保護か考えているらしい。
もし、後者ならば各地域への支援機関の傘下にあの施設をいれて貰うことで運営も安定するだろうし、エリア自身も収入をそちらに回せる。
良い物ね……世界がどう変わっても、すべきことが変わらないっていうのも。
テレサは一度施設に戻った。父達は貴族制や財閥の解体に賛同する代わりに孤児院の経営などは引き続き行うことを許されていた。
「みんな、ただいま。」
「おかえりー。」
子供達がいつものように笑顔で出迎えてくれた。世界がかかったあの戦争の後でも、この子達は元気だ。
「ねえ、おじさん達は?」
父達のことを気にしているようだ。
「うん、ここやいろんな子供達のいるお家のお金とか、そういうことを他の国の偉い人と相談しているの。」
「お姉ちゃんのところの皇子様は?」
他の男の子がライルのことを聞いてきた。
「そうね……ライル殿下は、悪いことをしたからみんなどうするか悩んでるの?」
「なんで?いい人なんでしょ?」
「あたしも会いたい-。」
子供達は難しいことを分からず、無邪気に会いたがっている。何度か彼のことを話して、会わせてあげたいとは思っていたが…
「ごめんね、軍隊の偉い人とかと私も出来るだけ相談してみるから。」
「やくそくしてよ?」
「ええ、大丈夫よ。」
様子をこっそり見ていたルビーは胸をなで下ろした。
「お父様達、こういうのを守るためにルルーシュ皇帝に着いたのね。」
この景色を見れば、いかに父達が本気で子供達の保護に力を注いでいたのかが分かる。
貴族社会から見れば、父達は裏切り者だろう。だが、子供達の家を守る選択をしたのだ。既得権益の殆どをここや他の孤児院と引き替えに……
庶民や一部の貴族から高く評価されるのも頷ける。
「みんな、あんまりテレサを困らせちゃ駄目よ。」
「ああ、ルビーお姉ちゃん!」
今度は子供達がルビーの方へ駆け寄ってきた。
「ねえ、またおそろいにして!今度は当てるから!」
マルセルは『ユーロ・ブリタニア』の領土だったサンクトペテルブルグに戻った。既に大貴族会議も『四大騎士団』も急襲され、形骸同然だった『ユーロ・ブリタニア』。しかし、マルセルにとっては『ユーロ・ブリタニア』こそ真の祖国である……そこは揺るがない。
今更家族を奪ったロシアに義理立てする気も起きない。新たな形として『ユーロ・ブリタニア』が歩む時が来たと貴族達に伝えるべきだろう。
「ヴィヨン郷……貴方と『ガブリエル騎士団』の名にかけて、新たな『ユーロ・ブリタニア』のあり方を見つけてみせます。」
生き残ったかつての『ガブリエル騎士団』の団員達もそれぞれの形で歩み始めている。運の良いことに、『ウリエル騎士団』からルーカスの軍に転属していた男から声がかかっており、マルセルはそちらを選んだ。
そう、時代や体制が変わっても『ユーロ・ブリタニア』の志は違う形で生き続けるんだ。
クルークハルトは一息ついた。
「どうぞ…」
ルーマニアの少女が紅茶を出した。ルーカスがあてがった女の一人だ。他にも何人か手つかずだったのがあてがわれたのだが、彼女らは国に戻るのを拒んだ。無理もない……他ならぬE.U.が彼女らをブリタニアに売り払ったし、家族や恋人を殺された者までいるのだ。それがいくら超合集国憲章を批准したとはいえ、すぐに信用するのは難しいだろう。例え、家族がいても帰りたくないのだ。
元々ルーカスらに弄ばれた女達を引き取っていたが、やはり誰もが重傷だ。特に重傷だった女達は治療のために向かったペンドラゴンで死んでしまったが…それでもまだかなりいる。
手を着けず、愚痴を聞いて貰っていたこの女達も自分の側を離れようとせず、なし崩し的に側仕えになっている。
「何とか超合集国や『黒の騎士団』の方もあの男や取り巻き共の財産についてはお前達の治療などに当てることは了承してくれたが……果たして足りるやら。」
世界各国への支援機関設立を聞いたクルークハルトはE.U.方面の避難民達の保護を志願した。本国やE.U.、そして業腹だが『ユーロ・ブリタニア』の不良部隊に襲われた人々や国に帰れない人々の難民キャンプもある。
体制が変わっても『ユーロ・ブリタニア』の騎士として、彼らを保護するべくクルークハルトはそちらを希望した。他の騎士達にも声をかけた。
幸い、『ウリエル騎士団』時代の知り合いや当時の大貴族にも似たような考えがおり、そちらに力を注いでいる者の協力を取り付けることが出来、同じような騎士達に声をかけていた。
アーネストは生き残った大貴族及びE.U.構成国との意見調整に奔走していた。大貴族達は彼らの子や孫に当たる若手を中心に何とか納得している者もいるが、問題はE.U.だった。ただでさえ、事なかれ主義の革命政府……今回の件でも利権ばかりだ。
『ユーロ・ブリタニア』も変わらねばならないのに、まだ多くの貴族達が納得していない。既に『四大騎士団』も壊滅状態である上に、帝政自体も終わっている。むしろ、それを好機とする動きがあるらしい。
「時代を遡っても意味はない。我ら『ユーロ・ブリタニア』も変わらねばならないのだ……」
そう……ルルーシュに全てを奪われた『ユーロ・ブリタニア』はかつて祖先が市民を搾取していたことが、そのまま自分達にも来た。そして、身をもって知ったはずだ。革命の発端となった自分達の行いを………
「今度は市民を導くのではなく、市民と共に良き社会を作るべきではないのか?」
ノックがした。
「アーネスト様、よろしいですか?」
美恵だ。あの後、女達とは正式に協議して別れた。彼女達も実家が特権を失ったということもあって、その立て直しに追われるようになった自然消滅といっても良いだろう。
が、美恵だけは身寄りがないこともあってアーネストが保護者を担うこととなって、現在は本国の大学に通う予定だ。引き続きメイドとしても仕えており、例え両親が健在であったとしても、本人は戻る気はないと断言している。
「どうした?」
「アーネスト様がおっしゃっていたE.U.在住の日本人達の市民権回復及び日本への帰国ですが、シュナイゼル殿下や現代表達の申請で正式に認められ、復職なども許されるそうです。」
そうか……ようやく、ブリタニアの侵攻によって生じた膿の一つが除去された。が、今度はその膿の先だ。アムステルダムなどは凄惨極まりない状況だったと聞く。
次に思いをはせると、美恵が豊満な胸を後頭部に押しつけるように抱きついた。
「私は、大学に行かなくてもこのままアーネスト様と…」
「駄目だ……大学卒業位はしておけ。」
「…はぁい。」
諦めたのか、キスだけして美恵は退室した。それを見届け、アーネストはため息をついた。
まさか、この私が元ナンバーズ……しかも十も年下の娘に心を奪われるとはな。
が、悪くない。ある程度落ち着いたら、本国に戻る事になっている。そうしたら、彼女の勉強を見てやるのも悪くないだろう。
まるで父親か兄の気分だ……と微笑してアーネストは仮眠をとることにした。

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