[38674] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-53『明日…前編2』 |
- 健 - 2020年03月09日 (月) 21時31分
『全ての悪事はルルーシュのせい』そんな暗黙の了解の元でライルだけでなく、彼の旗下だった者達の罪も許された。否、ルルーシュに比べれば黙殺もやむを得ないといった方が良いのかもしれない。
超法規的措置のとられた彼らはそれぞれ新しい人生を歩むべく考えていた。
良二は一度日本へ戻った。そして、両親に失望した。あれだけ、首相の息子であるスザクと関わっていたことを喜んでいたと思いきや今度はスザクと仲が良かったことをなじってきた。
自分勝手極まりない……こんなものから自分が生まれたと考えると反吐が出る。そんな愚痴を家同士の付き合いで面識があった戸埜村ミオにこぼしていた。
スザクと同じく付き合いが長いこの女は世の男が見れば涎を垂らすような豊満な身体に、クリスタルのような色気を振りまく美女だが、まだ二十歳を過ぎたばかりだ。そして、そんな彼女はスザクと何度か同じベッドに入った仲らしい。最も、クロヴィス暗殺容疑から始まる情勢の変化で自然消滅したような物だが。
「全く……日本が占領されてブリタニアに媚びて俺がライル殿下にお仕えしたら喜んで……今度は俺がスザクと仲が良かったことに文句つけやがった!!」
「それ、三回目。大体、未成年の飲酒は犯罪で毒よ?」
「生憎、ブリタニア企業との付き合い重視で既に何度か飲んでいる。」
「女も?」
「…ああ、最も向こうは俺のことなんてただのイレヴン程度だったろうよ。或いは殿下かスザク目当ての汚いの。」
「酷いこと言うのね」と目を細くして、誘惑するように見せるが良二は動じない。彼女の心は今でもスザクの物なのを分かっているし、そういう対象ではないからだ。
「お前だって、結構飲んでるだろう?」
「まあね……私も貴方と同じ。誰が何と言っても、スザク以外の男なんていらないわ。貴方の皇子様でもね…良い男だけど好みじゃないの。」
「………主君への侮辱、といいたいが目をつむってやる。」
良二はそれだけ言って、ビールをまた飲んだ。
長野は新しい我が家に帰ってきていた。が、やはりゲットーでのあの家がたまに恋しくなることもある。
「父さん……お疲れ様。」
娘の絵里がねぎらい、肩を揉む。
「力がついたな。」
「ありがとう………」
しばらく娘に肩を揉んで貰い、長野は口を開く。
「絵里……父さんな、やはり軍隊しか食べていく術を知らないんだ。」
娘は何も言わない。
「超合集国の再編に伴って、ブリタニア軍も『黒の騎士団』に入る。だから…」
「『黒の騎士団』になるが、分かってくれ?」
「……ああ、本流には関われないしおそらく何処かの基地勤務が良いところだろう。」
「………父さんの階級、将軍でしょう?それ不当な扱いじゃないの?」
絵里はいささか不服そうだが…
「ライル殿下も以前ほどの権限もないし、ご本人も動けない。藤堂将軍は一応の弁護はしてくれているが、どうなるか。」
まだ娘は肩を揉み続けている。
「だが、安心してくれ。高校に行けるのは確定だ。学費もあるから……」
「父さん、それは良いから今度は自分のことを考えたら?」
「え?」
「ずっと、私と母さんのことばかりだったのよ。今度は自分を見てよ。」
自分のこと、か。そういえば、エリア11成立からずっとそのことばかりだった気がする。
「そうだな……趣味の一つ。酒の収集でも何でもやってみるのも良いかもな。」
雛はブリタニアに渡った。もうあんな国に戻ろうという気にはならない。全てルルーシュのせいなどという子供の喧嘩みたいな論理を翳さないと目指せない明日になんの価値がある?世界中でそれだが、日本はもう雛にとってはなんの価値もない。
それに何より、ウェルナーがブリタニアにいるからだ。ウェルナーは各国の支援機関で働こうとしており、リハビリも並行している。もう少し、面倒を見てあげないと。
また、以前から保護者だったデビーが大学に通うのを勧めてきた。考えた末に、雛はウェルナーのボディガードと大学生を兼任することになった。とはいえ、ウェルナーの母トゥーリアとデビーの双方から学業をメインにするようにと言われ、正式に彼のボディガードになるのは当分先だ。
「皇子様の騎士は当分お預け、か。」
しかし、レイやスザクと同じ皇族付きの騎士とは。全く、名誉ブリタニア人になって正解だった。と、考えるには少々遅かったが。
「ま、いっか。」
右手を見つめ、手の甲にキスをして雛は受験勉強を再開した。
秀作は正式にゲイリーの養子になった。かといって『黒の騎士団』などごめんだ。まして、あの魔物共と同じ軍だけでも我慢できないのだ。
ゲイリーもそんな我が儘を汲んでくれたのか、除隊を受け入れてくれた。
「大学?」
「お前の年齢なら、高校は無理でも大学は行ける。名誉ブリタニア人になるに当たって、色々と勉強はしたのだろう?」
「ああ……魔物共から金や教材を殺して奪いまくった。」
自然にそういった秀作の反応に周囲がぎょっとするが、秀作は意に介さない。
「もうそうしなくていいんだ……こちらが教材を用意できる。で、大学を出たらどうする?」
「え……」
「復讐は駄目でも、お前という人間を認めている人はいるだろう。」
「俺がしたいことと……俺の今後。」
何も、ない……魔物共を根絶やしにして、存在を確立する以外何も。
「焦らなくていい………ただ、お前のような境遇の子供は他にもいるかもしれない。枢木スザクだって、一歩違えばそうなっていただろう。」
あの男も……一歩間違えれば………
「じっくり考えろ……この屋敷の者は誰もそれを邪魔しない。」
「誰も、邪魔をしない…………ありがとう、親父。」
幸也はブリタニアに渡った……クリスタルが保護者を引き受けてくれたのだ。
正義のために家族を奪われ、その正義を滅ぼすために軍人になった。だが、入隊した軍は正義に支配された。もう意味はない。
父の敵であるこの国にも母と姉を殺した日本にも居場所はない。だが、自分を受け入れ信じてくれた者が、仲間がいるだけブリタニアの方が良い。大体、前だって父の仇は信じても母と姉の仇を同胞達は信じなかった。それどころか奴らは言うに事欠いて『ライルがそのように吹き込んだ』、挙げ句の果てに『事実でもやむを得ない。』、『日本の独立のための誉れある犠牲』などとほざく始末。
『俺がそんな国と軍にすすんでいると思うか?答えてみろよ、正義の味方。』
幸也に限らず、免罪された後に『黒の騎士団』としての在籍を多くのブリタニア軍人が薦められた。しかし、心理的抵抗から除隊したブリタニア軍人も多かった。幸也は全く違う理由で、更に担当官に堂々と言ってやった。
そして、幸也の糾弾に反論できる者はいなかった。お決まりの文句さえ出させなかった。
なら、どうするべきか……とことん異端でいてやる。それが幸也の世界に対する反抗だった。
『全てルルーシュのせい?』なら、俺の家族が殺されたのも彼の仕業だとでもいいたいのか。あの頃、彼は俺と同い年だぞ。それで納得しないから異端なら、俺は異物でいてやる。
そして、今スペインに戻っているセルフィーのことを思い浮かべた。彼女達は一度父の元へ顔を見せに行くことになっており、難民キャンプなどへの慰問ダンスを計画しているらしい。
「変なのに目をつけられないと良いが……」
そう考えると、彼女達のボディガードというのも今の自分の選択肢かもしれない。まして、セルフィーがと思うと……
エレーナ達は一度スペインに戻った。マリーベルの支配から解放されたスペインは復興が勧められている。三人はその慰問ダンスを行って欲しいという要望には応じる気でいたが、まだ変わっていない物がある。
「またよ……今度は兄さん宛にルーマニアの財閥から。」
「ったく、変わっても変わらないものってあるものだな。」
ヴァルスティードもセルフィーも辟易しきっている。未だに三人に交際やら結婚を申し込む者が後を絶たない。
「姉さん……堂々と公表しなさいって。ライル殿下と事実婚だって。」
「な……そ、それは………そういうセルフィーこそ、幸也を専属ボディガードにしなさいよ。」
今度はセルフィーが顔を赤くした。
「べ、別に……幸也は…良い男、だし。ちょっと、デリカシーはないけど…に、兄さんは!?」
「さあ……ライルのところにいた間、女よりも男連中との付き合いが長かったからな。」
「まさか兄さん……そっちの。」
「んなわけないだろう。」
リュウタはブリタニアにあるバルテリンク家の本宅へ入った。養父は日本で在日大使という形でまだ残っているが、リュウタはもう日本だけは嫌だった。
嘘つきの日本人と、そのゼロを崇める人々も何もかもが嫌だった。
「みんなずるいよ。散々ゼロが怖かったくせに、今度はゼロが大好きなんて。」
「リュウタ、リュウタのそういう気持ちは大事だけど。今は世界中の人がゼロを必要にしているの。」
ユリアナは何とかリュウタの憎悪を溶かそうとしているが……
「なんでゼロじゃなきゃいけないの?陛下でもよかったじゃない。嘘つきの『黒の騎士団』をみんな殺してくれるんだから。」
「でもね…彼が悪い人」
「じゃあ、お父さんとお母さんを殺したのはいい人なの!?違うよ!ユーフェミア様や皇帝陛下がいい人なんだ!!」
それをいわれて、ユリアナや他の使用人達も黙ってしまった。
「絶対にゼロと『黒の騎士団』は悪者だって言い続けてやる。お父さんとお母さんを殺したのは『黒の騎士団』だ。皇帝陛下のせいじゃないもん。」
ユリアナはもう何も言えなかった。だって、リュウタの憎悪は正しい。ルルーシュが悪いなんて理屈、この子に通じるわけがない。そもそも、彼が即位する以前の出来事まで彼のせいなどと責任転化以前の問題だ。
「リュウタ、そういうことを言い続けるのは大変よ。周りの人にとっては貴方が悪い子になるんだから。」
「いいよ。嘘つきの味方をする方がもっと悪いんだから。」
………仕方ない。この子の憎悪が溶けるまで支えてあげよう。ユリアナ自身もその理屈には納得がいかないし、全ての人が納得するわけがない。
こういう子ももしかしたら、必要なのかもしれない。『ルルーシュのせい』という理屈が通じないからこそ、人々は「自分がした」という意識を失ってはいけないのだろう。そして、無関心ではいけないのだ。
かつてのブリタニアで人々はブリタニアの政策になんの疑問も持たず、無関心だった。だが、もう無関心ではいられない……超合集国で起こるということは自分達にも降りかかる。それを意識しないと、明日には進めないのだ。

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