[38666] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-52『レクイエム…後編2』 |
- 健 - 2020年02月01日 (土) 11時58分
ライルはどこへ着くとも分からない大地を歩いていた。行けども行けども……平野ばかり。
「ここは、どこだ?」
不思議と疲れさえ感じない。だが、孤独はある。内心で抱いていた恐怖………皇族でなくなれば周りは離れていくのでは?
それが急にふくれあがった。恐怖に駆られ、ライルは歩みを止めた。
「やだ…やだ……」
奴らが群がってくる自分の地位が煩わしいと思うことがあった。だが、それがあるから有紗もフェリクスもいるのでは?そう思うことがあった。
違う……僕が欲しいのは、そうじゃなくて!
「また、ビービー泣いているのか?」
聞き覚えがある。もう聞けない声がした。
「セヴィーナ……?」
よく見ると、フェリクスもいた。そして、少し先にはジュリアもいる。
ああ…死んだのか、私は。有紗達にもう会えない。だが……ジュリアにもう一度会って、謝れる。もしかしたら、ユフィとユーリアにも?
そう思い、彼らの方へ行こうとするとフェリクスが剣を向けてきた。
「やめてくださいよ……死んだ後も貴方の面倒を見るのは嫌です。」
「………ようやくお前のお守りから解放されたんだ。こっちに来たらおちおち死んでもいられない。」
なんで……私が来ては迷惑なのか?
ジュリアの方を見ると、ジュリアは何も言わずに静かに首を横に振った。
「六、七十年位休ませてくださいよ。あの馬鹿二人に振り回された愚痴とかもその時に聞きますから。」
「その時でもまた情けなかったらまた追い返してやるよ。」
「あ……わ、私は…」
まだ何も………言えて…
次に目を開いたら、そこは何処かの医務室だった。横を見ると、有紗がベッドに突っ伏したまま眠っている。
「………夢。」
ゆっくり身体を起こすと、同時にドアが開いた。
「有紗、そろそろ………」
レイだ。呆然と、幽霊か何かを見たような顔でこちらを見つめてくる。
「ライル、様?」
「ああ……」
レイが涙を浮かべるが、まず有紗を揺する。
「有紗、起きて…」
「ん………レイ?」
寝ぼけ眼でライルを見ると、大きく有紗が目を開いた。
「ライル、様?」
「ああ、心配をかけた。」
有紗は、何も言わずにただ抱きついてライルも頭をなでてそれに答えた。
「……どれくらい眠っていたんだ?」
「二週間ほど……私と有紗だけじゃありませんよ。エレーナやクリスタルは当然ですが、ヴェルドや将軍達だって様子を見てきたんですから。」
「そうか………」
だが、どうしてそこまで心配を?
聞きたいが、先に知ることが多い。ライルはベッドから出て制服に着替えた。
意識が回復したライルを見て全員が驚くが、ライルはそれよりもまずあの後の情勢を聞いた。
ダモクレスとフレイヤがルルーシュに奪われ、降伏した『黒の騎士団』は瞬く間にルルーシュに掌握された。否、正体を知っているライル達にとっては『ルルーシュに取り返された』と言った方が正しい。
そして、クラリスや浅海の部隊は主要パイロットがライルと顔見知りで、免罪を取りはからうための交渉役にライルが浅海達の身柄を預かっていたということにしてもらったのだが……
「誰だ?私の伴侶としてルルーシュの後継者候補を産ませるなんて無茶な方便を考えたのは?」
そう、ライルが意識を失っている間に誰がどのような交渉をしたのかクラリス達は能力的には殺すには惜しいこと……ライルの知り合いでルルーシュに仕えることで免罪と部下達の安全保障、そしてその条件の一つにいつの間にかライルの妻となるなどと取り付けていたのだ。
『世界制覇をなした皇帝の兄の伴侶、そしてゆくゆくは叔父にあたる皇帝の覇道を引き継ぐ子を産む栄誉を与える。』
等という方便をルルーシュに取り付け、了承されたようだ。
「い、いや…すまねえ………大将の知り合いで、しかもあんな美人が三人もいたんじゃね。」
「あわよくば、我々が誰か一人を……なんて。」
考えるまでもなかった………犯人はこの二人だ。
「まあ、良いよ。で……一つ聞いて良いか?」
「なんだ?」
「君らに限らず、何故みんなここまで私に付き合う?もう皇族でもないのに……メリットなんかないぞ。」
その言葉に周りが固まった。そして………
「大将…」
ヴェルドが前に出た。しかも、相当怒っている。それを認識した時、頭に強烈な痛みが来た。ヴェルドがげんこつを振り下ろしたのだ。
「アホか!!そんなんでケツまくるんなら俺はヴァリエール郷どころかギアスと機情のこと知った時点であんたをうっぱらっておるわ!!」
「……じゃ、じゃあなんで。」
すると、コローレが今度は胸ぐらを掴んできた。
「殿下……貴方は私達をどう思っていますか?」
「………さ、最初の……友達。」
「じゃあ、なんでその最初の友達とやらを信じない!?貴方がギアスやシャルル陛下のことを黙っていたのは我々に火の粉が飛ばないようにしていたつもりでしょうね。」
すると、今度はクリスタルが介入してくる。
「私もジュリアの事件でのことを黙っていたからあまり言えませんけど、殿下……本当はそれで私達に嫌われると思ったんじゃないんですか?」
嫌われる……そう、だろう。自分でもそこは自覚していたが、認めたくなかった。そんなことあって欲しくないと、だが実はそうなのではないかと思っていた。
「だって……みんな、僕の地位ばかりだから。」
「かぁぁぁあああ!!ガキみたいにうじうじしやがって!!」
ヴェルドが今度は頭突きを食らわせた。
「少なくとも、俺や兄者はお前って人間のことが好きだからここまで付き合ってんだ!!分かるか、それくらいにお前を信頼してんの!!お前、本当は有紗ちゃんのことも何処かで皇族でなくなったら嫌われるとか思ってたんだろう!?」
それを言われ、ライルは凍った。
「図星か……ったく!きついセルフィーちゃんやノエルちゃんどころか秀作だってここまで付き合ってんだぞ。なんでお前がそこまで気を許さない!ビクビクしすぎなんだよ!!フェリクスもセヴィーナもそれじゃあ安心できんだろうが!?」
おびえている……そう、かもしれない。
「じゃあ……聞くけど、もうしばらく………私に、付き合ってくれるのか?」
「ここまで来て、今更何言ってんだか……おーい。ここでケツまくって逃げる奴いたら逃げて良いぞ。」
だが、少なくともこのブリッジにいた人間にはその様子はなかった。それを見てライルは……涙を流した。
「おい……なんで泣くの?」
「……だ、だって…僕を、信じてくれたのが……嬉しいから。」
「かぁーー!!ほんっとに中身の一部は園児か小学生だな!ま、いいわ。貴重な大将の泣き顔を見られた。」
「ああ、それは良いわね。可愛いし。」
「う、五月蠅い!!」
ゲイリーや長野は離れた位置で安堵のため息をついていた。いつもの調子が戻ったというところだろうか?
同時に、ライルは少しだけ分かった。
これでは確かに……フェリクスとセヴィーナに追い返されるな。

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