[38656] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-51『ダモクレス…後編2』 |
- 健 - 2019年11月01日 (金) 12時19分
ベディヴィエールとローランは一進一退の攻防を繰り広げていた。ハドロン砲を撃てば相殺、またはシールドではじき返されてしまう。刃を交えて押し合えば互いに距離を置いてハーケンを撃ち合う。
正にその繰り返しで勝負は動かない。
「さすがは『ブリタニアの狂戦士』ね!」
〈お褒めにあずかるよ!〉
槍を剣で受け流すが、それを分かっているライルは絵でローランを殴りつける。
体勢が崩れ、振動をクラリスが襲う。
「っ…!レディの横腹を殴るなんて非常識でなくって!?」
体勢を持ち直し、ベディヴィエールに膝蹴りを入れる。
〈そのレディが紳士に膝蹴りを入れるのはどうなんだ!?〉
「生まれは良くても育ちが良くないモノでね!」
ハーケンのルミナスコーンを展開し、ベディヴィエールもクローで受け止める。
クラリスは楽しかった。今までKMFに乗っても、奴らの自慢話の種にするために後ろで待機させられてまともに前に出してもらえなかった。
訓練でもフィリップ達以外はただ乗ってるだけで良いという腑抜け以下共だった。本格的なKMF戦は『ユーロ・ブリタニア』の弱体化とスマイラスの戦死後だった。
正直、少し怖かった……だが、あの男が嘘八百のように言っていた『ノブレス・オブリージュ』で自分を奮い立たせて戦い、生き延びた。倒したKMFの中には腕利きの騎士もいたらしく、賞賛もされた。
が、嬉しくも何ともない。奴らの自慢話に余計花を咲かせた程度だ……しかも、シュナイゼルと『ナイトオブラウンズ』が出てきて余計追い込まれていたのに。
訓練も憂さ晴らしの次元に落ち、手応えのある相手との戦いだけ求めるようになった。その先に見つけたのがあの男だ。
『ユーロ・ブリタニア』の騎士よりも強く、これほど手応えのある相手は初めてだった。男としても……欲望の目で見ない。年相応よりやや幼いような純情な素振り…
女としても戦士としても、この男に全てを向けたいと思うようになった。
「貴方と会って、私はパイロットとしても女としても充実しているのよ!!」
〈物騒な人に好かれたモノだな!〉
「貴方こそ、噂は聞いているわ!母親を投獄したって!!」
一瞬だがベディヴィエールの動きが鈍り…
〈私に親なんかいない!!〉
至近距離でハドロン砲を撃とうとしたが、蹴り上げて狙いを反らす。
そうだ。あんなモノ親じゃない。僕に親なんかいないんだ!!
物心ついた頃から、アレは気に入った服を着せて、気に入った貴族や兄妹とだけ遊ばせようとした。
勉強の作文だって、自分が気に入る作文だけ書かせようとした。何から何まで、思い通りにしようとしていた。
軍人を野蛮だと決めつけていながら認めたのも、皇后になれる可能性が高いからだ。軍学校での付き合いにまで首を突っ込み、成績まで操作しようとした時には激怒した。教官達に耳を貸すなと直訴までした。
と思えば、今度は自分と交流がある貴族だけを軍に紹介し、他の者達は僻地か降格という魂胆が見え透いた手を使った。ゲイリーやフェリクスさえ気に入らないあの女が紹介した者達はとにかく、家柄を鼻にかけたような連中ばかりだ。いくら優秀でも信用できなかった。
あの女は利己的だ……周りの全てが自分を飾るアクセサリー。だからあのオレゴンの農場も潰そうとした。領民達を放り出して。
あの女と同類共の言う『ノーブル・オブリゲーション』などライルにとっては嘘八百と同義語だった。
どんな人生だったかなど知りたくもないが、与えてやったんだから返して貰うのが当たり前。そう考える女だったのは早い段階で気付いていた。
父親など論外だ。あんな訳の分からない計画のために多くの国を侵略し、子供を見殺しにした。それに荷担した自分が許せない。が……そのおかげで有紗やレイに出会えたのも事実だから余計に苛立つ。
この戦いはもう憂さ晴らしだ。あの男を全面的に支持しないながらも自分自身の疑念を解決するために、あの女の欲望を満たす片棒を担ぐことになるのも分かって。結果がアレだ………自分が周りの好意に甘えていたかももう分からない。
ただ、ジュリアの事件が自分の認識の甘さなのは分かっている。あの女の利己心、そして貴族共の傲慢さを甘く見ていた。いくら何でもそんなことしまいと甘かった。アレに対して母親としての情愛なんてものを求めた自分の未熟が招いたんだ。
「願ってそうなるなら、あれから生まれたこと自体を否定した位だ!!」
〈そう、似たもの同士ね!〉
全くだ……嫌な部分がよく似ている。
ライル達が外で激闘を繰り広げていた頃……シュナイゼルはルルーシュがダモクレスに突入すると同時に既に放棄を決めていた。
同時に、ナナリーを切り捨てることも決定していた。元々彼女はルルーシュを牽制する餌。だが、機能しない以上はもはややむを得ない。
「シュナイゼル殿下、ライル殿下やシルヴィオ殿下はどうされるのですか?エルシリア様とセラフィナ様もこの戦場におられますが。」
カノンの問いには、彼らへの気遣いまたは利用価値があると裏付けていた。が、シュナイゼルは…
「彼らの性格……特にライルは私に着くようなタイプではないよ。残念だが、世界中の敵となったルルーシュの側である以上は消えて貰う以外あるまい。」
そう、確かに残念だ。能力的にも人格的にもライルはシュナイゼルにとって扱いやすく、優れていた。
かつてのブリタニア政策においては反対派と恭順派のバランスを保ついい駒でもあっただけに失うのは少々痛いが、フレイヤがあればコーネリアとマリーベル、ライルの穴は充分に埋められる。
例えダモクレスを造ったトロモ機関にそれだけの力もなくローゼンバーグも同様であっても、世界中の敵となったルルーシュを葬ったシステムであるフレイヤを否定できる者などいない………そういう意味ではルルーシュは本当に良く動いてくれた。盤上で思い通りに動くまいとしていたであろうライルは、もはや生き延びていても指導者としての器はルルーシュに大きく劣っている。シルヴィオやエルシリアはああ見えて、物わかりは良い方だ。事と次第ではこちらに着くだろうし…あわよくば『黒の騎士団』と共に………
「いや、らしくないな。また欲張ってしまった…」
ユーフェミアもだが、感情任せの傾向が強いルルーシュやライルはシュナイゼルにとって興味深い存在だった。それを二人とも消すとは。
悲しい定めの星の下の生まれだね、我々は。
ダモクレスでスザクがジノを退けた頃……ライルとクラリスの戦いも終わりが近づいていた。お互いに一歩も譲らず、クラリスが振り下ろした剣をライルが槍で受け止める。そこから更に勢いを利用して剣を持った右腕ごと相手を斬った。右腕ごと剣を失いながらもすぐに左手でショートソードを抜き、応戦した。ライルはそれをルミナスコーンで受け止め、至近距離で腰のハドロン砲にハーケンを撃った。両足をパージし、まだ交戦するが翼を一つ失い、機動力が大きく損なわれた。
「流石だね、クラリス……危なかった。」
〈あら、それじゃあベッドで再戦してくれる?〉
呆れたものだ……まだそちらに執着してくるとは。だが、大した人だ……まだ戦士としても女としても折れていない。心だけならば自分より上だろう。
「悪いが、その話は保留だ。」
後ろからは因縁のある相手、池田の蒼天がいた。エナジーウィングで強化されているからには、おそらくクラリスと同等かそれ以上の苦戦を強いられる。だが、ライルは高揚していた。
〈ライル……一介のパイロットとして、お前と戦わせて貰うぞ!〉

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