[38626] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-48『シュナイゼル…後編』 |
- 健 - 2019年08月13日 (火) 16時13分
「では、参加させてくれるんだね?」
〈ああ……俺への忠義を示すがいい。〉
ルルーシュはライルの参加を承諾してくれた。否、事実上参加せざるを得ないだろう。もしここで拒めば、あの農園や部下の親族に何が起こるか分からない。
「あと、独自行動の権限が欲しい。」
〈独自行動?〉
「私達は君の露払いに専念するよ……兄様と正面から頭の勝負をして勝てる頭は私には無い。」
〈よかろう……〉
通信が切られ、ライルは胸をなで下ろした。どうにか、全員の命はまたつながった。
「涼子、私は日本へ行く……ベディヴィエールの最終調整を手伝ってくれ。」
「イエス・ユア・ハイネス。」
「しっかし、俺みたいなのが参加するのをよく認めてくれたな。」
海棠はモーナットを見つめながら感慨深げにつぶやく。バルディーニや藤堂に本気でシュナイゼルを信用しているのか聞きたい……というのが建前だが、海棠自身はシュナイゼルを殺すのが本来の目的であった。
機械で人を支配するなんて……人を世界というシステムを作る部品にすることだろう。
それならば……人が人を支配する独裁の方が良い。世界とは形はどうあれ、人が人を支配してこそ成り立つのだ。時の独裁者達も軍事力という傘を持ちながらも自身の威光で支配していた。例え、最終的に滅びても成り立っていたのは人が支配していたからだ。
機械による支配など……海棠には到底受け入れられる物ではなかった。
「で、君らも見張りで着いてくるとはね。」
「お前との決着がまだついていないからな……地獄に逃げられては困る。」
「あら、それは俺に惚れたってことか?だとしたら俺も捨てたもんじゃないね……こんな美人に惚れ込まれるとは。」
「自惚れるな。」
「冷たいね。」
「皇族として、帝都を消滅させた要塞を攻撃する。それが私達の本分だ。邪魔をすれば、即座に撃ち落とす。」
怖いことだ……しかし、建前としては悪くない。現体制への恭順を示すことにもつながるし、部下や周辺の安全も保証される。母は犠牲になったが、幼なじみの親族が人質に取られているという。彼女にとっても馴染みだから、逆らえない。
しかし……どうなってるんだ?これじゃあまるで、もしものことがあっても皆さんはお咎めなしになるようにも見えるが。もしかして、独裁やるのも何かの前段階?
レイはライルが出陣すると聞いて、様子を見に来た。
「どうして、ルルーシュに着くんです?」
「兄様に着いていけない……それだけでは不満か?」
シュナイゼルの帝都を消滅させ、その先にある物を見据えている……そうは言っていたが。
「お母様の仇討ち……という訳ではないんですね。」
すると、ライルは自嘲するように嗤った。
「アレにそれだけの価値があると思うか?自分のブランドに合わないというくだらない理由で名門貴族も陥れ、軍隊さえドレスと同じ程度にしか見ないアレが?」
ブランドに合わない……そう、確かに彼女はライルを自分というブランドを飾るアクセサリー程度にしか見なさなかった。息子さえ自分が皇后という最上の地位を得る道具だった。
『愛してやるんだから、自分に見返りをよこせ。』
そういうタイプだったのだろう……自分の母とは大違いだ。
「君こそ……親戚の仇討ちをする気になるか?スタッカート家やスレイダー家の親戚筋はほとんど死んだそうだが?」
「なりません。」
断言した。散々『イレヴンまみれ』だの『雑種』だの『混ざり物』、『欠陥品』などと言っておいてライルがルルーシュに恭順する姿勢を見せればすり寄ってくるような連中……死んで当然だ。
「母以外は殆ど死にました。それに、『半分日本人なら母殺しをしろ』なんて言うようなあいつらに着く気にもなりません。」
「……彼らが言った訳ではないだろう?」
「でも、あいつらは私が半分日本人という自分達に都合の良い部分をいつも主張するんです。だったら、フレイヤで消えて貰った方がすっきりします。」
レイは決めていた。あいつらには言いたいほどが山ほどある……あの場を借りて言いたいことを言って、散々勝手なことを自分に言ってきた礼をたっぷりとしてやる。
シュナイゼルは執務室でチェスのボードを見下ろし、カノンに問う。
「カノン、ライルやシルヴィオがルルーシュに着いたとして……君はどう転ぶと思う?」
「通常の戦闘であれば、エルシリア様の軍も加われば例え殿下の軍と言えど只では済まないでしょう。」
そう、カノンの言うとおりだ。彼らの軍は総合面で言えばシュナイゼルやコーネリアの軍に劣る。だが、兵の資質や能力…規模……連携などのここの分野で言えば彼らはシュナイゼルやコーネリアの軍より上と評価する者も多い。
「しかし……フレイヤとダモクレスがあれば変わらないでしょう。」
「そうだね………駒一つ一つの強さならば、彼らは『黒の騎士団』より遙かに上だ。だが、こちらにはフレイヤがある。」
ボード一つをまとめてひっくり返せる力……フレイヤがこちらにある以上、クイーン相当の駒がいくつあろうと結果は同じ。
「悪いが、ルルーシュ。チェックメイトだよ。」
白のキングで黒のキングをとったシュナイゼルは勝利宣言をする。同時に、もう一人の弟を浮かべる……強情さ、意志の強さという意味ではルルーシュやマリーベルに負けていないかもしれない。
「ライル……君は本当に物わかりが悪いね。」
それを見たカノンは震えた。ダモクレスによる統治に異議を唱えたコーネリアをもあっさりと撃ったシュナイゼル。
同じように、ライルが初めからなびかないのも分かっていたのかもしれない。だが、執着する欲を持たない彼にとってライルも同じなのだろう。

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