[38617] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-48『シュナイゼル…中編2』 |
- 健 - 2019年08月05日 (月) 22時25分
ゼラートはイロナの抜け殻になったような表情が見ていて痛々しかった。
こんな感情を持つようにまでなったのは間違いなく、側にいるこの女と死んだあの男のおかげだろう。
あの男がここまで俺の中で大きくなっていたとは……こんな時、お前がいてくれたらと思うとは。俺も焼きがまわったな、ニコロス。
「ニコロスのことを考えていたのですか?」
ウェンディの問いにゼラートは自嘲するように答える。
「ああ、情けない……向こうの方がもっと酷いというのに。」
ライルがシュナイゼルによってペンドラゴンにフレイヤが落とされた。既にその時点でルーカスが囲っていた女達の中で重傷とされていた者達は移送されていた。
「その場凌ぎの嘘を言っても余計傷つけるのを理解しているからこそ、事実を述べたのだろう。」
「分からんでもないが……な。あの状態を見ていると…」
アサドが言うとおり、イロナはもはや何かをぶつぶつ言っているだけだ。
「……この手だけは使いたくなかったのだが、やむを得んな。」
ゼラートにとっては最終手段に等しく、卑劣な手ではあった。だが、彼女の精神的にも肉体的にもこれ以外にない。イロナの肩を叩く。
「ちゅ、うさ?」
呆然とするイロナにゼラートはライルがシュナイゼルとの対話で得た答えを持ってくる。
「エリア11のナナリー総督が生きていた。そして…『黒の騎士団』がルルーシュ打倒のためにシュナイゼルと手を組んだ。分かるか……連中はダモクレスに味方したんだ。お前の姉を殺したシュナイゼルとナナリーの狗になったんだ。」
「ナ、ナリー?……シュナイ、ゼル?」
生きていた……ナナリーが?シュナイゼルに、味方?『ロンスヴォー』の仲間も?
「ピエルス大佐達、も?」
「彼女達は分からないが、少なくとも扇や星刻達はそちらを選んだようだ。」
あい、つらも?典型的な軍人と言うことで藤堂も星刻も大嫌いだった。ブリタニア人という理由でゼラートを侮辱する玉城も…あのカレンはよく分からない、が。
少なくとも、『魂』や『誇り』だとそればかり言うあう彼らが……
つまり、嘘八百だということか?
「……嘘つき。」
「何?」
「散々……革命政府のウジ虫に従うイレヴンをあれこれいっておいて………自分たちがシュナイゼルの狗?」
都合の良いご託を並べておいて、いざなればこれか。しかも自分たちとゼロを引き離した張本人と。
いや、最初から結託していたんだ。組織を乗っ取るためにゼロを討ったんだ。そうに決まっている。
お姉ちゃんはそんなくだらない理由であいつらに……!!
「ナナリー……シュナイゼル…………!!『黒の騎士団』……殺してやる。殺してやる。殺してやる………!!」
「イロナ…」
ゼラートが何かをいっているが、聞こえない。
「殺してやる……あいつら皆殺しにしてやる………あいつらを支持する奴も全部殺して…世界も全部壊して……滅ぼしてやる…!!」
あんな嘘つき共、この世界から消してやる!!E.U.も一緒に消してやる!!
ウェンディはイロナの豹変が苦しかった。いつも、ゼラートやウェンディにくっついていた可愛らしい子だったのに………
「他に手がなかったとはいえ………俺もシュナイゼルやゼロと良い勝負のペテン師だな。」
「中佐は違います……どのみち、我々は皇帝に従わざるを得ないんですから。」
こう言っては何だが、今のゼロは精神状態を考慮する気があるようには見えない。以前も結果を最優先して、損害や周りの犠牲などお構いなしの風潮があったと聞いている。それが更に拍車がかかっているとしたら……
「他に……言葉もなかったでしょうね。」
こうなっては、元々芽吹き始めていたナナリーとシュナイゼルに対する憎悪を一気に爆発させてやった方が少なくともこの場での彼女を立ち直らせることはできる。
「カウンセラーとしては三流以下だからな、俺は。」
そう、ゼラートが他に手を見出せなかったようにこのまま行けば彼女自身も破滅の道を進む。せめて、喜んでそれを進むことだけは止めなければならない。
『セントガーデンズ』はルルーシュの即位から一週間ほど経った後で蓬莱島へ向かっていた。
そして……ライルが部下やその関係者の生命の保証を見返りにルルーシュに着いたと聞いて。
「クレスさん………私、あの男を殺す。」
「アリア?」
「お父さんを殺したあの男に一太刀浴びせないと気が済まない。お母さんを殺したあいつらはいい気味よ…」
デルヴィーニュとヴィオラは止めようとも思ったが、止める権利がないと知っていたためにそれができなかった。
レイシェフが娘の安全のためとはいえ偽っていたことに荷担していたのは事実なのだ。
「せめて、好きにさせてやることしかできないのももどかしいな。」
「ええ……無理にでも止めるべきはずなのに。」
ライルはペンドラゴンに家族がいた部下達の確認をして、会おうともしたが今は断られた。
「無神経だよな……やはり。」
他人から見れば、自分も同じだが………
「ちっ、こうなると分かっていたのなら後先考えずに苦しめに苦しめて殺してやったモノを。」
憎いアレを殺せなかった苛立ちしかない……あんなモノの腹から生まれたこの身を呪いたくなることがあるというのに。
「ライル様……」
「レイ、君の母君は?」
「大丈夫です…スタッカート家は皇帝暗殺を企てていたけど、失敗して全員殺されたそうです。都合の良い時だけ母や私を認めるあんな連中、死んだ方がせいせいします。」
そういえば、彼女の母方の叔母はスタッカート家に嫁いでいた……会ったこともあるがあの女の同類でライルも大嫌いだった。出来の悪いギースが駄目なら姪をライルに嫁がせようという魂胆が丸見えだった。
「ルルーシュが許してくれるのならば、私は兄様を相手にする。」
「ライル様?」
「……ダモクレスは絶対の制空権を握る要塞だ……そんな物が空の上にいたら、人々は上からフレイヤが落ちてくる恐怖におびえて未来永劫、過ごさなければならなくなる。」
そんな世界、ライルが望んだモノではない。ユーフェミアだって望まない………その上、ナナリーを丸め込んでまで。
しかし……実際のところ、ライルはそんなことどうでもよかった。世界がどうなろうともう知ったことではない。
私が……僕が興味があるのは、その激しい戦争だ。あの女を殺せなかった腹いせにこんないい戦場があるか?
覗き込んだレイが息を飲んで、おびえるほどライルは笑っていた。そして、池田やクラリスも来るかもしれないという興奮。いなくても、藤堂やカレンがいる。あの二人でも充分に歯ごたえがあるだろう………
世界などもう知ったことか……
おかしなモノだ……あれほど固執した世界の変革に興味を失うとは。初めからそんなモノを信じていなかったのか、それとも他に何か手に入れたからなのか。
浅海は蓬莱島に戻ってきた扇達からシュナイゼルと組むと聞いて……
「信用、できるんでしょうか?」
「どうした?」
デルクが心配げに見下ろす。
「………だって、自分の国の人達をあっさりと首都ごと消すような男ですよ?それこそ…ルルーシュを倒したら私たちは用済みになるんじゃあ。」
いくら弟を討つとはいえ、首都の住民を簡単に全て殺せるような男と組むなど………そんな男を浅海は信用できなかった。能力だけならE.U.の政治家や将軍はもちろん、藤堂や星刻より上だ。
だが、浅海にとっては例え能力で劣っていても目の前にいる上官、そして彼の方がずっと信頼できた。
「部下やその人達の家族の安全を条件に着いたんですよね?」
「ああ……自分自身の保身もあるかもしれないが………」
でも……例えそれが方便に過ぎなくても立派だと思う。実際にしばらくは全員の安全が保証されるし、部下達にも火の粉が飛ばない。もしも、本当に自分が二の次だったら……あまりにも悲しい。それでも、自分なんかより遙かに彼は高潔だ。
なのに、私は……周辺の人から水や食料を取り上げて、私たちの反ブリタニア活動の火の粉を他の人がかぶろうと日本のために死ねるなんてエゴを振り回していた。今度は首都をあっさり消せるようなブリタニアの宰相について……
「私……何をしたかったのかしら?」
デルクは何も言わずに浅海の頭を優しくなでた………
「何と言った?」
「もし、ダモクレスとやらに挑むのなら俺も連れてって欲しい。首なりKMFに爆弾くくりつけてくれていい。」
海棠は突然、同行を申し出た。その理由は……
「『黒の騎士団』がいるのなら、バルディーニ将軍や藤堂も出てくる公算が大きい。まあ…奴さん方に色々聞きたいんだよ。」
何を思い、彼らがダモクレスと手を組んだか。いくら何でもシュナイゼルを本気で信用している訳がない、と思いたいが。バルディーニや藤堂なら苦渋の選択という公算が大きい。
分かるんだが……多分、初めからこのときだけの駒扱いだろうね。
しかし、内心で海棠はルルーシュの方がまだ支持ができた。それとなく……シュナイゼルとルルーシュのどちらでも地獄だろうが、それでもルルーシュの方が海棠にとってはマシだ。
天空要塞に君臨するシュナイゼル宰相閣下よりも、天空要塞をも手中に収め、世界の全てを手にしたルルーシュ皇帝の方がね………機械の支配なんかやだよ。人間が直接人間を支配した方が血が通っている。
例え、ダモクレスとフレイヤをルルーシュが持っていても…その支配を海棠は支持した。
「信用できると思うか?」
「できませんね……」
こうなってしまった以上、シュナイゼルと組む以外にない。それは分かる。
バルディーニとマスカールはシュナイゼルが信用できないと星刻に伝えた。流石に星刻はそれも分かっているようだが、現状他に手がないのも事実。
「いっそのこと、各合衆国代表の不信任決議案を出せればよかったんだが……そんな時間が無い。」
既に代表代行が選出されているとはいえ、正規の代表はルルーシュに拘束された彼らだ。救出という大義があるとはいえ、シュナイゼルと利害がかみ合わないのは一目瞭然………
「シュナイゼルめ……各国代表を人質に掌握をはかって、用が済めば我々も消すつもりか。」
しかも、代表代行達は『黒の騎士団』に責任を追及している動きもある。仮にこのまま代表達の救出に成功したとしても、『黒の騎士団』の信用は損なわれる。只でさえ、ゼロを失っている上にブリタニア皇帝に正当な大義名分を与えてしまうという大失態……
「我々もどこまで火の粉をかぶるか分からないが……ことが成功しても扇や星刻は本流から外されるだろう。」
辛辣だが、組織運営や軍事能力が低い扇はともかくゼロに続き星刻や藤堂を欠いた『黒の騎士団』など設立当初の寄せ集めだ……遠からず自滅する。
「地獄行きの片道切符を買わされたわね……」
クラリスは柄にもなく強い酒を何杯も飲んでいた。
「珍しいな……やけ酒など。」
「当たり前よ……シュナイゼルとルルーシュにモノの見事に手玉にとられてるのよ!しかも、扇達がシュナイゼルを信用しきっていたらどう思う?」
数秒うなり、フィリップが答える。
「………脳天気を通り越して、愚か者だな。」
次にリラが…
「無能。」
「馬鹿。」
「間抜け。」
ヴァンとガイルが更に続く。容赦が無いが、本当にシュナイゼルを信用しきっているのならば実際その通りだ。とはいえ、流石にそれは無いだろう……星刻や藤堂がいさめてくれているはず。
「まあ……いくら何でもあの男を完全に信用しているなんて無いと思うけど、どのみち負ければ地獄。勝っても地獄よ。シュナイゼルのことだから、ルルーシュを消せば私たちは用済みだもの。」
シュナイゼルは分かっている。自分達が素直に従わない相手であるということを……だからフレイヤで消すつもりでいるのだ。
「………機械による支配。あの腐った連中がのさばるよりはマシ、でもないわね。あいつらのことだから、絶対にシュナイゼルに尻尾振るわ。」
いや、ルルーシュにも尻尾を振るだろう。奴らなら本当にやりかねない……
「ルルーシュの前にあいつらをフレイヤで消して欲しい。」

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