[38595] コードギアス 戦場のライル B2 BERSERK-47『復讐と贖罪…中編2』 |
- 健 - 2019年07月15日 (月) 23時08分
イロナは息を大きく吸い込んだ。生き別れた姉が、この扉の向こうにいる。
案内の者に通され、イロナは入る。部屋は最低限の物だけある質素な部屋だ……そこで、姉がワンピースを着ていた。
「お姉、ちゃん?」
見たところ、傷一つ無い。だが……中身は?
「お姉ちゃん……私が分かる?イロナだよ。妹のイロナ…」
「………イロ、ナ?」
虚ろな目で姉は反応する。が………
「貴方も…誰かご主人様がいるの?」
主人……あのシルヴィオの女、ミルカ・M・レッドフォードから聞いたとおりだ。
「私はE.U.の軍人になったの。ロシアで助けてくれた外人部隊に所属して…」
「じゃあ、貴方のご主人様はその部隊の指揮官ね…私は『ユーロ・ブリタニア』の貴族様がたくさん抱いてくれて……その後はルーカス様だったの………今度は、誰なの?」
イロナは一泊おき、もう一度話しかける。
「お姉ちゃん……私にはそういう人はいないの。お姉ちゃんももうそういうことはならないから…」
「え?だって……私は殿方に身体をあげて喜ばせるために生きてるのよ?ルーカス様の後のご主人様の第八皇子様はたくさん女の子がいるんでしょう?私もたくさん抱いて貰うのよ…」
どこでライルのことを聞いたか分からないが、姉の中ではライルが新しい主人ということになっているようだ。
「お姉ちゃん……彼はお姉ちゃんをそうする気はないの。」
「じゃあ…私はどうなるの?もう、誰も私を抱いてくれないの?」
聞いていたけど……酷すぎる……本当に壊れてる。あの優しかったお姉ちゃんが………
もう、自分は男に身体を差し出すためのモノだと定義づけている。
「一度、戻るわね。」
部屋を出て、案内の兵士について行くが立ち止まり……そのまま座り込んですすり泣き始めた。
案内の兵士も察したのか、壁により掛かって黙って見守っていた。
ライルは戻り、全員に状況を伝える。
「ルルーシュに着くことで、君たちと家族の生活と命の安全は保証された。」
「けど、大将……俺らは着いても貴族制廃止に反対している親族はどうなるんだ?」
ヴェルドの質問通りだ。反対した貴族達はことごとく処刑されている。
「こちらから説得を行うという許可は得ているが、正直……望みは薄い。すまない、全員の命の安全を保証して貰うのが手一杯だった。連絡ができる者はすぐに親族へ連絡して反乱の動きを見せないように伝えてくれ……少なくとも、ルルーシュの旗下に着いている今なら当面は大丈夫だろう。」
とはいえ、今後の情勢次第ではどうなるか………
「…兄様と姉様にも伝えないと………できれば、私の監視下について貰えればその場での命は助かる…」
「あの………それに関係してなんですけど。捕虜になっている『ロンスヴォー特別機甲連隊』の一つ『フェンリル隊』が現政権の軍として加入したいと。」
「何!?」
シルヴィオはゼラート達と対面していた。
「どういうつもりだ?」
「………俺自身があの皇帝に興味がある。だが……もう一つ理由がある。」
「何だ?」
「………ルーカス・ズ・ブリタニアが囲っていた女の中に部下の親族がいた。ロシア人だ……」
ルーカスが囲っていた女の中に親族が?
「だが、とてもまともとはいえない状態の女がほとんどだぞ。」
手つかずですんだ女達は客分として扱われているが、それ以外は本当に扱いに困っていた。とにかく、男とみれば身体を差し出そうとする女ばかりで……対応は同じ女に任せている。
とはいえ……ナンバーズ出身者は避けねばならない。何が起こるか分からん…同じナンバーズ出身でもライルの軍ではあまりに待遇が違いすぎる。何かの拍子に殺しに発展しかねない。
「だから、だそうだ。ブリタニアの医療とカウンセリングで姉の精神治療をして欲しい。見返りにそちらの兵隊になる……俺達はその引率だ。」
「随分と、豪華な引率だな。」
ゼラートは自分でも驚いていた。ゼロ自身にも興味があった……それは本当だし、仕えてもみたい。しかし……なぜ、イロナの姉がいたというだけでここまで…………
肉親、か。
『血の紋章事件』で親族が死に絶えたゼラートにとって肉親という物は実感が湧きにくい。だが……
イロナは姉の精神を回復して、二人で暮らしたいと願っているか。
おそらく、あの時から絶望視していた姉がどんな形であれ生きていたのがイロナの希望なのだろう。
なぜか、その希望の支えになりたいと思っている自分がいる。
「……ライルを経由してルルーシュに確認しよう。」
エルシリアはライルがルルーシュに着いたと聞いて、やはりと考えた。昔から仲が良かったし……ライルの場合は皇帝暗殺容疑がある。ライルのことだから、自分はともかく部下達だろう。
「セラ、貴方もライルに着いて良いわよ。」
「姉さん?それじゃあ、貴女は?」
「私も正直悩んでいるの……でも、兄上の思惑もルルーシュの思惑も分からない。であれば、自分が最良と思う道を選択するしかないわ。」
ライルの場合、少なくともルルーシュに着けば当面の間部下達の命は保証される。悪く言えば、そちらに意識が向きすぎている。
「悪い方向に転ばなければ良いが……」
ライルは大きなため息をついた……とりあえず、しばらく安全は保証された。最悪の場合は自分を悪役にする形でレイ達が裏切ってくれれば、殺されることはなくなる。
はずなのだが………なぜだ?シュナイゼルの動きについて、胸騒ぎが収まらない。
もう一つ…………仮に、ルルーシュの政権でブリタニアが安定したとしてあの女を今後どうするか。正直、三年近く葛藤を一人で抱え込んでいたクリスタルは今でもまだ許すか否か葛藤がある。だが、あの女は息子の交友関係にも口を挟んでいた。名門でも自分が気に入らなければ文句をつけるほどだ。
そんな女がルルーシュについて、何かしらの働きを見せた息子に対して何をするかは見当がつく。認めたくはないが、やはり親子だ………あの女の思考は読みやすい。
「しばらくはあのまま放置するしかないか。」
次にクリスタルだが……ライル自身は彼女を何とか許そうと思っている。葬儀では彼女も泣いていた。おそらく、罪悪感との板挟みになっていたのだろう。だから……今日まで仕えてきた。償いか、或いはライルからの罰を求めて。
抱いたあの夜で少し聞いたが……クリスタル自身も分からなかったらしい。自分が許されたいのか、殺されたいのか。しかし……ジュリアとの友情が本物であることはライル自身も信じられる。見ていて羨ましいくらいに仲が良かったのだ…それ故に葛藤や後悔も本物だろう。
黙っていたことへの怒りもあるが………あれだけ泣いていた。ずっと引きずっていたかと思うと…
だから、自分はクリスタルを信じて許そうと悩んでいる。同時に、許しこそが彼女への罰だろう。

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