待っている
昨日の夜を
願っている
朝が来ないことを
電車に揺られたドアのそばで
願ってもいない朝日から顔を背け
始発の人の少ない車内の
その閉鎖された空間を埋め尽くす
その不思議な空気に
どうしようもない寂しさを覚える
私が手に入れた
あの温かさ
昨日の夜の話
ベットの上で
確かに感じた
温もり
ゴトンッ ゴトンッ
容赦なく風を切り続ける電車
その冷徹さ
彼は消してそれを望んでいるわけではないのだろうに
それ以外許されない悲しい存在の中で
携帯音楽機器に繋がれたイヤホンから
包まれるような温かさを感じたくて
忙しい日々の中
必死に探してすがり付いた曲を聴く
挙動不審な目を隠したくて
目いっぱい帽子を深くかぶる
膝下まで伸びた茶色のコート
白と黒のマフラー
それでも
寒い
「夜がいつまでも続けばいい」
『いや違うの』
「あなたのそばにいたい」
朝起きて
貴方の迷惑そうな目を見たくなくて
手をかけたドアノブの冷たさが
私の欲望を駆り立てて
後ろ髪を引く
あなたに触れたい
触れられたい
声を聞きたい
声をかけられたい
その欲を醜く思う
歯を食いしばって
ドアを開けて
白い息をゼエゼエと吐きながら
願ってもいない朝日を浴びながら
駅え向かう
静寂さを湛えたホーム
失った温もりを欲するからだ
汚い
汚い
汚れてる
締め付けるような胸の痛みに蹲る
膝を抱える
電車の到着を告げるスピーカー
こちらに向かってくる音
息を思いっきり吸って立ち上がる
望んでもいない朝日に背を向け 顔を背け
不思議な空気を湛える閉鎖空間の中
どうしようもない絶望を胸に秘める
私はいつまで生きねばならぬ?
その問いに答えるものなし…