先輩の打ったボールがファール。場外へ飛んでいく。飛んでった方に一番近いのは俺だったから、俺が取りに行くことになる。体育館につながる通路に向かって小走り。ボールを見つければそれを投げればいいから後は楽。
「あ」
そこには先客――ここの女子生徒がいた。それぞれの部活が活動しているこの時間に制服を着てるから、運動部じゃないことは確かだろう。
制服についた学年札を見れば、同じクラスの人間だというのが分かった。見覚えのある顔だとは思ったけど、名前までは思い出せない。
そして、手には聖アの売店で売ってる校章の入った赤いバインダー。確かこれは……
「あ、ごっ、ごめんなさい、これ……」
彼女は白球を差し出す。俺が探していたものだ。
「ありがとう、体に当たってない?」
「大丈夫、です。まん前に飛んできて、びっくりしただけです」
さっきからぎこちない人だ。……もしかしてこの人は俺のことを先輩だと思ってるんじゃないだろうか。
そうだ思い出した。このバインダーは聖歌隊のものだ。それに気づくと「ごめん、クワイヤー室にいくんだよね?」と言ってからここへ来たように小走り。
「皆生君、部活、が、がんばってね!」
そんな声を背中に受けた。なんだ、同級生って知ってたのか。
*
出てきたのでお蔵だし。